第十二話「とある侍の森林探索Ⅱ」
帝都郊外北側の難民キャンプのばずれにて
一同は『暗がりの森』での採集のために移動を開始していた。
先頭を歩くのは道案内を兼ねたソウマとルリ。
そのあとに八世帯の家族四十六人。
最後尾は巨漢の冒険者バルカンが続いていた。
今ソウマの回りでは話の続きをせがむ子供たちが背中にからのかごを背負いながら群がっていた。
「お兄ちゃんさっきの話の続き!」
「早く聞かせてくれよ~」
「・・・・」わくわく!
大人たちもソウマの話に聞き耳をたてていた。
安全を証明するのは困難なはずなのだがなぜか話はすんなりと受け入れられた。
大人たちいわくそんな大層な話は自分達のてに余るので現地で判断するとのことだった。
それでは遅いのでは?と冒険者をしているソウマやバルガスなどは思うのだが一般人なのだから仕方ないのかもしれない。
「ソウマにいちゃ~ん」
「あ~はいはい。さて、森の奥にあった暗闇の前で俺は挨拶をしたんだ。そしたら圧し殺したような笑い声が聞こえてきたんだ・・・・・」
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽
『あはははははははははははははは!』
その声は目の前の闇の中から聞こえてきた。
ソウマはその場を動かなかった。動じてもいない。まるでこうなることが分かっていたかのように微動だにしない。
『人間の礼儀作法など森のなかでは無意味。面をあげられよ。』
そういわれてようやくソウマは顔をあげた。
いつのまにか奥にあった闇が晴そこには木々のない開けた場所があった。その中程に大きな熊が横たわっていた。
『ソウマといったか・・・・近う寄れ。』
「失礼します。」
ソウマは立ち上がると熊の近くまでいった。
それは大きな熊だった。ここまでの案内をしてくれた熊が二メートルほどだったのにたいしてこの熊は全長がおよそ五メートルはある。小さな小屋のような巨体だ。
しかしソウマはその熊のすぐ近くに腰を下ろした。
『くくく・・・物怖じもせんかよいよい。ソウマとやら我輩は≪闇纏いのグラームド≫この森の闇霊を通してソナタのことはずっと見ておったよ。隙のない動きと無尽蔵とも言える体力、そして我ら森の民のごとき方向感覚よほどの戦士とお見受けいたす。』
「おへめに預かり光栄のいたり。」
『堅いな。我らは力あるものを尊ぶ。もっとくだけよ。そなたはこの森の者共に認められておるのだぞ。』
グラームドが言うにはここに来るまでに森の動物たちが遠巻きにしかソウマを観察しなかったのはソウマの中のなにかを感じ取って警戒していたかららしい。
『さて、我になにようか?ここは人が足を踏み入れるにはいささか深いぞ?』
「はい。では単刀直入に・・・・明日の中天から夕刻にかけてこの『暗がりの森』で山の恵みを狩ることをお許しいただけませんでしょうか?」
グラームドはポカンといったような顔をした。
『お主よもやそのようなことを言うためにこのような奥地まで来たというのか?』
「はい。この森のなかはグラームド殿のの庭も同じ。さすれば土足で踏み荒らすのはあなたの怒りを買うこととなるやも知れません。一言お断りをするのが礼儀ではないかと。」
『ソウマよ・・・・お主いつの時代の人間なのだ?最後にここを訪れ我に何かをこうたもの五百年前が最後。それ以降いかなる人属もこの闇の帳が降りた『暗がりの森』の奥地を訪れたものはおらんのだぞ?
しかもその願いが山の恵みとはなんともまー無欲なことよ。その言い方からするに狩猟が目的ではないのだろいう?』
「ええおそらく肉の類は近くの大河から魚などを取ってきてしのいでいると思われますので。私が欲しているのは森の恵みから取れる栄養です。」
この世界には栄養学の知識はそこまで根付いていない。学問というものが浸透しておらず識字率も低いからだ。当然研究者も少なく学者や一部の貴族以外では物好きな旅商人なんかがたまに茶飲み話のネタに知っている程度がせいぜいだ。
『我らの領土はソナタがここに来るまでにわたってきた川から先だ。それより手前のことには干渉せん。草木を集めるもウサギを狩るも好きにするがいい。』
そういいつつもグラームドは考えるそぶりを見せた。
『・・・しかしそうだな。せっかくここまで義理を通しに着てくれたのだ。しかも手みあげまで持ってきた。フム、そうだ!この《闇まといのグラームド》明日の中天から夕刻までのそなたたち一行の闇を晴らして見せよう。いかかが?』
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽
「《闇まといのグラームド》はそういうと獣に似つかわしくないニタリとした顔で俺に笑いかけてきたんだ。」
「ウーン・・・ソウマ兄ちゃんの話はすっごく面白いけどさすがに信じられないよ。」
「うんうん。森の長に会ったっている話も信じられないのにそんな大きな長が手を貸してくれるなんて・・・。」
子供たちはソウマの話が信じられなかったようだ。
「・・・わたしは・・信じる。ソウマ・・・そんな・・嘘つかない。」
ソウマのすぐ後ろを歩いていたルリがぼそぼそとつぶやいた。
「まあ、いきなりこんな話を信じるのもどうかと思うぞ。とわいえ事実は事実。証拠を見せれば信じてもらえるな?」
「証拠?」
子供たちはもちろん後ろでしっかりと話を聞いていた大人たちもソウマの話に首をかしげていた。
「そろそろかな。」
一同はすでに街道を外れて『暗がりの森』の手前まで来ていた。
「あれ?森が?」
おそらくはその森を見たことのある大人から疑問の声が上がった。
そんななかバルガスが集団の後ろから歩いてきた。
「お前たちはこういうことをやらかすからわからん。腕っぷしはそこそこだって・・・こんなことができちまうんだからな。」
バルガスが先陣を切って森の中に足を踏み入れた。
そこははたして『暗がりの森』と読んでいいものだろいうか?
「ねー本当にここが『暗がりの森』なの?」
「確かに薄暗いけどあんま普通の森と変わらない気がするよ?」
子供が言葉はもっともだ。今の『暗がりの森』は本当にタダの薄暗い森でしかなかった。
「闇霊がほとんど感じられん。これが・・・グラームドの手助けなのか?」
「それだけじゃありません。」
そういうとソウマは一団の先頭で振り返った。
「みなさんに『闇まといのグラームド』から伝言です。「その日森の闇はそなたたちの味方となる。そなたたちの欲するものを避け、そなたたちを害するものたちより包み隠しソナタたちをたすけるだろう。」と
森の木々を見てください。」
ソウマに促されて難民キャンプの面々が森の木を見回す。すると薄暗い森のところどころに明るい場所があった。しかもそんな場所に限って何かの木の実やキノコなどがあるのだ。
「おお!これはすごい。」
「これなら子供たちでも簡単に食べ物を見つけられる!」
「秋の森にこんなに沢山の木の実があるなんて。」
「お?あのキノコは食べたことがあるぞ!焼くとなかなか上手いんだ。」
「あのトゲトゲしたのは何だ?」
みんななにか希望を見つけたように森の中を見つめていた。
「さあ皆さん一つ収穫を始めましょう。」