冬の朝、愛しの布団よ
震えるような寒さで目が覚めた。
布団を首もとまでしっかりと引き上げてから枕元にある目覚まし時計で時刻を確認する。
どうやら予定より少しだけ早く目覚めてしまったようだ。
しかし、二度寝するほど余裕がある訳ではない。
今日は友人数名と遊園地へと行くのだ。
何もこの寒い中行かなくてもと思ったのだが、貰い物の入場券の期限が今日までなので仕方ない。
遊園地までは私の車で向かうため、集合場所は我が家であるのだが、おそらく一度部屋まであがることになるであろう。
そのため、多少なりとも部屋を片付けておく必要があるし、身支度も整えておかなければいけない。
起き上がらなければいけない理由がいくつも浮かんでくるが、身体は依然布団の中で沈み込んだままだ。
そもそもこの寒さは一体どういうことなのだ。
例え家賃の安いボロアパートでも、立派な私の城である。
屋根が付いていれば、壁もある。
なのに、なぜこんなに寒いのだろうか。
春からこの家に越して来て半年近い、秋までは充実した住環境であったのに、何がこうも変えてしまったのか。
単純に暖房器具が無いということもあるだろう。
夏は風の通りが良く涼しいと笑顔でお勧めしてきた家主が今となっては確信犯であったのだと気付く。
凍てつく隙間風を恨めしく思いつつ、身を守るため布団の中へと全身を避難させる。
我が家の冷酷なまでに冷たい空気と違い、布団の温かさよ。
柔らかく私を抱擁して離さない愛しく可愛いらしい愛すべき布団よ。
日頃の感謝を表すように毛布に頬擦りをする。
布団さえあれば家など必要ないとすら思えてくる。
冷えた足先を摩擦によって温めているとお腹が空いてきた。
しかし、もう私には布団から離れる気など毛頭ないのだ。
今、私は食パンと牛乳というささやかな朝食を食べている。
同時に私は布団の中に居る。
朝食を食べるためには布団から出る必要があるという、簡単な方程式を覆し、アインシュタインまでもが頭を悩ませた布団のジレンマを、私は解決した。
布団の中で朝食をとれば良かったのだ。
こうして、私は日だまりのような暖かさに包まれて朝ご飯を食べることができた。
飲み物をとればトイレに行きたくなるのは自然の道理である。
ふむ。
水道で手を洗う。
水の冷たさが指先から背筋まで伝わってくるが、少しすればまた温もりが蘇ってくるだろう。
私は相変わらず布団から出ていない。
布団の中にトイレを持ってきたのだ。
私の布団の中はより充実した環境へと作り変わっている。
しかし所詮布団の中である。
何かと手が届かないことも多い。
ふむ。
淹れたてのコーヒーを片手に日曜の朝らしいほのぼのとしたテレビ番組をつける。
そのまま本棚へと向かい、読みかけの小説を取り出し、脚の高い椅子へと座って読み始める。
まるで神から祝福されたような休日だ。
服装は肌着だけで、以前ならば考えられないような薄着だが、今の住環境ならば問題ない。
そう、私はとうとう布団の中に家を建てたのだ。
これで布団の暖かさから離れることなく快適に過ごすことができる。
何やら家の外から騒々しい音が聞こえてくる。
おそらく友人達がやってきたのであろう。
寒い中わざわざご苦労なことだ。
私は友人思いであるので、この布団の中の家へと招いてやろうではないか。
友人らはリビングでそれぞれ思いのままの格好で寛ぎ、着ていたコートやダウンはあたりに脱ぎ散らかしてある。
初めはこの家の暖かさに驚いていたようだが、布団の中であると知ると納得したようだ。
それから余り物の食材で鍋を作り、皆でつつき合う。
この頃には外に出るましてや遊園地へ向かう気などなくなっていた。
それぞれが思うままに日曜の休日を過ごしていたが、夜になれば友人らは自宅へと帰らなければならない。
私としてもこの布団の中の家から追い出すのはあまりにも残酷であるし、もはや死の宣告ではないかとさえ思っている。
なので私は自然な流れで思いついた自分の考えを友人らに伝えた。
我が家では今どんちゃん騒ぎの真っ最中だ。
呑めや唄えやの大騒ぎで、みんな半裸に近い格好である。
季節を考えれば自殺行為であろうが心配ない。
我が家は布団の中にあるので問題ない。
そして、この宴は友人らの引越し祝いである。
私の布団の中に友人らも家を建てることにしたのだ。
そうして時が過ぎると、何時の頃からか、話しを聞いた友人の友人や、その家族までもが、布団の中へ家を建て始めた。
こうなれば一つの村である。
そこでこの村を布団村と名付けることにした。
さて、村長は誰にしようかとなった時、当然のようにこの布団の持ち主である私の名が挙がった。
辞退する理由もないので、私は布団村の村長になった。
こうして布団の中での生活が始まると、出てくる問題が食料不足である。
そこで、村人の一人が畑を耕してはどうかと言い出した。
それは良い案だと村全体で取りかかるが、大きな問題があった。
布団村には太陽が無いのだ。
そうなるといくら種を植えたところで芽が出るわけもない。
そうするとまたある村人がこう言ったのだ。
太陽も作れば良いと。
それから次々と必要なものを作り出していった。
雨を降らすために雲も必要だしそうなると海も作らなければ。
風がなければ雲が流れないのでこの村を自転させよう。
自転をコントロールするために月も作ろう。
その頃には村人も増えていき、いつしか布団県、布団国、そして地球と同規模の布団星へとなっていった。
そうして1年の月日がたち地球と同じ環境である布団星にも冬がやってきた。
震えるような寒さで目が覚めた。
布団を首元までしっかりと引き上げ、枕元の目覚まし時計で時刻を確認する。
どうやら予定より少しだけ早く目覚めてしまったようだ。
しかし、二度寝するほど余裕がある訳ではない。
今日は友人数名と遊園地へ行くのだ。
何もこの寒い中行かなくてもと思ったのだが、布団星の大統領として招待されたので、行かざるをえないのだ。
遊園地までは送迎の車が家まで来るため、集合場所は我が家であるが、身支度を整えなければならないので、そろそろ起きなければいけない。
しかし、依然身体は布団に沈み込んだままだ。
そもそもこの寒さは一体どういうことなのだ。
布団の中に家を建て、その頃までは快適だった生活空間がなぜこんなにも寒くなってしまったのか。
それに比べて、布団の温かさよ。
柔らかく私を抱擁して離さない愛しく可愛いらしい愛すべき布団よ。
日頃の感謝を表すように毛布に頬擦りをする。
布団さえあれば家など必要ないとすら思えてくる。
そこまで考えたあたりで、もう一度布団の中に家を建てようと思い立った。
「おい、起きろ。まったく、いつまで寝ているんだ」
「そうだぞ。寒い中外で待たせやがって」
「たまたま大家さんが通ってくれたから良かったよ」
なぜか私の周りに友人たちが集まっていた。
大変寒かったのだろう、顔が赤くなってしまっている。
しかし、私の布団の中の家に招待すれば。
「こいつまだ寝ぼけてやがるぞ」
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