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ドラゴンと魔法とアールグレイ  作者: Aドラゴン伯爵
24/24

ロンドンはドラゴンを赦すのか 後編

 二日後。

 リチャードは病院に来ていた。右手には紙箱の入ったビニール袋を持っている。

 受付に目的の病室を聞くと、奥から少し騒がしくて、聞き覚えのある声が聞こえてくる。

「病室に来て怪我人に挑発するって、人の心ないんですかぁ?」

「うるせえな。お土産持ってきてやったのにケチつけるお前が悪いんだよ」

「お土産でスターゲイジーパイはないでしょ。お年寄りですか?」

「俺はまだ三十だ」

 ベッドで寝ているロイヤーと、お見舞いに来ていたヴァージルが言い合いをしていた。

「二人とも病院なんで、静かにしてくださいよ」

「リチャード!?」

「リチャードくん!?」

 二人はリチャードの声を聞くなり、声を重ねて驚いた様子を見せた。

「はい、ロイヤーくん。これお土産」

「あ……ああ、どうも」

「怪我、大丈夫だった?」

「はい……なんとか」

 ロイヤーは呆気にとられていた。

「お久しぶりですヴァージルさん。ヴァージルさんもストライキの影響で、あまり会えてませんでしたもんね」

「あ、ああ……そうだな」

「俺、明日からまた出勤なんです。明日からまた、よろしくお願いします」

「そ、そうか……げ、元気そうで……よかったよ」

「……なんか二人とも変じゃないですか?」

「そ、そんなことねえよ!」

「そ、そんなことないですよ!」

 また二人の声はハモった。

「そうですかぁ?」

 訝しんだ目でリチャードは二人を見つめる。

「まあいいです。じゃあ、俺はこの辺で。ロイヤーくんは早く元気になってね」

「まっ、待てよ!リチャード」

 彼を呼び止めたのはヴァージルだった。

「どうかしたんですか?ヴァージルさん」

「少し……外で話でもしようや」


 ヴァージルとリチャードは病院の庭のベンチに座った。

 噴水の向こうにはテムズ川を挟んでそびえる、ウェストミンスター寺院が、ロンドンを強く主張する。

「なあ、リチャード。お前……俺に……隠し事してたのか?」

 ヴァージルの問いかけに、リチャードは申し訳なさを覚える。

「……はい」

 申し訳なさ、苦しさ、そんなものを混ぜながらも、彼はどこか堂々としていた。

「俺は……ドラゴンを匿ってたんです。まだ一匹も討伐できてない頃に会って、それで……」

「リチャード……」

「ごめんなさい。こんな、裏切るような──」

「なんで言ってくれなかったんだ」

「……え?」

 ヴァージルのその反応は、リチャードの想像していた怒りではなかった。噴水から放たれる水の音だけが静寂の中で音を奏でている。

「嬉しいことも苦しいことも、一緒だからこそのバディだろ」

「ヴァージルさん……責めないんですか?俺は……魔法使いとして……禁忌を犯したんですよ?」

「俺も、お前のその話を聞いた時はビビったよ。信じたくねえとか、悪夢であってくれって思った。でもよ、その優しさがお前のいいところだろ」

「ヴァージルさん……」

「ま、そういうことだ。にしてもよ、お前フロストベルのぼんぼんに追われてたって聞いたぜ?どうやって逃げ切ったんだ?」

 ヴァージルは興味津々に聞いてくる。

「逃げ切れませんでしたよ。捕まって、裁判になって、そこでそのドラゴンが、俺を守ってくれて……それで、俺たちは無罪になったんです」

「へぇ〜。ドラゴンなのにいいやつだな、そいつ」

「でも、条件付きなんで……結構厳しいです」

「その条件って……なんだよ」

 その時リチャードは待ち合わせを思い出し、時計を見た。

 待ち合わせに間に合うためには十一時半には病院を出る必要がある。現在の時刻は十一時四十六分だった。

「あっ!どうしよう、もうこんな時間!」

 リチャードは慌てて立ち上がる。

「ごめんなさい、ヴァージルさん!この話はまた今度でお願いします!」

「あっ、おい!リチャード!」

 ヴァージルはリチャードを止めようとしたが、リチャードは颯爽と走り出してしまった。

「気になるだろうがよぉ〜!」

 テムズ川沿岸の病院の庭には、一人の男の情けない声が響いた。


 今朝、リチャードの家に届いた書面は、以下の通りだった。

 ・件のドラゴンの監視を魔法使いリチャード・オブライエンに命じる。

 ・魔法使いリチャード・オブライエンが職務中などにより、ドラゴンの側にいられない事態となる場合は、ドラゴンの外出を禁ずる。

 ・ドラゴンが安定性を制御できなくなった場合や、街に多大な損害を与えうる、又は与えた場合は魔法使いリチャード・オブライエンが、彼女の討伐責任を負う。


 だが、今のリチャードの頭にはそんなことを考えたり、覚えている余裕もない。

 ただひたすらに自分の家まで帰ることで頭がいっぱいだ。


 家に着くと、プロが不機嫌になりながらリチャードを出迎えた。

「リチャード!遅い!プロとーっても待った!」

「ごめんプロ。話が弾んじゃって」

 魔法石の一人、アルも話に加わる。

「プロさん、今の"とっても"の使い方、今までで一番いいです」

「ほんと!やったー!」

 そして、リチャードの手元の杖も加わる。

「違う文化を学ぶというのは、実に不思議で、面白い」

「ほら、プロ。今日はお出かけに行こう」

「うん!プロお出かけ大好き!」

 リチャードは明日から出勤なので、ストライキの最終日はみんなで出かけようと決めていた。


「リチャード!早く!」

 プロは、はしゃぐようにロンドンの街を闊歩した。

「まっ、待ってよプロ!」

 そして、そこからしばらく後ろにヨロヨロしたリチャードがいる。魔法使いはほうきでの移動が常なため、一日の間にここまで走るのは珍しいのだ。

「あっ、赤色!」

 そういうとプロは立ち止まった。

 しっかりと信号の機能を理解しているようだ。その間に、リチャードはプロに追いついた。

「プロ、その信号は車のための信号だ。プロが見るのはこっち」

 リチャードが指を指した頃には、歩行者用の信号が赤に変わってしまっていた。

「しばらく待とうか」

「リチャードが遅いから!」

「体力つけないとねぇ〜」

 しばらく話していると、再び信号は青くなる。

「プロ、そこのお店に入ろう。そこのサンドイッチが美味しいんだ」

「美味しい?やったー!」

 リチャードとプロは大通りから少し入ったカフェに入る。

 二人が扉を開けると入店を知らせるベルがなった。

「いらっしゃい。ああ、リチャードじゃないか」

「どうも」

 声をかけてきたのはカウンターにいたこの店の店主だった。

「今日はお連れさんも一緒か。珍しいな」

「そうなんです。最近一緒に住み始めて」

「ほお、リチャードも大人になったもんだなぁ」

「ニュアンスおかしくないですか?」

「アハハ。いつもの席なら空いてるぞ」

「ありがとうございます。座ろうか、プロ」

「うん!」

 二人は一番奥の、窓の外がよく見える席に座った。

 この席はリチャードのお気に入りの席だ。

「プロはなに食べたい?」

「これ!あと、これ!これも!」

「ちょちょちょ、そんな頼んだら、お金無くなっちゃうよ……」

「えぇー!」

 プロは残念そうに声を上げる。

「……わかったよ。じゃあ、これとこれは頼んで、次きた時はこれを食べよう」

「…わかった」

 プロの表情を見るに、納得はしていなかった。

 店主はオーダーを承ると、少ししてサンドイッチが提供される。

 そして、プロはそのサンドイッチを、美味しそうに、大口で頬張る。

「ん〜。美味しい〜!」

「よかった。プロはサンドイッチが好きだもんね」

「うん!プロ、サンドイッチ好き!」

 その時、二人の前にもう一品サンドイッチが運ばれた。

「あれ、これ……」

 それはプロの我慢したもう一つのサンドイッチだった。

 運んできたのは店主だった。

「常連さんのお連れさんには、満足して帰ってもらいたいからね。この分のお代はいらないよ」

「……ありがとうございます」

「それと、これもね。ゆっくりしていきな」

 そして、リチャードの前には一つのカップが届けられた。

「リチャード、それなに?」

「ああ、これ?紅茶だよ。多分アールグレイだ」

「美味しい?」

「美味しいけど、プロには少し苦いかな」

「苦いって、なに?」

「まだ分からないって意味だよ」

 そういうと、リチャードはアールグレイを口に運んだ。


 第十二話【完】

本作『ドラゴンと魔法とアールグレイ』を手に取っていただきありがとうございます。作者のAドラゴンです。

本作は元々エタってしまった別作品の再構成中にアイデアが浮かんで、そこから派生して読み切り、そして連載へと昇華した歴史がありました。

そんな行き当たりばったりな浅い計画性のせいで、今回ストック確保のための長期休載となってしまいましたが、それでも12話、24エピソードを連載し続けられたのは、読者である皆様に支えていただいたからです。

1ヶ月半という短い期間ですが、非常に苦しくも楽しいひと時でした。

なんとかストックを作って今年の上半期の間には戻れるように頑張ります。

それまではこの作品を読み返したり、更新されるかもしれないエタっている別連載を楽しむなどして、忘れた頃の復帰に備えていただければ作者冥利に尽きます。

それでは、またの機会にお会いしましょう。

『ドラゴンと魔法とアールグレイ』にお付き合いいただき誠にありがとうございました。


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