第十話「とある侍と食糧問題・・・姫の無念」
帝都郊外難民キャンプ雑貨屋アオイにて
「こりゃなんだい?」
「ワラジですよ。こうやって履くんです。」
そういってソウマは自分の足にワラジをはめて見せた。
「へーなるほど。こんな便利なものがあったのか、しかもこんなに安く・・っっっっっくぁあ・一つもらってもいいかな。」
「・・・銅貨二枚になりま・・す。」
商品の説明はソウマが、お会計は金銭の勉強をかねてルリが行っていた。
ソウマとしても意外だったのだがワラジの売れ行きがよかった。町の中で商売をしていたときは物珍しくてかっていく客がほとんどだったが郊外の難民キャンプでは履物として見られているように感じられた。
「ふむ・・まったくお金を持っていないわけじゃない・・・か。」
ソウマは考えをめぐらす。大規模な軍縮と就職難ですむところを失った人たちの作り出した難民キャンプ。
しかすべての人がまったく貧乏で飢えを待つのみと言うのとは少し様子が違うようだ。
(だとしたら)
ソウマは思ったもしかしたら自分にも何か出来ることがあるかもしれないと。
おそらくここにいる人間は一切の財産も持たずに夜逃げ同然で出てきた人間と言うわけではないのだろうということが何となくわかる。
「なあ、あんた仕事探してたりするか?」
ワラジを買った男が訝しむようなような表情でソウマを見た。
「なんだよ藪から棒に・・・・。」
「いや、初対面でないわな・・・悪いちょっと気になってな。」
あまり踏み込んでもいい話題でもないだろうとソウマは話を切ろうとしたのだが
「もし・・・何かあるなら教えてほしい。」
男は沈痛そうな面持ちでうつむいてしまった。
「・・・わかったがタダじゃない。」
「流民からたかろうってか!」
男が憤るのをソウマは手を前に出して制した。
「話は最後まで聞けよ。あんたに紹介したい仕事があるのはほんとだ。ただ俺も情報がほしいんだ。」
そういうとソウマは腰に挿していた刀の柄を揺すった。
そこにかけていた冒険者証のコインが揺れる。
「あんた冒険者だったのか?てっきり物好きな旅商人だと思ったぜ。」
「さて、話の続きだが・・・この難民キャンプのことだ。食料は行き届いてるか?」
「いや完全じゃないな。俺がいる地域はそうでもないが帝都から離れれば離れるほど物資が行き届かなくなってるらしい・・・あくまでうわさなんだが。」
(だとするとギルドで聞いた交渉役が何かに襲われた話しはそのあたりで起こったってことか・・・。)
「なあ仕事の話って何なんだ?」
ソウマの沈黙に耐えられなくなった男が先ほどのソウマの提案の内容を聞きたがった。
「なに簡単な話しだよ。食べ物を探すんだ・・・どっちかっていうと荷物もちに近いかな?」
ソウマの提案に男は疑問を投げかける。
「そんなに食べ物が取れるのか?それこそ魔物が出るような奥地に行かなきゃ行けないとかじゃないのか?」
男の疑問にソウマは首を振って答えた。
「多少奥にはいくがそんなに危ないところには行かない。俺の弟子も連れてく。」
ソウマは隣のルリの頭をポンポンとたたいた。
「それよりも人手を集めてくれると助かる。おそらく結構な量になるからな。」
男はまだ不承不承といった顔だったが次の質問をした。
「報酬は?」
短くしかし一番肝心の部分を問う。
「半日で銀貨一枚、さらに取れたものの一部を進呈し加えてそれのおいしい食べ方なんかも教えよう。どうだ?」
男は考えた・・・半日で銀貨一枚は人を雇うには少し安いが採取を手伝えば食べ物を分けてもらえるという。しかもそれらの調理方法まで教えてもらえるのだ。正直な端をするなら男にはそこまで余裕は無かった。元いた場所は領主が戦争の準備だとか言って財政的に滅茶苦茶に荒らしてしまいもうどうしよもなくなってしまっていた。帰る場所がない支援の食料や炊き出しが順当に行き届いているわけでもない。妻子のある男には多少危険な話であったがこの話しをける選択肢は無かった。もとはまともな靴をはじめとした仕事に必要なもの手に入れて何とか職にありつこうと考えていたのだが。
「わかった、手伝うよ。俺の名前はフランツだ。何人ぐらい人数を集めればいい?」
「そうだな・・・フランツとりあえず五人ほど頼めるか。不測の事態が起こったときに俺が一人でカバーできるのがそれぐらいなんだ。力仕事も結構頼みたいから男手がいい。」
フランツはうなずいた。
「わかった。声をかけてみる。食料が手に入るなら話を聞いてくれる人間はそれなりにいると思うよ。」
「いつでもいいができれば早くにいきたい。人を集めるのにどれぐらいかかる?」
「俺と同じ場所から逃げてきたやつらがそれなりにいる。知り合いも多いし一日に一度みんなで集まるんだ。運がよければ明日にでも五人ぐらい捕まるかもしれない。」
「そうかわかった。俺は明日もこの場所で店をやるから集まったら声をかけてくれ。」
「おう。よろしく頼むぜ。依頼主さん。」
ソウマとフランツが握手を交わした。
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一方その頃
「ニコラ殿落ち着いてください!!」
「ええい、離しなさい!!」
とある貴族風な少女を騎士のような青年が羽交い絞めにして止めていた。
「今にも飢えようとしている子供がいるのよ助けずして何が貴族ですか!!」
ニコラはヴォルフを引き剥がそうとしていた。
「その考えはご立派です。おできになるのでしょう・・・それもわかります。ですがその方法は彼らのためになりませんどうか今しばらくご辛抱ください!!」
ヴォルフは頭を抱えたい気分だった。
今彼らがいるのは先ほどソウマとフランツが離していた難民キャンプの外側だ。
町に戻ってヴォルフ率いる第七騎士団と合流したニコラはとりあえずキャンプの全容を把握したいというニコラの発案で広大なキャンプの調査を開始していたのだが・・・。
そこに広がっていたのは惨状だった。周りにはやせ細った子供や老人などが横たわっていた。まだ息のあるものもいればもう死んでいるものもいる。
このままここを放置すればおそらく大変なことになるだろう。
ニコラは自身の腰につけられているポーチから食べ物を出そうとしていた。
ヴォルフはそれを必死に止めていたのだ。
周囲の人間でそれを気に留めるものは今のところいない。みんな死んだ魚のような目をしている。
「なぜ・・・こんなことに。」
しばらく暴れていたニコラであったが。ヴォルフの考えを聞いて引き下がった。
もしニコラがここで食べ物を出してしまったら人々が群がっておそらくは大変な混乱になってしまうというのだ。
「私も経験があります。まだギルドに所属し傭兵団として活動していたときの話しです。地方領主同士の小競り合いに巻き込まれてひどい惨状になっていた村に駐留したとき仲間が軽い気持ちで飢えた子供にパンを与えたのです。子供は喜んでそのパンを食べました、ですが周りの人もその仲間に詰め寄りました。自分たちにもわけてほしいと・・・・しかしパンはもうありませんでした。最後には暴動が置き傭兵団総出で村を鎮圧する羽目になりました。」
「ぐう・・・・。」
確かに今の自分の手持ちの食料ではおそらくヴォルフの体験談の二の舞になることは確実だった。
「ではどうすれば・・・。」
「まとまった量の食料が必要です。このキャンプの外側はすでにかなり飢えが広がっています。最初に危惧した事態がもうすでにおき始めているかもしれません。」
ニコラは唇をかみ締めていた。