蛮族と呼ばれる男に嫁いだお姫様の話
想定外の出来事というのは、いつだって突然やってくる。
こちらにとっては予定調和で、暗黙の了解であったとしても、第三者にとってはどうでもいいことなのだと思い知らせる形で、嵐のように訪れるのだ。
青ざめる事態に陥ったとしても、それは自業自得なのである。
その日。
先ぶれもなく王城を訪れた男が、王への謁見を求めた。
王国の北に位置する山岳地帯に住む辺境部族の男で、魔物狩りを生業にしている彼らは人の営みに興味がないのか、普段は姿を見せる事すらない。
王城に残された記録によると、前回は長大な山脈の奥にある魔窟から魔物が発生する災厄の知らせだった。
すわ天災の知らせかと王城内に緊張が走ったが、用件を告げられて別の意味での狂乱が巻き起こった。
事の始まりは、第三王女と騎士団長の子息が恋仲になったことである。
幸い王家は子沢山でなので伯爵家への降嫁も乗り気であったが、恋をしましたハイどうぞ、と理由もなく与えるには、王女の身分は高い。
もっともらしい箔を子息につけようと、湖に飛来した飛竜の群れを討伐した者に王女を与えるという御触れを王国内に出したのだ。
市井にまで華々しくお触れを出していたのは、討伐できたのはその子息が参加する討伐隊だけという目に見える結果を出すためで、そのための出来レースであることも主戦力である騎士団や冒険者ギルドには通達されていた。
まさか、北の山岳地帯で魔物狩りを生業とする部族の男が、その御触れを真に受け、一瞬で飛竜を殲滅したうえに、王女を求めて王城に直接やってくるとは予想外の出来事だった。
辺境部族の男は上背があり、がっしりとした身体つきをしていた。
戦装束の下は鍛え抜かれた肉体なのは明らかで、片腕に大の男を二・三人ぶら下げても微動だにしないだろう。
男は傲岸に顔を上げたまま、肩で風を切りながら歩き、城の大広間にたどり着くと片手にぶら下げていた飛竜の爪や牙の詰められた袋を投げる。
投げ出された袋の重さがズシャリと広間を揺らしたが、壁際で警護している騎士たちも、案内した侍従も、その無礼を非難することさえできなかった。
そして男は壇上に居並ぶ王族に値踏むような視線を走らせ、国王へと向き直ると不敵に笑う。
「サフィールの王よ。先日の通達に嘘偽りはないか?」
用件のみを口にする武骨さは、荒々しい容姿に良く似合っていた。
浅黒い肌に彫りの深い顔立ち。黒髪に黒い瞳。魔物の毛皮でできた外套を羽織り、竜の皮鎧をまとっているが、その汚れ方からして戦場からそのままやってきたのだろう。眼光鋭く、立っているだけなのに威圧感が凄まじい。
にこやかに微笑みを浮かべていても、背中は冷や汗でびっしょり濡れているだろう父王のこわばった背中を、フェリシアは他人事のように見ていた。
荒々しい男の行動に片頬を引きつらせていても、父王は「是」と言うしかないだろう。
「告知には嘘偽りはなく、真であるが。貴殿の名を聞いても良いだろうか?」
「牙の一族のウル。天空から堕ちた大神の牙のひとつ。こちらは約定を果たしに来たが、花嫁になる娘は決まっているか?」
国王は、返事に窮した。
決まってはいないし、決めたかったのは他の婚姻である。
けれど、未婚の娘は三人いる。どの娘も可愛く愛らしく、親バカと言われようが国内の貴族に嫁がせる気だったのだ。
しかし、北にある山脈から魔物が王国内に出てこないのは、辺境部族のおかげなので関係を損ねるわけにはいかない。
「決まってはいないが、未婚の娘は三人。辺境地への知識は我が身の手落ちで足りないが、我が王女は何処に出しても恥ずかしくない娘たちである」
それを聞いて、ふぅん、とウルは面白そうな顔をした。
当事者意識が強いのか、隣に立つ三番目の王女と五番目の王女の顔からは、すっかり色が抜けて小刻みに震えていた。王妃によく似た顔立ちで、黄金の薔薇・銀色の薔薇と呼ばれるぐらい華やかな美貌もだいなしで、今にも気を失いそうになっている。
フェリシアがどこか他人事のように見ているのは、自身が父王に似てとりあえず美形の範疇でも、他人の印象に残らない素朴な容姿であることを自覚していたからだ。
薔薇に挟まれたカスミソウは主役の座につくはずがないのだ。
それでも第三王女だけは恋仲の青年がいるので避けてほしいわ、という願いが通じたのだろうか。
並ぶ王女を値踏みしながら巡っていたウルの目が、フェリシアで止まった。
新月の夜のように深い闇色の奥に、燃え立つ炎を宿した強く輝く瞳だった。
その美しさに魅入られて、数拍、見つめあう。
「来るか?」
簡潔な誘いに、足を踏み出しかけたフェリシアは、はっとして足を止める。そしてすました顔で国王を見た。
「お父様の許しが出るなら、わたくしが参ります」
その声はざわついた広間の中でもよく通り、国王は統治者と父としての表情が入り混じる複雑な顔で「許す」とうなずいた。
両脇の姉妹はあからさまにホッとしていたが、すぐにまた顔をひきつらせたのでフェリシアは首をかしげたが、ヌッと目の前に差し出された手に目を瞬いた。
皮手袋をはめた手はとても大きく、見上げればウルだった。
いつの間にこんな近くに? と不思議に思いながらフェリシアが手を重ねれば、そのままひょいと肩に担がれてびっくりした。
「まぁ! 天井が近いわ!」
「そうじゃない、問題点はそこではないのだ、娘よ」
ズカズカと歩き出したウルに、大広間の扉の前に騎士や侍従たちが立ち塞がったが、ちょっと腰が引けていることに気付いてフェリシアはクスクスと笑ってしまった。
力ではウルに敵わないと誰もがわかっているのだ。
オロオロとしながら「嫁がせる前には準備時間を」とか「せめて別れの時間を」とか言いながら、王や王妃も親の顔になって追いかける。
そんな一同の様子が不思議でウルはちょっとだけ首をかしげたが、あぁ! と文化の違いに思い至った。
「我ら辺境の部族での婚姻は、娶る側の部族がすべてを用意する。婚姻が決まってからの一年、山で暮らし精霊に許しを求め、精霊に認められたものだけが一族となる。認められなくとも山裾の里に住み、妻として遇するので心配はいらない」
「まぁ! 山で暮らすのは初めてです」
「そうか、それは良かった」
そうじゃない。ちっともよくないのだ、娘よ。という恨みがましい父の目の前で、ほのぼのとフェリシアは笑っていた。
王城での暮らし以外を書物でしか知らないので、あれこれと想像を巡らせて楽しんでいる。
「ウル殿、フェリシアはちょっと変わっているが、王の娘なのだ。それなりに体裁を整えさせてくれぬか」
「山岳内にある部族内での暮らしに必要なものと、里での暮らしに必要なものには差がありすぎる。一年先になるが、生活の場が定まってから頼む。大いなる山は不可侵だが、里は貴殿らを拒まない。いつでも来られよ」
そうして、今度こそ立ち止まることなく歩き出したウルに担がれて、フェリシアは生まれ育った王城を後にしたのだった。
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山での暮らしは、フェリシアにとって驚きの連続だった。
なにしろ居住するのも、フェリシアの知る『家』ではないのだ。
岩山をくり抜いて部屋を作り、ひとつの山がそのまま一族の城塞のようであった。
山裾の里で暮らしに必要な食料や衣服や道具を賄い、山中の城塞に魔物狩りや政を行う部族の中心が暮らす。
牙の一族がまとめる里もひとつやふたつではなかったし、山脈のそれぞれを統治する部族は別々に独立しているので、王城の書庫では蛮族だと侮る記載があったが、まるで連合国のようだとフェリシアは思う。
そしてウルが属する牙の一族は、辺境の部族の中でもかなり大きく中心的な存在だった。
ウルがフェリシアを連れ帰った時に、ちょっとした騒動があったのだ。
なんでも、一族の長は他の部族から嫁取りをすることが多く、大顎の一族や爪の一族からも、候補者からはすでに婚姻の打診が届いていたらしい。
けれどもウルはそれを一蹴していた。
慣例など知らん、迷惑だと、断っても断っても娘の名前を変えて斡旋されるので腹に据えかねていたところで、飛竜刈りで嫁がもらえるという話を聞いたのだという。
「俺は夫婦喧嘩のたびに流血沙汰を起こすような気の強い女は好かん」
あいつらは徒手空拳で魔犬の群れを殲滅するんだぞ、と言語にしがたいしかめっ面をするので、フェリシアは返事に困ってしまう。
一族に認められるためには、武力が必要なのかもと落ち込みもした。
なにしろ、フェリシアは生粋のお姫様で、重い荷物も運べないし着替えも一人でしたことがない。今までたしなんできた音曲も詩作も舞踏も、山の暮らしでは何の役にも立たない。
かろうじて能力を発揮できそうなものは、刺繍などの服飾の知識や多言語を理解して話せることぐらいだろうか。とはいえ、部族独特の言語に関しては知識がないので、これから学ぶしかないのだ。
ただ、城砦の中にはフェリシアと同じく非力な女性も多くいたし、老人や子供も暮らしていた。
山里に下りるのは力や体力のないものかと言えば、筋骨隆々の若者も当たり前に存在したので、精霊の選定なのだと言われても、その違いがフェリシアにはよくわからなかった。
ただ、フェリシアが信じる神のように、彼らにとっても大切な存在なのだと思う。
その程度の理解で大丈夫なのか尋ねると、充分だとウルは笑う。
笑うとクシャリとして、思いのほか可愛らしい、なんて感想は胸の中だけにとどめている。
「わたくし、ウルのために何ができるかしら?」
「お前は俺のものだから、俺の側で笑ってろ。そこらへんで覗き趣味を披露している爺どもに見せる必要はない」
あからさまな独占欲を感じる眼差しで、まるで恋をしているような物言いをするから、フェリシアは胸の奥がくすぐったくなり笑ってしまった。
クスクスと鈴が転がるように笑うフェリシアに満足して、ウルは大きな手でその頭をガシガシと撫でた。
まるで犬の子を撫でるような手つきに、フェリシアは目を閉じる。
ウルの率直な言葉には嘘がなく、不慣れな山暮らしでの不安も不便も吹き飛ばしてくれる。
けれど、時間とともに暮らしには慣れてきたとはいえ、フェリシアには精霊がわからないのだ。精霊に認められなくては城塞では暮らせないのに、わからないモノが受け入れてくれるのだろうか。
消せない不安は、シミのように胸の奥にこびりついて消えなかった。
**************
そうして、フェリシアが母国を出てから一年が経った。
乾いた風に背を押されながら、フェリシアは独りで試練の山を上っていた。
試練は一日で終わらないというので、精いっぱいの水や食料を詰めた荷物を背負っているので、なかなかの重みがあった。
自分のものならば、何を使っても良いから、山頂にたどり着けば終わり。
そう聞いて荷物を用意したのに、その荷物がフェリシアの体力を奪っていく。
ゴツゴツとした岩が目立つ荒れた山で、ところどころに低木や草が顔を見せるが寒々しい風景である。
山頂には精霊の祠があると聞いているが、上を目指すにも足場が悪くてなかなか前に進めなかった。
歩いても歩いても息が切れるばかりで、野宿も三日目になろうというのに先が見えない現実は、さすがにのんきな気質のフェリシアでも心が折れそうだった。
ほんの少し足を止めると、思いのほか疲れている実感があって、まだ日が明るいけれど休憩することにした。
幸い獣の姿もなく、着せられた毛皮の外套が暖かくて凍える心配もない。
ギュウと毛皮を抱きしめるようにして、フェリシアはウルを思い出す。
出立する前に、もどかしそうな顔をしながら、抱きしめてくれた。
嫁入り前の一年間は過度の接触を禁じられているらしく、手をつないだり抱きしめられることはあっても一瞬で、頬への口づけすらなかった。
だから笑って「行ってくるわ」と言えたし、いつもより長かったその抱擁は心に残っている。
「わたくし、きっとウルが好きなんだわ」
父が聞いたら「きっと、なのか?!」と言い、母なら「きっとが余計よ」なんて突っ込んでくる顔が脳裏に浮かんで、ちょっとだけ楽しくなったけれど、すぐに気持ちが沈んでしまう。
初めて会った時、見つめあうだけでふわふわと足元が浮き上がるようで、あの黒い瞳に魅せられた。
手を取って、さらわれるように山で暮らして、たまに故郷を懐かしくは思うけれど、ウルの隣は心地いいので側にいる。
だけど、とても好き、というにはまだ、お互いを知らないのだ。
恋慕より淡く、思慕よりも恋に近い気持ちに、つける名前はあるのだろうか。
足に力を入れてヨロヨロと立ち上がり、フェリシアは歩き出した。
自分の気持ちを知るためにも、この試練をやめようとは思わなかった。
山の頂上に辿りつけさえすればウルの側にいられるのなら、何日かかってでも登らねばならないのだ。
歩き疲れて眠り、日の出とともに起き上がる。
重かった荷物も五日目になると中身が少なくなり、とうとう水が尽きてしまった。
あとどれくらい歩けばよいのだろうか?
空になった水筒に肩を落としながら座っていたけれど、フェリシアは立ち上がった。
朝から霧が濃くて数メートル先が見えないけれど、足元は岩の多い山肌の続きである。
出がけに世話役だった女性から渡されていた杖を頼りに、道の先を確かめながら前へと進む。
右足と左足を交互に出せば、いずれ目的地にたどり着くといったのは誰だったかしら?
疲れているのか思考も散漫で、どうでもいいことばかりが浮かんでくる。
ふと、世話役の顔を思い出した。
福福とした優しい顔立ちの老女である。
織物とお菓子作りが得意な彼女は、荒事の才がなくて血を見るのも苦手だと言っていた。
けれど生粋の戦士である旦那様と、なぜか結婚してしまったのだと可愛らしく笑っていた。
彼女は杖を渡すときにフェリシアの手を握り、なんと言っていただろうか?
「ここではね、食事ひとつ、着るものひとつだって精霊からの借りものなの。自分のものだって胸を張って言えるのは自分の身体ぐらいでしょう? でも、結婚したら自分のものが増えるの。あたしは旦那様のもので、旦那様はあたしのもの。そうやってあたしたちは生きていくの」
口調まで脳裏に再現され、唐突に腑に落ちた。
彼女があんなにわかりやすく教えてくれたのに、どうして聞き流してしまったのか。
ウルだって、ことあるごとに言っていたではないか。
わたくしの手を取って、お前は俺のものだと。
キェェェェェェ!
耳をつんざくような咆哮が轟くと同時に、ブワリと巻き上がった強風で身体が浮き上がりそうになり、フェリシアはとっさに地面に身を伏せた。
顔を上げると、竜が居た。
青々とした鱗が太陽を受けて輝き、大きな翼をはばたかせながら、黄金の鋭利な瞳がフェリシアを見ていた。
飛竜のような本能で生きものを襲うような粗雑さはなく、値踏みする眼差しには深い知性がある。
息を飲むほど美しく、神々しい姿をした、獰猛な生きものであった。
「ウル! わたくしのウル! わたくしのところに来て!」
ほとばしるようにその名を呼べば、ドン、と目の前に影が落ちた。
ウルである。出会った時と同じ毛皮の外套をまとい、革鎧で身を包んだ辺境の戦士。
違いと言えば、その手に巨大な戦斧があることだ。
「おせぇ。やっとわかったようだな」
肩慣らしとばかりにブゥンと頭上を旋回した戦斧が音を立てて空気を斬る。
「精霊よ、こいつは俺のだ」
好戦的な眼差しで威圧をかけながら、ウルは竜の前に立ち塞がった。「近づくなら殺る」と臆面もなく言い放ったウルに、怜悧だったドラゴンの表情が変わった。
人間であれば、うわぁこいつ面倒くせぇ本気でヤリにくる気だ、とデカデカと書いてあるような人間臭さで顔をゆがめたのである。
「やめた。そう何度も我の頸は斬らせんよ」
「俺は何度でも斬りたいが」
ケッと素行悪く吐き捨ててから、精霊はペッと輝く小石を吐き出して「じゃあの」とやさぐれたジジイのような悪態をつきながら消えていった。
唐突な登場と唐突な退場だったので、フェリシアは目をパチクリとさせた。
戦闘になればウルが傷つくかもしれないので、内心でほっとしていた。
「祝い石だ」
ウルに手渡された輝く石は小指の爪ほどの大きさで、ウルの瞳と同じく星を宿した夜の色をしていた。
精霊の口から吐き出されたところを見ていたので、つい、ハンカチに乗せて受け取ってしまう。
「精霊は実体がないから、姿も幻影と変わらん。俺のときもあいつが出てきたが、姿はオオカミだったし、今回はなれそめが飛竜だからその姿を模したのだろう。偉大な力を持っているが、中身は俗物だ」
きゅっきゅと磨くフェリシアの様子に、思わず吹き出しながら、ウルは長い前髪をかき上げて、自分の額を見せる。
「こいつが精霊に山への滞在を許された者の証になる。額か、心臓の上につけるのが常道だが、邪魔にならないならどこでもいい」
「ウルと同じがいいわ」
つけて、とお願いすると、ウルは了承して祝い石をつまむとフェリシアの額に触れさせた。
それだけでぴったりとくっついたのを不思議に思いながら、フェリシアは何度も指先で確かめる。
小さな冷たい手触りに、これでやっと牙の一族の一員になれたのだと、実感がわいてフェリシアは微笑みを浮かべた。
ふわりと花のつぼみがほころぶような笑顔に、ウルは満足げにうなずいて「帰るぞ」と言った。
フェリシアから荷を奪い先を歩き出したが、フェリシアが動けないのに気づいて、すぐに戻る。
うつむいたままフェリシアは頬を赤く染めていた。
「腰が抜けてしまって」
「あいつめ……斬り捨ててやればよかった」
本気なのか冗談なのか判別付きにくい物騒な言葉もウルらしくて、クスクスとフェリシアは声をたてて笑う。
ひょいと肩に担いでズカズカと歩き出したウルに、出会った日を思い出して、フェリシアはぎゅっとウルの外套を握り締める。
「ねぇ、ウル。わたくし、ウルが好きだわ。今日まで気が付いていなかったけど、一目惚れみたいよ」
ピタリ、とウルの足が止まった。
そして、声を上げてゲラゲラと笑い出す。
笑って笑って、ビックリして固まっていたフェリシアがいたたまれなくなり、真っ赤な顔で「もう!」と背中を叩くころになって、ようやく笑い止んだ。
「今更だが、お互いに一目惚れだったことを、俺は最初から気づいていたぞ」
嘘よ、とフェリシアが照れ隠しに叫ぶ前に、ウルは走り出した。全力疾走で、城砦を目指す。
轟々と嵐のように過ぎる風の音に、キャー! とフェリシアは悲鳴を上げた。
尾を引いて遠く過ぎ去る騒がしい二人を、山頂で見送る精霊もあきれたように笑っていた。
―――幾久しく ふたりに幸あれ
こうして、蛮族と呼ばれる男に嫁いだお姫様は、幸せに暮らしたのでした。
【 終わり 】




