フォーナスとエミールの調剤薬局 1年目 @2
崖したにある小さな町は漁業や貿易産業の活発な場所で、比較的穏やかな時間の流れのなかに暮らしている。
そんな町の一角、緑が綺麗な場所におばあちゃんの家がある。
フォーナスの調剤薬局。
木の看板には色褪せた文字で書かれていた。
「こんにちはー! おばあちゃん!」
店のカウンターには、白い髪の毛を腰まで伸ばし、目立ったしわも無くてスベスベな肌の女性が座っていた。
初めて見る人は20台だと勘違いするくらいだ。
「あらー いらっしゃい。話しはお母さんから聞いているよ」
「突然ごめんなさい……」
「いいのよー 昔の私も思い付いたら即行動だったから、エミールは私に似たのね」
にっこりと微笑み、私を調剤室に案内してくれた。
ピシッと姿勢がよく、たまに老人だと忘れてしまう。
「さあ、お茶をどうぞー」
ティーカップには茶色の液体が注がれる。
「メグスリノキを乾燥させてお茶にしたのよ」
「目の消毒とかに使うやつだよね?」
「えぇ、飲んでも目に良いの」
私が思うに、おばあちゃんは色んな植物と暮らし、昔からの伝統をたった一人で守っているのだと思った。
ただそれは、フォーナス・アロルは魔法使いだった事を知らないからこそだと思う。
「この町は、海産物から鉱物油など様々なものが揃う良い町なの。これとか、鉱物油から作った軟膏よ」
取り出した白いクリームを手に取り、顔や手の甲等にまんべんなく塗り始める。
「肌がカサカサする人や、傷、あかぎれなどに効果があるの。エミールも塗る?」
おばあちゃんが私に小さなビンを渡してきた。
「少しで良いの。手にとっ手ご覧」
恐る恐る指ですくい取ると、クリームだった軟膏はすぐに溶けてしまう。
変わった匂いもなく、保湿のためにはいいかもしれない。
「ワセリンと言うものらしいの。遠くの世界では色々な場所で売っているみたいだけれど、この辺では私だけだね」
たのしく時間は流れ、自慢げに色々薬を見せてくれたおばあちゃんは、いつも以上に若々しく見えたきがする。