第十五話「とある皇女と侍の再会」
帝都郊外難民キャンプ北側
それを見ていたワーウルフ達は一気に本能が冷え込み理性を取り戻しつつあった。
彼らがワーウルフとなった時に最初に得たのは異常なまでの嗅覚だった。
体が徐々に変化していき自身が生まれ変わっていく感覚が感じられる。
身体能力が向上し、反応速度があがった。
それと同時に飢餓感が強くなった。一日にてに入る粗末な食料では満足でいなくなった。
自身が人外の存在へと変化していることに気がつかないものもいたがそういったものは真っ先に理性を失ってしまっていた。
そして本能が彼らを支配した。
気がつくと彼らの足元には髄まで食い尽くされた白いなにかが転がっていた。
現在の帝都北側の難民キャンプはこうして少しずつ人外の闊歩する魔境へと姿を変えつつあったのだ。
そんな中に食料を大量に持った人間が通ればどうなるのか?
理性を半ば失った彼らを集めてしまっても致し方ない。
だが彼らにも誤算があった。その集団には本能に支配された彼らが避ける強い存在が混じっていたのだ。
そんな中一人の少年がその一団から離れた。
お預けをくらっていた彼らの鬱憤はそんな少年に向かったのだが・・・・・・
「ぐああああああああああああああああああああああ。」
ソウマに襲いかかった最初の一匹は斬られた顔をおさえてのたうち回っていた。
「そんな・・・・」
ソウマの回りを囲っていたワーウルフとおぼしき男が呟いた。
ワーウルフの強化された感覚が告げている。この少年はくみしやすいはずだと。
あの一団の中に混じっていた強い気配はあんなにも強そうだった。しかしこの少年からはその強さを感じない。だからこれは一方的な狩りになるはずだったのだ。
しかし結果は真逆だった。人間には反応できないであろう速度で肉薄した仲間が地面を転げている。
強化された嗅覚が仲間の血の匂いをかぎとっていた。
今まで襲ってきた人間とは明らかに違う。
たまたま入り込んできた冒険者ですら数の力と強靭な肉体の前には彼らの餌さとなるしかなかったのだ。
丈夫な上に獣毛に覆われた皮膚は生半可な刃物など通さない。
だというのにワーウルフは自身の顔面をおさえて転げ回っている。
向上した反応速度すらも上回る神速の斬撃にソウマを取り囲んでいたワーウルフ達はすっかり怯えてしまっていた。
「くそっ一斉にかかるぞ!!」
恐怖を乗り越えたのこそれともその恐怖ゆえか、新たに三匹のワーウルフがソウマの正面から襲いかかった。
はぜる地面。一瞬で詰められる間合い。
中央のワーウルフが振り上げた爪がソウマに降り下ろされる。
ワーウルフが(とらえた)と思った。すかさず両側のワーウルフもソウマを挟み込むようにその顎を爪を繰り出す。
当たれば人間など挽き肉になってしまう、そんな暴風のような三連撃。
しかしそれらがソウマをとらえることはなかった。
かわし、いなし、打ち落とす。
一連の動作は決して早くはない。しかし流れるような動きからは一切の無駄を感じなかった。
「ぐぎゃあああああああああああああああああああああ!」
その中の一体が鼻先を斬られた。
慌てて飛び退く残りの二体のうちの一体にソウマは切りかかった。
鋭い横凪ぎの一撃。
「ぐう」
これを向上した反射神経で後ろにのけぞってかわすワーウルフ。
その延びきった体制のからだが突然浮き上がった。
「へっ?」
横凪ぎの一撃の勢いをそのままに一回転したソウマが放つ足払いに体を掬い上げられたのだ。
頭部への一撃。
頭に叩きつけられた刀の峰がワーウルフの意識を刈り取った。
おかしい。この状況はおかしい。なんの肉体的強化もない加護も魔法の付与さえない純粋な人間の戦闘能力ではなかった。
そもそもこの世界の戦闘は魔力や加護を用いて肉体を強化するところから始まる。
だというのにソウマからはその気配が感じられない。
詠唱をしたわけでもない。
祈りを捧げたわけでもない。
それどころかソウマのからだからは一切の魔力が(・・・・・・)感じられない(・・・・・・)。
ただの人間・・・いや、その辺の農夫や女子供にすら若干の魔力がある。
つまりそれ以下の存在。この世界の底辺。冒険者にすらなれないはずだ。
どというのに
転化ばかりとはいえ中級の冒険者が単体では手も足もでないワーウルフ三体も転がされている。
「貴様・・・・いったい・・・。」
そんなワーウルフの頭上から可愛らしい声が響いた。
「たーーーーーーりゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
突如少女が空から飛来した。その足元には一匹のワーウルフが・・・・・・
グシャッ!!!
顔面を頭上から蹴り抜かれたあわれなワーウルフはそのままのけぞりごろごろと吹き飛ばされてしまった。
「助けに来たわソウマ!」
それはいつぞやに街中でであったにこらと名乗る少女だった。
「ニコラさんだったかな?応援にしては少し早くないか?」
ソウマから警戒の意思を感じたニコラが慌てて弁明する。
「ええっとこの近くで騎士団の人たちが炊き出しをしてて・・・」
「姫!お待ちください!お一人では危険です!!」
そんな声がニコラが飛んできた方から聞こえてきた。
それは奇妙な格好の騎士だった。
「あなた・・・・その格好で来たのね。」
その騎士は赤毛でプレートメイルを着ていた。そしてその上からエプロンと三角巾を着けていた。
「姫?君のことかい?」
「あ~~~色々と面倒なことに・・・・なったわね!!!」
ニコラが体をねじる。
そこまで慎重の高くないソウマと比べてもまだ低い身体から繰り出されたとは思えない鞭のような蹴りが背後から迫ってきたワーウルフの胴体をとらえた。
「グワァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
ドップラー効果で声を置き去りにしながら後方へと退場していった。
「ひとまずこの場を納めましょう。」
指をバキバキとならすニコラに初対面の騎士と剣士が互いに顔を見合わせうんうんと頷いた。
ここにワーウルフたちの悪夢が始まった。




