第七話「とある少女とギルドの登録」
帝都の下町、安宿の二人部屋にて・・・・
少女は古着屋の老女に着付けてもらった男物のスカートを弄りながらソウマがヒノキを削っているところを見ていた。
その手つきは淀みなく手慣れた様子だった。
ある程度円形に削ったら今度はやすりで表面を綺麗にしていく。
「何・・・してるの?」
ソウマの正面でベットに腰かけた少女ルリはソウマがつくっていうるものが気になって恐る恐るといった感じで尋ねた。
「ヒノキの棒を造ってる。まだ刃物は早いし市内では七十センチ以上ある棒状の物は許可がないと持ち込んじゃいけないことになってる。」
「それは?」
ルリはソウマの横に立て掛けられている反りのある剣を指差した。
「刀か・・・その柄のところにコインがぶら下げてあるだろ?それは冒険者証ていってそれがついてると市内での武器の持ち込みが出来るようになるんだ。もっとも取り付けてあるものに限るけどね。」
話しながらもソウマは確実に作業を進めていく。
「さて・・・・。」
そうして話しているうちに作業はあらかた終わり現在は曲がっているところがないか持ち手から先端を覗きこむようにして確認している。
「・・・完成?」
「あとは持ち手に滑り止めのために革布を巻き付けたら完成かな。出来映えはまあまあってところだな。持ってみれくれ。」
ソウマはそう言ってルリに作り終わったヒノキの棒はをわたした。
少女ルリはその棒を受けとるとまじまじと眺めた。表面はスベスベでとても綺麗だ。角などはなくただの棒と呼ぶにはもったいないいっそ無駄といっても過言ではない完成度になっていた。
「・・・何に使うの?」
「これからギルドに行くんだけど念のための護身用にね。あそこは荒くれ者が多いからな。」
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もともと帝都モルゲンロードのギルドは城壁の近くにあった。
冒険者が主に利用する施設であるのでその方が都合がいいのだがこれは中央にすんでいる貴族たち人は受けが悪かった。ギルドは次第にその勢力を伸ばしていき現在は帝都の貴族街に一軒、帝都の北と南の城壁の出入り口に一軒ずつ
建物がある。
ソウマたちは帝都の南側のギルドを目指していた。
目的は少女ルリの捜索願いが出ていないか調べることだ。
「う~ん。正規の商会や貴族からの捜索願いはありませんね~。」
間延びした声で応対しているのは南ギルドの受付嬢の少女だ。耳がとんがっているからエルフなのだろうが背が低い。
「そうか・・・わかった。てことはこの子は身元不明者か。帝国での扱いはどうなるんだ?」
「はっきりいって放置ですね~。聖魔戦争終結の余波で経済的に帝国はボロボロです!身元のはっきりしない人まで面倒見てらんないって感じですね~。」
ソウマは顎をなでながらニタリと笑った。
「てことは俺がもらっていってもいいよな?」
受付嬢はジト目をソウマに向けた。
「こんな小さい娘がご趣味とは・・・女の敵ですね。」
「違う!弟子だよ弟子。冒険者登録して俺の連れにするの。」
受付嬢の顔にはまだ疑いの表情が張り付いていたがソウマの後ろにいるであろう人物の方に目をやった。
「まぁいいです。それで女の子さん。ソウマさんの後ろにかくれてないで出てきてくださいネー。これから登録をしますよ~。」
少女ルリはちらっと顔を出したがそのあとすぐに引っ込んでしまった。
「あらら・・・私よりそっちのロリコンがよろしいと。」
再びソウマをジト目が襲った。少女二人に囲まれる光景は何とも・・・もっとも手前の少女は小女であって少女ではないのだが。
「ルリ、ギルドで冒険者として登録しておくも会員証が身分証になるし登録した年はギルドが支援してくれるからやっておくといい。」
ソウマは後ろに回ったルリをギルドカウンターに押し出した。
「ハイハイ~サクッと終わらせちゃいましょう。さてルリちゃん字は書けますか?」
フルフルと首を横に振るルリ。
「そいではお姉さんが代筆しますね。ではまずお名前は?」
「・・・ルリ」
「姓はなしと・・・お生まれは?」
「知らない。」
「不明ね。まぁよくあるし。」
そんな感じで質問が続いた。結論から言えば
「名前と性別以外はすべて不明ね~・・・・・・まぁいっか。」
「・・・いいの?」
「ええまぁ。秘密にしてるならともかく分からないものはどうしよもありませんから~」
この場合適当なのか的確なのか微妙である。
「それに、ソウマさんが面倒見るんですよね?」
「ああ。一人で冒険者が勤まるレベルまでは面倒見るつもりだ。」
「ソウマさんがそうおっしゃるなら問題ないです~」
そこには先ほどのロリコン疑惑のときとは違ってしっかりと信頼のこもった何かがあった。
「それでは少々お待ちくださいね。」
そういうと受付嬢はギルドの奥に引っ込んでいった。
「・・・私はどうしたらいいの?」
「まあ、これからの身の振り方にもよるかな。とりあえずはいく当ても無いだろうし今日みたいに俺の店の手伝いをしてくれるならしばらくは一緒にいてくれてかまわない。君が望むなら俺の知ってる限りの技術を君に教える。多分一年も一緒にいれば一人で生きていけるだけのことは教えてあげられると思うよ。」
「・・・わかった。それがいい。」
ほとんど間をおかずにルリはソウマの提案をのんだ。
「それじゃあこれからは師弟だな・・・っていっても俺も未熟者だがね。」
「ソウマさんが未熟ならほかの冒険者は木偶の坊ですよ~」
そうこうしていると受付嬢が奥から戻ってきた。手にはソウマが刀につけていたのと同じコインがあった。
「はい。これがギルドが発行する冒険者のための身分証です~」
コインがルリに差し出された。
そこには金槌と剣と秤が交差するように描かれている。反対側を向けてみると剣だけが描かれておりその脇にルリと小さく刻印がされていた。
「さて、ルリさんあなたはこれで正式に冒険者となりました。これからちょっとした説明を聞いてもらいす。」
そういうとさっきまでの間のびした話し方が引っ込みキリリとした雰囲気になった。
ルリはその変化に軽く驚きつつコクリとうなずいた。
「ありがとうございます。ではでは、そちらがギルド所属の冒険者である証の冒険者証になります。表面が金槌、剣、秤が描かれているほうでこれはギルドが冒険者と職人と商人によって成り立っていることをあらわしている証明です。」
ルリは改めてそのコインの表面を見た。
「その裏面にはあなたが冒険者である証として剣が刻まれています。となりに小さく刻まれているのがその人の個人情報なんですがルリさんは名前以外はわからないので名前だけですね~。」
ルリはコインをひっくり返して裏面を確認する。
「ぶっちゃちゃけちゃうと今回発行されたその冒険者証にはルリさんの身分を証明する力はありません。今はソウマさんがあなたの後見人としてあなたに技術を伝授するという前提でその冒険者しょうが発行されました。その辺は会則がありまして上位の冒険者の推薦か中位の冒険者が正式に弟子を取るという理由でしか冒険者証は発行できません。」
受付嬢はソウマのほうに目をやる。
「もしルリさんが何か法に触れるようなことをやらかすとルリちゃんはもちろんですが連帯責任でソウマさんにも厳しい処罰が下りますので彼の庇護をあてにしている場合は慎重な行動をおすすめします~。」
「・・・はい。」
「はい、さて次にコインの側面をご覧ください。」
ルリはコインを横向きにした。その側面には星がひとつ刻印されていることに気がついた。
「それは冒険者の格をあらわす星です。その星が多い人ほど冒険者として世間から認められているという証になります。初めはどんな人でも星ひとつからスタートですね。実績を積んでいくとギルドのほうから打診がありその際に特別なクエストを受けていただきます。それを達成しなおかつそのとき同行したギルドのスタッフの評価を得ることができると昇進することができます。ちなみに星は一つから八つまでですね。一人前の冒険者とみなされるのは三つ星以降です。まずルリさんはソウマさんが面倒を見てくれているうちにそれぐらいになることを目標にするといいかと思います。」
「・・・。」
ルリは無言でソウマのほうを見た。
「さて最後にギルド会員でいることのメリットとデメリットについて説明させていただきますね~」
ルリは再び受付嬢のほうに向き直る。
「ギルドの会員でいるためには年間に銀貨一枚の会員費を払っていただく必要があります。もっともこの制度は今度の役員会で廃止になるかもしれないんですけどね・・・。しかしてその恩恵は絶大です。ギルド会員であるというだけでこのギルドハウスの施設の使用とギルドに所属している商人や職人のところで買い物をするときの割引や仕事の斡旋、素材の買取などがご利用いただけます。」
今度の説明にはルリは首をかしげていた。
「まあ詳しい話はルリちゃんのお師匠に聞いてください。大まかな説明はこんなところです。」
「・・・大体わかった。」
「そうですか~ならよかったです~」
そういうと受付嬢の話しかたは先ほどの間延びしたものに戻った。
「では最後にあなたの冒険に幸多からんことを・・・・」
それはあらたな冒険者が登録を完了したときに担当者が必ず送る言葉だった。