第十一話「とある侍の森林探索Ⅰ」
そして一日がたちアオイ屋の店先にて。
「・・・・・・何人集めたんだ?」
ソウマは呆れ返っていた。
アオイ屋の前に三十人以上の男女が集まっていた。
フランツは申し訳なさそうに頭をかいていた。
「ああ・・・その・・四十六人だ。給料はともかく食料とそれを手に入れる方法がわかるのが大きかったらしい。俺の話を聞いてくれたのは内の家族を含めて八世帯だ。みんな家族全員んで参加したいってよ。」
「・・・わかった。何とかしよう。」
ガクリとソウマがうなだれる。
思案を巡らせるがあまりいいアイデアは浮かんでこない。ソウマが想定していたよりもこの仕事にのってくる人数が多かったのだ。
「くくく・・・ソウマ。何んか面白そうなことをしてるな?」
そんなソウマの後ろに現れたのは熊のような大男だった。
「ああ、バルガスさん・・・まだ調査の依頼を受けてから一日もたってませんよ?様子見の査定には早すぎませんか?」
「いや何お前さんが面白そうなことを始めると聞いてな。確か半日で銀貨一枚だろ?追加に銀貨一枚で護衛を請け負おう。」
「・・・加えて貸し一つって所ですかね。わかりました、よろしくお願いします。」
バルガスはガハハと笑いながらソウマの肩を叩いた。
「未熟者め、自信のも津情報の重要性にめを向けることも冒険者の仕事だ。お前さんはその辺がおろそかだといつもいってるだろう?」
陽気な声音とは裏腹にバルガスの目は怖かった。情報の扱いを間違えるのは冒険者としてはあまりよい間違えではない時にそんな失敗が命を落とす原因にすらなりえるのだから・・・
「それでは改めて・・・皆さんこの方はお手伝いと護衛を引き受けてくださった冒険者でバルガスさんといいます。凄腕の冒険者なので安心して仕事に励んでください。
さてでは仕事内容の確認ですが皆さんにお願いしたいのは食材の最終とその食材の運搬です。採集に向かうのは帝国近郊の『暗がりの森』になります。」
ソウマの言う『暗がりの森』とは帝都の北側の街道を少し外れたところにある森で木々の密集度合いが高く常時薄暗い上に少量だが闇精が住み着いてしまっていて明かりを持ち込んでもそこまでは明くるくならないという特徴がある。
しかしそれだけに余り人が立ち入らず森林資源が手付かずで残っている。問題は・・・
「『暗がりのの森』だってあそこは森熊の根城じゃないか!危険過ぎる。」
おそらく帝国に近い集落の出のものが異議を唱えた。それを聞いた人達が不安そうな顔をしていたのだが
「その辺はご心配なく。許可をもらってきましたので。」
ソウマの一言で全員が首をかしげた。
「おいソウマ。それじゃわからん。わかるように説明しろ。」
バルガスが説明を促す。
「あっそうでしたね。この辺には山のは入方知ってる人っていないんでしたっけそれでは・・・」
そういうとソウマは話始めた。
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時刻はさかのぼり前日
フランツと別れたソウマは店番をルリにまかせて出掛ける準備を始めていた。
「ルリ、ここの商品は手間隙こそかけたけど原価はただのものが多いからもし身の危険を感じたら逃げるんだよ?」
この辺りは難民キャンプの中でも比較的城壁に近く治安がいいからこその判断だ。
ルリはコクりと頷いた。
「・・・お出かけ?」
「ああ夕方までには戻るよ。もしつり銭が切れそうになったら奥のから箱のそこに隠してあるから使ってくれ。」
「わかった。行ってらっしゃい。」
ルリは表情こそ動かないがその姿勢からはやる気が感じられた。
「ああ、行ってきます。」
そういうとソウマは背中に大きな風呂敷を背負い水の入った竹の筒を腰に下げて難民キャンプの北側を抜けて街道をそれ帝都で『暗がりの森』と呼ばれて避けられている森のなかに入っていった。
「うむ。やはり森の中は町と違って空気がいいな。」
森のなかに入ったソウマが街道から完全に見えない一まで来るとその進行速度は一気に上がった。秋に入り長い草の少なくなった森の中はソウマにとって進みやすい場所だった。落ち葉が積もって柔らかい地面も足を絡めとる木の根もソウマには関係ない。まるで一陣の風が抜ける化のごとくみるみるうちに森の奥に入っていってしまった。
(思ったより生き物の気配がないな・・・。)
リスやウサギを姿を時々見かけるも(冬毛で茶色が濃く森と一体化しているので普通は見つけられない)お目当ての存在がなかなか見当たらない。
(もう少し奥までいってみるか。)
帝都に来たときも思ったがこの辺りは手付かずの自然が多くまた≪食料≫が豊富だった。
木に巻き付いた蔦の葉の形おそらく秋イモや長芋がかなり自生しているしているし栗の木もそれなりに見かけた。薄暗い森であることからキノコの類いも多く見られる。
(この森が使えるならかなりの量の食料が手にはいる・・・絶対探し当てないとな。)
ソウマは更に森の奥へ奥へと入っていく。
そして一時間位は走っただろうか。
ソウマの前に小さい川が流れていた。
川底は浅く水の流れも緩やかだ、おそらく魚もそこそこいるだろう。
「ここが境界線かな?」
そしてソウマはその川の向こうから視線を感じていた。
「・・・熊だな。」
おそらくは野生の熊に類するものだろう。
魔物特有の禍々しさは感じない。
気配を隠してはいるが川にたどり着いたソウマをじっと見つめている。
「見つけたかな?」
そう呟いたソウマは息を大きく吸った。
「もし~~~!この森のお方でしょうか?相談したいことがございます!長どのに取り次いでもらえませんか?」
ソウマは川の向こうの気配に向かって大声で呼び掛けた。
その声に驚いた鳥たちが木の枝を揺らしながら一斉に飛び立った。
ソウマを見ていた気配は動かない。
もう一声かけようかとソウマが考え始めていた時に近くの茂みが揺れた。
中から出てきたのは二メートルはあろうかという熊だった。
通常なら逃げ出すところだがソウマは準備しておいたものを荷物から取り出す。
それは以前に作ったもので魚の薫製だった。
「お納めください。」
ソウマは筒みごとその薫製を地面に置きそのあと薫製から距離をとった。
熊は薫製に近づくと鼻で臭いをかぎはじめる。
危険がないと判断したのか熊は包みをくわえた。そのままソウマの方を見ると首を振ってついてくるように促している。
「ありがとうございます。」
しばらく川に沿って川上に歩くと川のそこがずいぶんと浅いところに来た熊は浅瀬を通って川をわたる。
ソウマは川から頭を出している石を足場にして水に足をつけずに川をわたった。
ソウマが方をわたったのを確認した熊がまた歩みを進める。
ここまで来れば誰の間にも熊がソウマをどこかに案内しているようにしか見えない。
『暗がりの森』の奥地を一匹の熊と人間があるいている奇妙な光景がしばらく続いた。
(大分生き物の気配が強くなってきたな。)
際ほどまでは小動物が本当に少しいる程度だったが今は違う。木上では猿がこちらをうかがっているし案内をしている熊以外の熊も見かかけた。
森の中の生き物がソウマを観察していた。
そんな動物たちの視線がはたととだえた。
熊はソウマの方を見つめると前足で地面を二度叩いた。
その足元には妙に平たい石が置かれていた。
ソウマはいつも腰に指している刀を石の上に置くと持ってきた風呂敷から大きな酒壺と杯、先程よりも大きな薫製の塊を取り出した。
「これはいいだろ?手ぶらじゃ流石に申し訳ないからな。」
案内の熊は首をかしげた。しかし変化があった。
森全体に風が吹きソウマを奥へと誘うように抜けていったのだ。
「いいみたいだな、案内ありがとう。帰りは帰れるからいいよ。」
そういうとソウマは更に奥へと進んでいった。
その先には深い闇が広がっていた
ソウマはその闇に向かって形膝をついて頭を下げた。
「お初にお目にかかります。森のお方、私は旅から旅への商人
ソウマ・ハクレイと申すもの。この度はお願いがありこうしてご挨拶にうかがった次第です。」
そういって傍らの酒壷と薫製を差し出した。
「こちらはつまらないものですがどうかお納めください。」
しばらくの沈黙があった。
《くくく・・・》
圧し殺したような笑い声が聞こえてきた。
《アハハハハハハハハハ》
やがてそれは大きな笑い声となった。