07 Change ~神がオレでアイツが…~
「ゼァ!」
戦いが始まってから数十分。戦況はやや不利だった。理由はやはり水中のため動きずらいのが一つ。それ以上に
「痛っ!っのやろ!!」
ブシュッ!と音を立てて小さい蛇を引き千切る。
お、おぉ…。肉がえぐれた…、イテェ…。
苦戦してる理由はこの蛇のせいだ。こいつは元々あの怪獣みたいにデカい蛇だ。オレがアイツの身を輪切りにすると、その傷口から蛇―――サイズはそんなに大きくない―――が出てきた。………数えきれないほど大量に。しかも気味の悪いことに切り落としたデカい蛇の頭が襲い掛かってくる。要するに数が多すぎるのだ。
………けど。
「そろそろ決めるか。都牟羽ノ太刀の『本当の力』で。状況もある程度整ったし」
オレは都牟羽ノ太刀を構えながらそうつぶやく。
この状況なら一掃できるだろう。…たぶん。
一抹の不安を感じながら力を引き出すための言葉を紡ぐ。
『日ノ本に在りし宝剣よ我が道を阻む万象を祓い給え!』
そして都牟羽ノ太刀を横に振るう。すると暴風―――水の中だから水流が正しいのか?―――が吹き荒れ、周りにいた全ての蛇が切り捨てられていた。………とは言っても頭だけの蛇は気を失っているだけのようだが。
「…ハァ~、良かった~」
どうやら成功のようで気が付いたらそんなことをつぶやいてた。
良かった良かった!さて怜士はどこにいるのかな?
辺りを見渡すと…。
「ウソだろ…」
いた…。が数多の蛇といっしょにとんでもない状態だった。何でぇ!?
…あれ!?『蛇といっしょに』!?………オレか!オレがやらかしたのか!!
オレは頭を抱えながら怜士を見ていた。するとあることに気付いた。
「何だコレ?」
怜士のほっぺに何か付いて…。じゃないな、生えてるのか。…あ、取れた。
オレはほっぺに生えていた物を良く観察する。
「これは、鱗か?でも何で…」
オレは顔を上げるとデカい蛇の頭が目に入った。そしてある共通点に気付く。
「同じ傷…?まさか…」
オレは確認のために怜士のほっぺの鱗を全部毟った。すると蛇の頭にも変化が起きた。一部の鱗が取れたのだ。
「同化、してるのか…」
これはヤバイ、ヤバすぎる。ここで起きたことは現実にも影響されるのだ。蛇は死んでいないのでこのままだと現実にある怜士の身体も蛇に変わってしまう。そしたら身も心もこの蛇に乗っ取られてオレも「the end」だ。………どうしましょ?いやマジで。
変なテンションになりつつ自分のほっぺを触る。テンションが下がり絶句した。オレも同化が始まっていたのだ。
「絶体絶命、か」
………けど逆にチャンスとも言える。失敗したら…考えるのはやめておくか。
オレは腹をくくり行動を開始する。風が吹き荒れオレと怜士、そして全ての蛇を包む。やがて風は一つの球体のようになる。しばらくすると一人分入るぐらいの風の球体と別れる。そしてその風の球体は上へ上へと昇って行った。
「…シャアアアァァァ」
とりあえずうまくいった。………が、その代償がコレかよ。あーぁ、どうにかしないとなぁ。
☆★☆★☆★☆★☆★
「う、ぅう…」
とんでもない激痛は治まったがまだ身体が痛い。と言ってもさっきの痛みは生きたまま皮を剥がれて肉に塩を揉み込まれるって感じだったが今度は身体の節々がズキズキする。それに倦怠感もあるし…。
…うん。まぁ、アレだ。風邪を引いたのだろう。…たぶん。
ともかく薬局に行こう。身体を動かすのは大変だが固形物を口にする元気はない。だから薬やゼリー系を買う必要があるし。あぁ、飲み物もないから買ってこないと…。
そう決めてオレは痛む身体にムチを打ち出かける。あぁ…フラフラする…。
☆★☆★☆それから三日後★☆★☆★
ゴキッ! ゴキキキッ!
「あ、あ゛ぁ~!肩こった…」
死んだように眠り、起きたら買い置きしたゼリーやら薬やらを口にし、また死んだように眠った。そしたらずいぶんと楽になり今日の朝、やっと動けるぐらいまで回復した。
寝すぎて身体が痛いです。目もショボショボするし。
「どっかの公園で顔でも洗うか…」
とりあえずこれ以上寝てても仕方ないので身体を動かすために立ち上がる。
「よっこいしょ…?」
アレ?オレさっきに何を触った?目をこすり良く見る。黒いウロコがびっしり生えたナニカがあった。
「何コレ…?」
『ナニとは失礼だな。アイボーよ』
「相、棒…。え?まさか…」
『おぅ!スサノオだ!…あ、訂正。「だ」じゃなくて「だった」だな』
「……………」
『どした?………ココロここにあらず、か。慣れろよいい加減』
少なくともいきなり黒い蛇になったヤツに「慣れろ」とか言われたくない、本気でそう思った。
☆★☆★☆★☆★☆★
「え~…。要するに昨日の禍津狂神に乗っ取られそうになったのを助けてくれたと」
『その過程で色々無くしたけどな』
「人間?やめたからねぇ」
『………ヒトに、なりたーい』
「ウッソくせー…」
オレはそう言って目の前にいる訳の分からん相棒にツッコミを入れる。だって棒読みなんだもの。
『ウソとはヒドイな』
「ならもっと感情を乗せなさい。………それよりさっきのは本当なのか」
『さっきってどこ?』
「あ~、オレがスサノオになったって話」
と言って一番聞きたいことを質問した。
どうもオレは人間をやめたらしい。その証拠にさっき買ってきたリンゴを片手で握ったら粉々になった。補足すると憑神使いになったからと言ってこんな化け物じみた握力は無かった。それに加え筋力も上がっているようで鉄板ぐらい道具を使わずに曲げられるようになったし。
するとコイツからの返答は
『ア~ソレネ~…』
だった。
…なんでだろう、すごく嫌な予感がする。主にコイツのせいでとんでもない事態になったような、そんな感じが。
結果的にその予想は当たっていた。………ただし方向性が斜め上だったが。
『お前の身体が木端微塵になっちゃってさぁ』
「……………え゛」
『このままじゃヤバイ!と思ってオレの身体を譲ったワケ。まぁそのしわ寄せが俺に来たわけだが』
「………一つ聞くぞ。木端微塵になったのは誰のせいだ?」
本心から言えば聞きたくなかった。…が自分でも気付かない間に追及していた。
『………ゴメンナサイ』
「…テメェ。覚悟は出来てるだろうなァ」
『デキテマセン!』
「知らんがなッ!!」
『やめー、あ!ちょっ!ホントに止め、アアアアァァァァ!!』
☆★☆★☆★☆★☆★
『やめー、あ!ちょっ!ホントに止め、アアアアァァァァ!!』
「……………」
《どうした…?》
「プロト7110号を発見しました」
《…本当か!?》
「はい。ですが大きな変化を起こしています」
《さっきの声の事か》
「はい。どうやら人間と同等の知能を得たようです」
《捕獲は可能か…?》
「難しいかと。三貴神の一柱が近くにいます」
《そうか。…撤退だ》
「了解」
まさか、ここまで時間がかかるとは…。