第四話「とある皇女と占い師の気まぐれ」
彼女はあまり世界を知る機会がなかった。
現皇帝の親バカで城の中で中場軟禁されて育った。外に出たことがあるのは彼女の母「第四皇妃」の葬儀の時だけだ。彼女を生んでから体調が優れず ニコルジアが五歳の時 彼女の母は息をひきとった。
その頃すでに魔族との大戦は激化しており葬儀は皇族のものとしてはしめやかに行われた。
『物心ついていたか正直さだかではない。ただ漠然と事実だけが残っている。』
彼女の母が死んでからは皇帝は彼女を腫れ物をさわるようにあつかった。
しかし決め手になったのは彼女の姉の出奔だろう。置き手紙を残し忽然と消えたのだ。大戦末期のことでニコルジアが八歳の時だった。
しかし皇帝は悲しみにふける間も与えられなかった。魔族軍との戦闘がさらに激化したのだ。
その後のニコルジアの姉の行方はようとしてしれないと思っているのは彼女の姉本人だけで、後に海の戦で父を助けていたことがわかった。本人は海賊を名乗り秘密にしているつもりらしいが目立ちすぎていた。
勇者と共に旅をする謎の女海賊。その容姿は行方不明の彼女の姉『ウェンカルバーネ』(愛称ウェンデー)に瓜二つだった。
・・・というか本人だった。
彼女にとっての好機はそんな姉の部屋を物色していた時のことだ。姉の日記から古い城の見取り図が出てきたのだ。かつてこの城が建てられる前にたっていた大砦の見取り図でこの城と間取りが重なるところがある。なんとそこに隠し通路があると言うのだ。
彼女は外に出てみたいといつ欲求に刈られその通路を使ってしまった。
外の世界とはいったいどんなところなのかと彼女の体が好奇心に突き動かされる。
庶民に見える服は残念ながら持っていなかったのでせめて見た目の地味な服を選び皇族の一員である証の家紋の入った指輪と母の形見のペンダントを持った。
そして見取り図をもとに外に出た。かなり歩いたが外に出られた。出口は城壁の一部と繋がっていた。
私に勉学を教えてくれたブルッフ教授はこういう時とても楽しい人で、こっそり抜け道のことを打ち明けると街のことをいろいろと教えてくれた。そのおかげで危ないところを避けることはちゃんとできた。
帰るときは王族の秘術『フラグメント』にて簡単に帰ることができた。転移呪文はこういう時に便利だ。
現在すでに彼女の帝都散策が始まって三年目になる。さまざまなことがあった治癒術に適正を見出し教会で授業を受けたり冒険者ギルドに登録し短いながらも冒険にでたり簡単な商売に手をつけて小金とはいえない金額の成功を収め隠し財産を築いたり・・・・・。
なんだかんだと充実していた。
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「お嬢さん?占いはいかが?」
町を歩きながら城に帰る前に何かを買っていこうと考えていたニコラに声をかけてきた人物がいた。
「あの・・・」
昼間でも薄暗い路地の壁際に座る女性が一人。彼女の前には水晶の玉が置かれたテーブルが1つ。
「そんなに緊張しなくても大丈夫よ?見たところいいところのお嬢さんね?たたずまいの端々から気品を感じるわ・・・フフッ」
通りが薄暗くてはっきりと見えないが彼女の整った顔立ちがわかる。あまり社交界の経験はないが城での舞踏会などに遠巻きながら参加することもある。そうでない貴族もあるが多くは美しいと思える容姿をしている。
「あなたはいったい?」
そんなニコルジアが見たこともないくらい『美しい』と思える容姿の人物が話しかけてきた。
「あら?見てわからない?占い師なんだけど・・・・」
彼女は少し自身がなくなってきたようだ。しかし戸惑っていても美人は様になる。反則だろうか?
「やっぱり格好がいけないのかしら?」
確かに少々羨望的なきもするが以前にニコルジアが舞踏会でみたあからさまに悩殺しにかかっている衣装よりはおとなしい。魔術師としてなら通りそうな服装をしている・・・多分。
(ちょっと胸を強調しているというか無自覚というか・・・。)
内心もやもやした心境になるニコルジアであった。
そんな占い師のもっとも目を引くの部分が瞳の色だ。まるで輝いているかのような黄金の瞳は間違いなく見る者を魅了する作用を持っている。とても珍しいいままでに見たことのない色だ。
「そんなに見つめられると照れるわね?」
「えっ!あ、ごめんなさい。見たことない瞳の色だったものですから。」
「あら?私の目を誉めてくれるの?嬉しいわ。」
女の人がにこやかに微笑んだ。とてもはなのある自然な笑みだ。
「初対面の人間は大概私の顔を誉めるの。でも正直あんまり嬉しくないのよね。」
占い師はとても嬉しそうだ。顔を綺麗だがそれ以上に不思議な光を閉じ込めた瞳に目がいってしまったのが幸いしたらしい。
「よかったら、あなたのことを占わせてもらってもいいかしら?」
「えっ?でも・・・・。」
「いいのよお近づきの印。それにあなたとはなんだか始めてあった気がしないのよね。占い師なんてしているとそういう勘みたいなものって大事にしたくなるのよ。」
そういうと彼女は机の上に占いの道具を並べ始めた。
(・・・金貨?)
そこには見たことのない金貨が並べられていた。
「『運命の映し鏡』っていうの。かなり古い方式だけど大昔は結構はやってたのよ?」
余談だがこの世界において占い師とは結構、ピンからキリまでな存在だ。力あるものは運命を読み解くどころか干渉し捻じ曲げることができるとさえ言われているしあるいは明日の天気すら占うことができないほどの人間が出店を出していることもある。
「この金貨の中から七枚を好きに選んでね。今は全部裏を向いてるんだけどそれを表に返しながらあなたの未来を占うの。」
「・・・。」
つまり占い師を名乗る人種は意外と胡散臭いのである。もっとも・・・
「この中から七枚ですね?」
「ええ。好きにとっていいわよ。」
ニコラはこういう趣旨の話が好きなのすでにノリノリだった。
机の上に並べられていたのは四十九枚のコインだった。
並べ方は四角く四つの角のひとつがニコラにその反対側が占い師に向いていた。
ニコラはその中の四つ角の端から一枚ずつの四枚と真ん中の一枚そして真ん中の両端に置かれていたコインをその場で裏返した。
「あら面白い配置ね。それじゃあ読ませてもらおうかしら。
真ん中のコイン絵柄は『分かれ道』ね。あなたはこれからどちらかを選ぶことなる。
そのコインをはさんでいるのは『狼』と『風』これはあなたが選ぶ対象。
あなたの側にあるのは『剣』剣の絵柄の柄があなたに向いているこれは古よりの暗示で騎士を迎えることを暗示しているわ。
あなたから見て左の角にあるのは『燕』これは旅の暗示ね。いままで住んでいたところからどこかにいくことになるわ。
向かって右の角は『雷』厄災それも強く激しいなにか。
最後に私の手前にあるのは・・・『空白』何も描かれていないこのコインは広い未来の暗示よ。
フフッ面白いわ。」
ニコラは占いの結果を聞いて少し考え込んでいた。
「選択・・・騎士・・・旅・・・厄災。いったい何が起こるんですか?」
「ごめんさない。それはそこまでちゃんと断言できないの。特に最後の『空白』これは不確定な未来の暗示でもあるわ。ただこの占いにおける『空白』は昔からいいことがあると解釈する人が多いわね。」
「いいことですか。じゃあ私も幸先のいい占いをいただいた事にしておきます。」
「そうね。ただ厄災の暗示が迫っているわ。特に雷は広く大きな・・・それでいてあなた自身に直接かかってくるモノを示すことが多いの。もしあなたに味方が少ないのなら今は足元を固めることをお勧めするわ。特に騎士の暗示。これはあなたにとって今後の強い味方になると思う。」
「ありがとうございます。なんだか今日はあわただしくて何をしていいのかわからなかったんです。」
占い師は微笑を浮かべ手を差し出してきた。
「どういたしまして。所詮占いされど占い。あなたの人生が上手くいくことを私も願っているわ。ああそうそう私の名前はミナ、ミナ・ハーカーよ。やっぱりあなたからは何か縁を感じるわ。またどこか出会うこともあると思うの今後ともよろしくね?」
ニコラはミナの手をとった。内心少し後ろめたかったが彼女は名乗った。
「ニコラ・ブルッフです。またいつかどこかで。」
一瞬ミナが残念そうな顔をしたようにニコラは感じたがそれは一瞬のことだった。
「その時を楽しみにしているわ・・・フフッ」
ニコラは最後にみせたミナの微笑が少し気になった。
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「あの子が今回の〈候補〉なのかしら?」
そんな独り言が響く。その声に答えるものは・・・・
「ええそうね。それも含めて見定めるのが私の役目。」
彼女は足元を見ていた。舗装された歩きやすい石畳だ。
「荒れるわね・・・この国。」
そこには彼女にしか見えない何かが映っていた。