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王女と侍女  作者: 嬉遊
2/3

2,王女の素顔


「シェリルっ」

王宮の廊下を歩いていると、後ろからアリアさまに声をかけられた。

「アリアさま」

「どうです?姫さまとは……」

「ええ」

あたしがルーナの側で働き始めてから、2日がたった。

アリアさまは……心配してくれているのだろう。

「よくしていただいております。ルーナ……いえ、姫さまには」

「……ルーナ?」

アリアさまの眉がぴくりと動いた。……やばい。

「あっ、いえ、違うんです。その……姫さまが、自分のことはルーナって呼ぶようにおっしゃっていて……」

アリアさまはしばらく黙り込んでしまった。

そしてため息を吐いて、

「姫さまがそうおっしゃるのなら、仕方がありません。ですが、人前では気を付けるようにして下さいね」

「はい……」

お前(ルーナ)のせいであたしが怒られちゃったじゃん……。

もちろん本人にはそんなことは言えないので、心のなかで叫んでおく。 しゅんとなったあたしを見て、アリアさまは何を思ったか、ふっと笑った。

「…その様子だと、仲もよくして頂いているのでしょうね」

「あ…はい。今日もこれから遊山に……」

「姫さまと、貴女だけで?」

「はい……それが心配なんですけど……」

別にたいして心配ではないのだが、表情を曇らせて言った。

「護衛とか……姫さまは必要ないとおっしゃるのですが……。本当に大丈夫なのでしょうか……」

「平気だと思いますよ」

即答。そんなに信用してるのか……?

「姫さまは、身を守る術をきちんとわきまえています。それも、並みではありませんからね。いざとなったら、貴女のことも守って下さるかもしれません」

「はあ……」

そこまで信用しちゃって、本当に良いのだろうか。

それに、いくら護身術が得意とはいえ、あたしの手にかかれば意味もないだろうに。

「では、気を付けて行くのですよ」

「あ……はい」




「あら……?シェリー、そのバスケットはどうしたの?昼食をとりに行ったんじゃ……」

「……これがそうらしいんですけど……」

昨日、昼食を2人分、と確かに頼んだハズなのに……これは何かの間違いだろうか。

やけに大きいバスケットを渡された。しかも、重さはハンパじゃない。普通の女の子だったら持てないって……。

「……きっと私達だけじゃあ食べきれないわね」

「そうですよねぇ……」

「でも、せっかく作ってくれたんだから、全部持って行きましょう」

そう言ったルーナは、すでに乗馬服に着替えていた。

さすがに、いつものフリフリドレスじゃあキツいのだろう。

「シェリーは?その格好で行くの?」

その格好とは、女官服の事だ。

踝までの長いスカートでは、そりゃあ乗りにくいけど……。

「ええ。慣れてますから」

結局、5人分くらいありそうな昼食を持ち、城を出た。 ルーナはもともと外にでるのが好きらしい。馬を見事に乗りこなしていた。

「昔はね、よく遊山に出かけたのよ。でも最近は、そんなことしてる暇があったら、舞踏や作法のお勉強をしなさいって言って、なかなか行かせてくれなかったの」

「王女って大変なんですね……」

「そうなの。だから今日はほんと久しぶりの遊山だわ!」

そう言って、ルーナは速度をあげた。

「あ……っ、ルーナっ!」

あたしも急いで後を追う。

活発な王女だなあ、なんて思いながら。


けれどこの後、

あたしはこの王女の本当の姿を見破れなかった事を、後悔することになる。




「気持ちいーっ。やっぱり山って良いわよねー」

しばらく走ったところで、あたし達は昼食をとることにした。

そして、殺すのも邪魔が入らない今にしよう。

死体も、どこか……見つからないようなところに隠そう。ここなら滅多に人は来ないし、地面の血も目立たないようにしておけば問題ない。

だから、今回はじっくり殺れる。思いっきり時間をかけて。

そして、今日中に、あたしはこの国を出る。城の人達が、王女が戻らないことに気付く前に。

……そして本家に戻れば、任務完了だ。

ルーナに出すお茶の中に、そっと薬を入れた。

簡単に言うと、痺れた薬だ。数秒で、体全身が痺れてくる。上手くいけば声も出なくなる。

「どうぞ」

その薬入りのお茶を、いつも通りの笑顔で出した。

「ありがとう」

ルーナもいつも通りの笑顔で受け取る。

そして、何も疑わず、お茶を口元へ持っていき……。

「……………」

……お茶を、捨てた。

「……ル……ルーナ……?」

ガラスのカップの取っ手を持ち、何も入っていない中を見せてくる。

緑色の瞳を細め、物騒に笑いながら。

「……この中に入っていたもの、なあに?」

心臓が激しく脈打つ。震えそうな声を懸命におさえ、何とか言った。

「何って……ただのお茶ですが……?」

ルーナはルーナらしくない瞳で、くすりと笑った。

「命落とすようなことは無いみたいだけど……ちょぉっと危ないわよねぇ」

声が、出なかった。

ルーナのどろりとした声が、あたしの頭の中で絡み付く。

「恐ろしいわね。もしかして、この薬で私をどうにかしてから、殺そうとか……考えてた?」

ずばりと 言い当てられる。

だめだ……。

これ以上、こいつを生かしておくわけにはいかない……っ!

「………っ!!」

スカートの下の靴下止めにさしてある短剣を抜き、ルーナの首を切りにかかる。

それを、ルーナは難なく避けた。

「な……!?」

「遅い」

次の瞬間、ルーナが目の前に迫り、避ける間もなくルーナの拳がみぞおちに入った。

「がっ………っ!!」

取り落とした短剣をルーナが拾い、動けないあたしの首にあてた。

「………っ!!」

「……貴女、もしかして、人をじわじわと苦しめるのが好き?」

肯定、できなかった。

動くことも、声を出すことさえできない。

ルーナは微笑みを浮かべたまま、あたしの首を切った。

「……ぁっ!!」

「痛い?痛いでしょう?」

痛い。血が流れる。馴染みのある匂い。

「大丈夫。そんなに深く切ってないから、多分死なないわ」

そう言いながら、今度は腹を切る。

「ぐ……っ!」

痛い。……痛いなんてもんじゃない……。

このまま……このまま殺してくれれば良いのに……っ!

「きっと……貴女がこうやって殺してきた人達も、早く死にたいって思ってたと思うわ。……つらいでしょう。早く死にたいでしょう」

(ころ)……っ……ごふっ……!」

血を吐いた。

腹からは、微かに内臓が見えている。

「さて……そろそろ助けを呼んでくるわ。貴女にはまだ、死んでもらっちゃ困るもの」

薄れる意識の中で、ルーナがわざとらしく息を吸う音が聞こえた。

「誰かあっ!!助けてぇ!!だれかあぁっ!!」

そこで、意識を手放した……。




目を開けると、そこはいつものあたしの部屋だった。

……悪い夢でも見ていたような気がする。

でも、首にふれると包帯が巻いてあって、夢じゃなかったんだと思い知らされる。

廊下のほうから、声が聞こえてきた。

「放して女官長っ!」

「いけません姫さま!まだ入っては……っ!」

「どうして!?シェリーに会わせてよ!放してぇっ!」

思いっきりドアーが開いた。

そして、本当に心配しているような表情の……ルーナ。

「シェリーっ!」

ルーナはあたしに抱きついてきた。

あたしは思わず身をかたくする。

「ごめんね……シェリー……私のせいで……っ!」

これは……本気か?

本当に……そう思っているのだろうか。

「シェリル……話は姫さまから聞きました。」

まさか……自分がやったと、話したのか?

しかし、アリアさまの口から出たのは、予想外の内容だった。

「刺客から狙われていた姫さまを、貴女が助けたのだと……。こんなにボロボロになってまで……」

後半は、ほとんど頭に入ってなかった。

刺客が……あたしを傷つけた……?

そんなことは……っ。

「ちが……っ、違います!あたしを傷つけたのは姫さまで……っ!」

アリアさまは眉をひそめた。

「……混乱しているようですね。姫さまは、貴女を傷つけたりしないハズですよ?」

そんなことはない……っ!実際あたしを傷つけたのだから……っ!

「女官長……悪いんだけど、ちょっと2人きりにしてくれない……?」

この子、ちょっと混乱してるみたいだから。そんなことを言いたげな表情で言った。

「……わかりました」

頷き、素直に出ていってしまった。

部屋には、あたしとルーナだけ。

「……貴女、馬鹿じゃないの?」

心底呆れたように、ルーナは言う。

「私、これでもこの国の王女なのよ?貴女の言うことより、私の方が信じてもらえるわ」

そんなの、知ってる。だけど、言わずにはいられなかった。

更にルーナは、続けた。

「しかも、よくあんなで刺客やってられるわね。演技の方はけっこう良いけど、殺しは全然。もっとどうにかした方がいいんじゃない?」

それだけ言って、ルーナは部屋を出た。



しばらく、放心した後、あたしは水道へ向かった。

今までのことを、全部洗い流すように、頭から水を被る。

「許せない……」

許せない……っ!

あそこまで言われて……黙ってなんかいられない……!

悔しい……。悔しい……っ!

絶対あいつを……

あいつを殺してやる……っ!!





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