第一話「とある皇女の日常」
正確にはこの王女様は皇女さまなのですが王女様で統一していこうかと思います。
構想段階では王女様の国は王国だったのです。その名残です。
・・・・・何かのきっかけで心が折れたら直すかもしれません。
まずはニコルジア様の皇女としての一日をご覧ください。
とある城の一角〈王女の私室〉にて
頭上を見上げるとそこには深紅の絨毯があった。頭はそこに向かってゆっくりと落とされ鼻先がつくかつかないかの時点で頭は絨毯から離れていく。
「・・・361。」
誰もいない装飾過多な部屋に一人。私は数を数える。
「・・・362。」
その光景を見るものは唖然とする。白を基調としたドロワーズ。絹で織られた上等な布地のシャツを着た少女が・・・
倒立腕立て伏せをしながら300回を折り返した数を数えていれば。
この国では基本的に女性はどこかおしとやかなものとされている。
そんな女性が騎士団に所属している兵士も真っ青な鍛練を汗ひとつ流さずにしているのだ。
しかし私がここ五年ほどやっている朝の日課なのである。
「・・・400。」
この細い腕にどれだけの筋肉を内包しているのだろうか?
最近は特に鍛えることに重きを置いているのでちょっとわからない。
「《ヒール》。」
さらにわたしは一番簡単な回復術をかけて腕に起きたわずかな筋肉痛をなおした。
次は格闘の型を確認し・・・
朝の日課の最後の鍛練を終えて一息。
コンコン。
そのタイミングを見計らったかのようやな部屋の扉が叩かれた。
「あっちょっとまっ・・。」
問答無用でドアが勢いよく開いた。
「姫様おはようございます。朝食の準備が整いましてございます。お召しかえをお願いいたします。」
額に青筋を浮かべた侍女がはいってきた。
「わっ・・・・わかったわ。」
彼女は冷や汗を流す。自分の格好を改めて認識した。
前述の通り彼女の格好は薄着のシャツとドロワーズ。
下着もいいところである。
彼女直轄の侍女メイベル・ストウナーは下級貴族の出身で礼儀作法にうるさいところがある。
「姫様。」
その形相は笑顔を張り付けているがそのうらには鬼も裸足で逃げ出す何かがいるに違いない。
「はい。」
私は下着姿で部屋のなかを動き回っていたことをメイベルにコッテリ絞られた。
△△△
メイベルに先導され朝食をすませた私は城内の大図書館に向かっていた。
そこには暁帝国建国以来集められた世界中の書物が納められている。
その蔵書数は膨大でそんな図書館の中には本の管理をする司書と本に用事のある文官が忙しそうに働いた。
私はその中の一人に声をかける。
「教授、おはようございます。」
背の高い本棚の本をとるためのはしごに腰かけた白髪、白衣の人物。エドワード・ブルッフ教授である。
「おや、姫君。このような高いところから失礼します。今日はどういったご用件で?」
王族に対応としては無礼討ちもあり得そうなほどのものではあるがこの教授は現皇帝の友人であり私の個人的な家庭教師でもある。この程度のことでおとがめなどない。
「お忘れですか?今日は東大陸・元魔王領の現状についての講義を聞かせていただけると言う話でしたよ?」
私は少し不機嫌を装って見せた。この城の中で皇族の機嫌を損ねるということは命にも直結しかねない大事だったりするのでさりげなく回りは緊張していたりするがそれぐらいしないとこの教授は積極的に動いてくれないのだ。
「これは失礼しました。ではまいりましょうか。」
私とブルッフ教授は図書館の机へと場所を移した。この教授はめちゃくちゃだ。皇族に自身の足で勉強に来させ時間の約束を守らない。しかしそれが許されてしまうほどの立場以外の何かをこの人は持っている。
「さて、前回は現在の暁帝国とその近郊の国々の経済状況についてご説明したかとおもいますが内容確認させていただいても?」
「ええ。よろしくお願いします。」
そういって私は自身の得た知識を披露する。
『暁帝国』それは千年の歴史を持つ大帝国だ。東大陸の中央部に位置する平野と湿地帯。その中央部を流れる『ラジエル』の大河に覆い被さるように建設された帝国の象徴『ロードエルメロイ』城を中心に交易と農業で栄える首都モルゲンロートを中心に広がる国家郡の総称である。
主産業は帝国の中央部が小麦と牧畜、南部と北部の山々から出土する鉄鉱石、西海岸の海産物等があげられる。
気候は一年を通して安定しており気温の上下こそあれ雨季と乾期以外はおおむね人がすむのに適した環境といえる。
現在この帝国では経済力の低下と貧困がが大きな問題となっている。
ちょうど五年前の魔王討伐からその兆候が出始め帝国を始め諸外国、教会などがこの対策に乗り出しているが食料問題の少ない中央諸国以外ではその対策も大きく実を結んでいない。
「これはあくまで私見なのですが。まだ戦争が激化していたときの方がこういった死者や飢餓貧困はおきなかったのでは?」
私の投げかけた問いに教授は「ふむ」と一声考えてから
「確かにその通りでしょうですがかの聖魔大戦は五十年以上続いておりました。いづれはどちらかの敗北、あるいあ停戦と言う形でこういった事態に陥っていたのでしょう。」
「早いか遅いかの違いでしかないと言うことですね。」
「左様でございます。さらに言うのであれば戦争中であろうと結局貧困に飢餓はございました。このまま経済の低迷を許せば人類は遠からず滅びの道を歩むこととなりましょうな。」
「・・・・・・。」
私は沈黙するほかなかった。何を隠そう、それを飄々と言ってのけるこの教授にたいしてである。
「ずいぶんと他人事ですね?」
ちょっとイラッとして当たりがきつくなってしまった。。
「何せ事態が致命的なことになるのはあと二十年ほど先の話だと思っていましたからな。今年で五十と八になります。流石にその頃には天に召されていることでしょうと思っていたのですが・・・勇者殿にしてやられました。」
やっぱりこの教授は食えない。きっと煮ても焼いても。
「さて、それでは現在の魔王領の話でしたな?」
この話はおしまいとばかりにバッサリと切られてしまった。
「勇者どのが魔王『ガラディス』を討伐し優位にたった連合軍が勝利を納めて早五年。現在の魔王領は魔城『バルディウム』の解体が事実上不可能なこともあり依然警戒状態が続いております。魔族軍は先の大戦で残党と呼ぶにはあまりにも残存兵力が多かったですからな。」
「聞き及んでいます。魔王討伐を聞きその後は四散するように西大陸の中央部卯から撤退していったと。あの城は重要拠点ではなかったのですか?」
「その辺はさっぱりですな。前線に出ている将校の皆さんはあまり魔族側の文化に興味がないようでしたからな。」
「出来れば調査したいところね。」
「姫様は魔族のことに関して貪欲なぐらい知識をお求めなのですな・・・ふむ、少し知己に当たってみますわい。何か面白い話を聞くことができたら姫様にもお教えしますぞ。」
その後は細かい情勢を聞いてその日の講義は終了となった。