第八話「とある侍と仕事の話」
「それでソウマさんこの後はどうするんですか?」
ルリのギルド登録を終えたソウマに受付嬢はこのあとの予定を訪ねた。
「実は目的があって帝都まで来たんだがそれがすぐに果たせそうにないんで困ってるんだ。」
「なるほど、目的ですか~」
冒険者はみだりに依頼内容を他者に漏らしてはいけない。よってソウマが内容を言わないのは正しいことだ。
「しばらくは帝都のいるから何か長期の依頼でもあれば請け負うぞ。」
「う~ん・・・そうですね。ソウマさん向けの依頼が無いこともないんですが・・・。」
「いつまで話し込んでるんだ!邪魔なんだよどけ!!」
受付嬢が思案していると後ろから腕が延びてきた。
おそらくその手はソウマの肩を掴もうとしたのだろうかそこにソウマの肩はなかった。
「あらら。ギルドの中での揉め事はご法度ですよ~」
受付嬢は口調こそ穏やかだったがその目はあまり穏やかな雰囲気ではなかった。
「うるせ!この小僧がいつまでも受付を塞いでるのが悪いんだろが!さっさと退きやがれ!」
「ああすいませんね。また今度よらせてもらいますよ。ではまた。」
そういって引いたのが何故か男のカンにさわってしまったらしい。
「なめた口ききやがって!」
男はよほど虫の居所が悪かったのか殴りかかってきた。
がまたしてもそれは空を切った。
「・・・さてどうしたもんかな・・・あしらってもまた絡んできそうだし。」
「喧嘩らなそとでやってくださいネ~。」
受付嬢はてをヒラヒラさせて我関せずと書類仕事を始めてしまった。
一方男はプルプルと震えながら頭に青筋をたてていた。
おそらくまだそこまで経験を積んでいない若い冒険者なのだろう。こんな風に短気で荒くれ者の冒険者は実は珍しかったりする。
「ぶっ殺す!」
男が剣の柄に手をかけ抜こうとした瞬間。
「それはだめね。」
もうソウマは男の目の前にいた。その手は剣の柄頭の上に乗せられていた。
「ぐぐぐぐぐ。」
男は件を抜こうとするが抜けない。男の身長は高い。ソウマの1、5倍はある。筋肉もそこそこに鍛えこまれており中級冒険者としては十分やっていけるだろう。
「バカ供がこんなところで喧嘩なんぞおっぱじめやがてからに!!!」
そんな二人に拳骨が飛来した。
「ぐぎゃぁーーーーーーー!!」
「あてて。バルガスさん俺はとばっちりですよ。」
二人はおそらく同じぐらいの力で拳骨をくらった。しかし二人の反応は違った。方や地面でのたうち回り、方や頭をさすりながら抗議するのみ。
「受け付け塞いでんだ。同罪なんだよ、同罪。」
「・・・・横暴です。」
ソウマは不満を口にしつつニタリと笑った。
「お久しぶりですねバルガスさん。」
バルガスはさっきの絡んできた男のさらに1.5倍は大きい体つきをしている。この国では小柄なソウマと比べると大人と子供ほどの違いがあった。
「そっちのちっこいのは・・・・ついに弟子でもとる気になった?」
「まぁそんなところです。ルリ、この人はバルガスさん。多分この帝国で一番強い冒険者だよ。」
先程までのやり取りをじっと見ていたルリがはじめて口を開いた。
「ふむスジが良さそうだな。いい奴を見つけたなソウマ。」
「はじめ・・・まして、ルリです。あとは・・・よく知らない。」
「よろしくなルリ。俺はバルガス、バルガス・アルバレッサーだ。俺にもお前さんより少し年上の娘がいる。こんな成りだが手加減は心得てるつもりだ。・・・・・だからそんなに怖がらないでくれると嬉しいな。」
ルリはソウマの背後に隠れるのみならず震えながらも目が離せないといった感じでバルガスを見上げていた。
バルガスの足元にはまだ痛みに悶えている冒険者が転がっていた。
「バルガスさん。説得力ないですね~。」
さっきまで引っ込んでいた受付嬢までツッコミにまわった。
「まったくこんな成りに生んだ親を恨むぜ。子供に泣かれるのが一番堪える。」
当のバルガスが一番被害を受けているようだ。
「それはさておきソウマ。今お前さん暇か?なにかの依頼で帝都に来てるのか?」
「仕事中ではあるんですけどちょっと事情がありましてしばらくは帝都で情報収集がてらギルドの依頼でこなそうかなと思ってるところです。」
「・・・そうか。」
バルガスはアゴヒゲを手でしごきながらなにか考え事をし始めた。
「なあソウマ、ちょっと頼まれちゃくれないか。もちろん正規の依頼だ。報酬もそれなりのものが出ると思う。」
仕事の話だとバルガスが切り出したとたんにソウマの顔が曇った。
「バルガスさんがらみのしごとですか・・・・まあ話だけなら。」
渋々と言った風だが話を聞かないというのも難しい事情がある。
「実はな帝都郊外の難民キャンプ現状を調べてきてほしいんだ。」
「ああ、あれですか帝都に来た時に見ましたけどすごい規模ですね。何かあったんですか?」
ソウマの疑問にバルガスはなんとも言えないといった感じで答えた。
「わからん。ただギルドで何回か人を回してみたんだがついに怪我人が出た。はじめは市民や兵士との間の揉め事だったんだがどうもどんどんきな臭い方向にはなしが進んでる。」
「具体的には?」
「《噛み傷》だ。それもサイズは人間大。おそらく中程度の冒険者だと手酷い返り討ちにある。」
「俺も実力的には中程度の人たちとそこまで変わらないんですけど。」
そうまの自己評価をきいたバルガスがニタリと人の悪い笑みを浮かべた。
「俺はお前さんと刃を交えるなら恐らく三回に一回は負けてもおかしくないと思ってるぜ。」
「ご謙遜を。バルガスさんの偉業を考えたら俺なんかその辺のボンクラ冒険者とどっこいですよ。」
ソウマに偉業と言われた辺りで盛大に嫌な顔をしたバルガスが続きを話す。
「まあともかくだ。俺が直々に出向いてみたまではよかったんだが今度はまったくと言っていいほどなにも起きやがらね~。完全に警戒されちまったんだ。」
「で今度はよわっちそうな俺に行ってこいと?」
「事実は別として一般的な観点から見ればお前さんは弱そうに見える。恐らく相手も油断するはずだ。」
ソウマは考えた。確かにこの依頼は自分に向いている。しかも依頼内容が《調査》だ、何かしらの異変を発見できればそれだけで報酬が手にはいる。
「わかりました。彼女に仕事を教えるのにもちょうどいいかもしれません。その依頼お受けします。」
「そうか助かるぜ。」
そういうとバルガスとソウマは握手を交わして詳しい契約内容の交渉に移るのだった。
その足元にはすっかり存在を忘れ去られたがらの悪い冒険者が一人のびていた。