第六話「とある皇女と旅立ちの依頼」
皇帝アルバスは娘から聞いた町の出来事を楽しんでいたはずだった。
しかし城下町の現状を知る数少ない機会は娘のギルドでの話を境に楽しい話ではなくなった。
(噛み傷・・・それも人の子供が着けたような。)
なぜかその事実が不安を呼ぶ。
冒険者を街の子供が傷つけたのか?それは難しい。聞けばことがあったのはスラムだ。そんな場所にいる子供はそもそも冒険者を狙わない。返り討ちに合うリスクが大きすぎる。
では魔物か?それにしては傷口が小さいし騒ぎだす様子がない。
(では、何がその冒険者に傷を負わせた?)
おそらくは魔物にしろ子供にしろ油断していたのだろう。
それならいい。しかしその傷は治りが悪かったのだという。こともではあり得ない。既存の解毒方法が通用しない上に回復薬や魔術を阻害する魔物?
(だとしたら。これもいい機会なのかもしれんな。)
大至急捜査を開始する必要がある。
「ニコルジアよ。そなたの話し大変興味深かった。もしやするとその冒険者の話し大事となるやもしれん。この件に関しては早急にてを打とうと思う。ついてはそなたにこの件の解決に協力して欲しい。」
「それは皇族としてでしょうか?」
アルバスは首を横に降った。
「いや違う。そなたには一冒険者として今回の件への協力を依頼する。」
「冒険者として・・・ですか?」
それは暗にニコルジアが冒険者ニコラとして活動することを認める発言だった。
「そたなも今年で十四となる。十五才になったら様々な皇務についてもらうこととなろう。その前に世界を見て見聞を広めるのも悪くないと我は考えている。」
「父上・・・。」
「皇族として学んで欲しいことは多くあるが為政者として学んで欲しいことはあまり残っていないこれはそなたが今まで励んできた勉学の賜物だ。我が許す。十五の成人の儀まで好きに生きよ。」
「して、この依頼冒険者ニコラ殿は受けてくださるのかな?」
ニコルジアは頭を下げドレスを軽く指で摘まんで優雅に一礼して見せた。
「陛下のご采配とあらば是非もありません。この冒険者ニコラみごと此度の依頼を完遂してご覧にいれましょう。」
「くっくっくっ。いいな・・実によい。朗報を期待しているぞ我が娘よ。」
その日の皇帝アルバスはなんとも言えない高揚感で満たされていた。