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妹の苦悩

 今回ごくごく軽いBL表現が出てきます。苦手な方はご注意ください。

「すみません。相澤あいざわ 総司そうし呼んでください。」


 昼休み。私は兄の教室の入り口付近で談笑していた先輩にそう声をかけた。

 あの後、結局体育やら移動教室やらが重なって兄のところまで行くことが出来ず今やっと携帯を届けに来ることができたのだ。というのは半分建前で半分は兄に対する嫌がらせだ。その一環で兄の携帯の電源をOFFにしてつながらないようにしてやった。やきもきしている兄を想像すると、多少朝の出来事に対する溜飲も下がる気がする。


 


 無理やり連絡先を交換することになった変た…げふんげふん…生徒会長からはその後休み時間ごとにメールが届いていた。

 さっきの授業であてられただの、体育で転びそうになったでしょだの、本気でどうでもいいような内容ばかりだ。あんたの事に興味はないし私が転ぼうがあんたには関係ないだろ!てか人のこと見てないで授業に集中してろ受験生!!

挙句の果てには先ほどランチの誘いまでもらったが私はそれらをすべてスルーしている。




 お兄のおかげで面倒くさい人間捕まった。と半ばやつ当たり気味に先ほどの嫌がらせを実行していた。今も教室でのんびりと友人と昼食を食べ、ことさらゆっくりと兄の教室まで出向いている。先ほど呼び出しを頼んだ兄のクラスメートが昼休みの喧騒でざわざわと騒がしい室内に声をかける。


「相澤く~ん。お客さ…ん。」


 声を途切れさせた彼女を不審に思い教室内に視線をめぐらせると、兄は窓際一番後ろの自分の席で机に突っ伏して座っていた。教室内の楽しげな雰囲気とは対照的に兄の周囲にはどんよりと暗い空気が垂れ込め今にも彼からきのこが生えてきそうだ。うわっ近づくなオーラでてる。まさかここまで嫌がらせが効いているとは…。

 なんて兄を観察していると今さら呼ばれた事に思いいたったのかのっそりと教室の入り口の方に視線を向ける。しばらく視線をさまよわせると私と目が合った。死んだ魚のような目をしている。ちょっと怖いんですが…。そんな彼は今にも机を倒しそうな勢いで立ち上がると、教室中にガタンっと大きな音を響かせた。教室が一瞬静まり返り微妙な緊張感が生まれた。き…気まずい…。なんなのこの雰囲気。私はそんな心情を押さえ込み不機嫌な表情を取り繕うと兄に小さく手招きする。

 すると兄は周囲をすごい目で見回しながら猛然とこちらへやってきた。呼び出してくれた先輩のひっと言う小さな悲鳴が聞こえる。家の兄が申し訳ない。

 兄は周囲を気にしすぎて近場が見えていないのか進行方向にある机に多数ぶつかり時折転びそうになりながら寄ってくる。ぶつかっている足が地味に痛そうだ。まぁ通常運転と言えばそうなのだが今日は機嫌が悪いのかいつもの五割増し人相が凶悪だ。先輩が悲鳴を上げるのも納得の人相です。ちょっと落ち着けブラザー。

 多少の恐怖心はあるものの、これだからドジっこはと内心ニヨニヨしながら眺める。ちなみに不機嫌な表情は取り繕ったままだ。兄が私の元にたどり着くと教室内の喧騒が再び戻ってきた。


「雅。どうかしたのか?」


私が無言で兄の携帯を突き出すとそれを見た兄の目がみるみるうちに見開かれる。


「お前、これどうしたんだ?」


私は朝の出来事を思い出しつつぶすくれて返事をする。


「今朝、それを拾った人から連絡があって預かってきた。」


瞬間今までの不機嫌オーラが消え去り兄の周囲がパッと明るくなった。


「マジかっ!何度かけてみてもつながらないし、どうしようかと思ってたんだよ!」


 そりゃそうだ。電源切ってたし。

 兄は早速電源を入れると電池の有無を確かめたようだ。ほぼ満タンであることを確認して、つながらなかった原因を推察したのかこちらを胡乱気な目で見てきた。私はささやかな嫌がらせが成功したことに顔には出さず満足する。しかし兄をこのまま放置するのも怖いのでとりあえず言い訳してみる。


「仕方ないじゃん。授業中に携帯鳴ったら嫌だったんだもん。だいたいお兄に来た電話なんて本人の許可もないのに出ないからね。そんなことよりこっちはお兄のおかげで酷い目にあったんだからね。」


 そういった瞬間、先ほどよりずいぶん穏やかになっていた兄の雰囲気がスッと冷えた気がした。兄が口を開き何かを言いかけたとき、私の肩に誰かが手を置きのしかかってきた。


「それどういうこと?聞き捨てならないんだけど。」


 後ろから私の顔を覗き込む様にして問いかけてきた人物に思わず顔をしかめる。城戸きど かける。私の天敵だ。明るい茶色の髪に凶悪な目つき。危ないやつにしか見えない。

こいつは今でこそ兄の親友などと言うポジションに収まっているが私は忘れない。幼い頃それは可愛らしかった兄をいじめていた事実を。

 



 今は180センチを越える長身でガタイのいい兄も、その頃は華奢で女の子に間違われるほど可愛かった。そんな見るからに弱々しい兄にこいつは私が見かけるたびに殴る蹴るの暴行を加えていた。兄も多少は反撃していたようだがあの可愛らしい反撃ではたいしたダメージは与えていなかっただろう。

 見かねた私はある日ちょっとした復讐に出ることにした。近所の公園で採ってきたカエルの卵をやつの服の中に流し込んでやったのだ。幼子の可愛いいたずらだ。その後すぐに兄をいじめるな宣言をし私はその場を去った。そのためそこでどんな話し合いがもたれたのか私は知らないが、それからそういう場面を見ることはなくなった。

 しかし私は後日新たな疑念を抱くのだ。こいつは好きな子をいじめる原理で兄をいじめていたのではないか…と。なぜならその日を境にやたらベタベタと兄にスキンシップをはかるようになり、やたらと優しくなったからだ。アプローチ方法を変えたのだろう。そんな努力の甲斐あってか兄はすっかりだまされ親友だと安心しているが、私は騙されない!こいつはまだ兄を狙っている!他人の性癖にとやかく言うつもりはないが身内に被害が及ぶなら話は別だ。まして兄はノーマルだ。その道に引き込むなんて許さない。



 私はにらみを聞かせて不機嫌に告げる。


「聞き捨てならないってなんですか?」


 あんたには関係ないんだからほうっておいてくれ。てか気安く触ってんじゃねぇ。しばらく睨み合っていると私たちを引き剥がし兄が間に割ってはいる。


「俺も気になる。どんな目にあったんだ?」


 兄の目を見ると先ほど同様冷めきっている。こうなったからにはかなりしつこく追求されるだろう。これはちょっと面倒くさいことになったかも…。


 ひとまずここで切ります。

 妹ちゃんが勝手に勘違いしてるだけで本人たちはいたって健全な友人関係にあります。

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