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―Ⅱ



あの日の出会いが、私の世界を色付かせた。


どんなに自分が汚れたって、彼さえ綺麗なまま──あの日のままでいてくれるなら、私はなんだってする。だからこそ、彼には笑っていて欲しい。


私は所詮──・・・。だから、自分から成りたいって望んで誰よりも努力した。身体の悲鳴だって聞こえないふりをした。


そうしなければならなかった。そうでなければ、彼まで汚れてしまうと思ったから。


* * * * *


盛大な悲鳴が響いてきたので、お茶を飲んでいたレイは柄にもなくビクリと驚いていた。隣にいたアルトも同じく驚いたらしい。


影ノ騎士が所持している広い屋敷の中の、これまた広い応接室に通された二人は、意外にも人の気配があることにも驚いていた。お化け屋敷だ、気味が悪いだ、祟られるだと言われているようだが、実際に来てみてもそんなことは全く感じないとレイは思ったが。


「・・・女の子の悲鳴?」


わずかながら顔を青くさせながら、アルトはそう言った。現実主義な彼はどうも、お化けといった類いの非現実的なものが苦手らしく、信じたくないらしい。


ならば何故ここへ来たかというと、レイが心配らしい。彼曰く、


「あんなところに、レイを一人で行かせられるわけないだろ。政府監査部隊の名に懸けて、聖騎士団の・・・(中略)・・・だからだ。分かったか」


苦し紛れの言い訳のようなアルトの理由に、レイは笑いながらも分かった、と了承したのだ。


「・・・それにしても、影ノ騎士って優遇されてるよなー」


「そうなのか?」


「ここ以外にも、城の東棟も所有してるし。高位侍女がいるしさ」


「一応は正規の騎士団だからな、影ノ騎士も」


屋敷にやって来た二人を出迎えたのは、十数人の高位侍女と呼ばれる私的に雇われた少女たちだった。王宮に属する侍女とは別に、騎士団が雇う侍女は、高位侍女と呼ばれている。


各騎士団に専属として侍女は配属されるが、日毎・週毎で各々の仕事をする侍女が変わったりする。それはつまり、敵国のスパイや刺客が紛れ込んでいても分からない確率が高いと言うことだ。


そこで、高位侍女が必要となったのだ。騎士団が供給される費用から、または団員の給料などからお金を出して、侍女を育成している機関などと契約して高位侍女として起用する。因みに、彼女たちは普通の侍女とは制服のデザインが違う。


しかし実際のところ、契約ではそれ相応の費用が掛かってしまうので、一つの騎士団に十人いるかいないかくらいしか高位侍女はいない。そもそも、騎士団はその役職によって供給される費用が違う。消耗品にも違いがあるし、緊急用にいくらかは余分に取っておかなくてはならないのだ。


「影ノ騎士は一応王国正規軍だけど、『独立機関』として政府監査部隊(おれとなかまたち)は認識してる」


「何故、独立機関なんだ」


「あくまで機密部の見解だよ」


毎年、機密部は政府予算を確認しているが、騎士団の総供給費用がどうも12騎士団分しかないらしい。他の項目を見ても、大した費用のそれは特にない。ならば、影ノ騎士の費用は何処から出ているのだろうかと疑問が浮かぶ。


だから、『独立機関』と認識したのだ。彼らが独自の役職をこなして、費用も自給しているというならば、政府予算に記載が無いことに理由がつくからだ。その費用がどのくらいなのかは確認できていないが、室内の家具をみればそれとなく分かる、というよりは、この屋敷の入り口で体感したのだ。


「・・・靴が買いたてみたいに綺麗に磨かれたしな」


国中のどこへ行っても、土足厳禁だなんてところはあまり聞いたことがない。この国がある大陸の文化に、そういったものが存在していないからだということもあるが、この屋敷はどこまでも浮世離れしているようだ。二人はこの屋敷へ入る際に、侍女たちによって靴を磨かれたのだ。


確かに彼女たちも土足ではなく、室内履きというものを履いていたし、屋敷の入り口には靴がたくさん置かれた棚があった。ここの住人達は、綺麗好きなのかなんなのか。更に疑問だ。


雑談を交わしながら出された紅茶を啜っていると、部屋の扉がコンコンと控えめに二回ノックされた。アルトがはい、と返事を返すと扉の片方が開かれて、二十代くらいのローブをまとった黒髪の男性が入って来た。


「こちらから呼んでおきながら、遅くなって済まない」


彼は、二人の目の前にやってきてそう言うや否や頭を下げた。レイとアルトが慌てて大丈夫ですと言うと、彼は表情を少し緩めて頭を上げた。騎士の癖と言うべきか、こうして年齢や地位が高そうな人物に頭を下げられるというのは、居心地が悪いし、こちらのきまりが悪い。


「某は影ノ騎士の長を任されている者で、ウルフィアと申す。そして、この屋敷の管理者でもある。」


「レイリア・ファルミール=シフィローネ。第一騎士団員だ」


「俺はアルーファン・クロノ=キルアーゼ。第六騎士団員」


一通りに挨拶を済ませると、三人はソファーに腰掛けた。丁度その時、侍女が紅茶の入ったカップを乗せたお盆を持って部屋に入って来た。カチャリという小さい音を立てながら置かれたのは、ウルフィアの分のカップだけではなくもう一人分のもだった。


レイもアルトも敢えて聞かないが、おそらくもう一人やってくるのだろう。彼が、ここへ遅れてきた理由はその人物に関連しているのだろうと考えたからだ。


「レイリア、だったかね」


「はい。今回、そちらの騎士団より護衛をつけて頂くことになっている者です」


「王から話は伺っている。貴殿の都合を考えた上で王が人選なされている」


この国では聞いたことがないウルフィアの喋り方は、畏まっているように聞こえる。風貌からしても、この国では滅多に見かけることのない黒髪に黒目。全体的に肌は少し日に焼けたような色をしていて、纏う雰囲気も変わっているので、他国の出身なのだろう。


「護衛役は、我々の中でも数多くの実戦を経験した強者だ」


「実戦、ですか」


「うむ。彼女は某の預かる影ノ騎士団の中でも優れた能力を持っておる神騎士ゆえに、重要な任務も請け負うことが多いのでな」


「・・・・・」



彼女、ということは女性なのだろう。レイの元に届けられた書類の中にあった護衛者の名前から、そうではないかと思っていたが、本当にそうだとは。


別にレイとて男だ。女性だからといって弱いとか頼りないなどとは思ったりしないが、守られるということに少し抵抗を覚えた。


騎士であるレイは、誰かを『守る』という立場にあるわけで、『守られる』という立場には慣れていないだけなのかもしれない。


もしかしたら、ずっと側に女性がいるということに対しての緊張、あるいは不安であるということが、一番大きいのかもしれない。


「悪い子ではないゆえ、心配はご無用。任務には、とても忠実である」


・・・『子』?


ウルフィアが自慢するように言ったので、危うく聞き逃すところだった。彼が『子』と言ったので、レイはまさかと思った。


「失礼ですが、護衛者というのは一体幾つで?」


「16か17だと思うが?」



次回、少女の名前が明らかになります。



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