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ドラゴンと魔法とアールグレイ  作者: Aドラゴン伯爵
20/24

Just running away 後編

「その木陰に、奴らがいるよ。その木陰から出てきてない」

 テレサと呼ばれた上空の魔法使いが、二人に指示を出す。

「もう逃げ場はないぜ?トビー、魔法の用意だ。挟み撃ちにしてやろう」

「おう」

 二人組は分かれて、杖を前に向けながら、木陰を探った。

 だが、そこには鳩が二羽いるだけで、何も見当たらない。

「お、おい!あいつらいねえぞ!」

「はあ?そんなわけない。そこから出ていく影は見えなかったもん」

「居ねえもんは居ねえんだよ!いるのは鳩だけだ」

「なんで?ちゃんと探してよ!」

「探すもなにも、こんな場所で探すとこなんかないだろ!」

 二人組の片割れ・ダインと上空の魔法使い・テレサは言い合いになってしまった。

「分かったよ。じゃあ、天文台とかその近くを探してみて。まだ遠くには行ってないと思うから」

「ったく、手間かけさせやがって。現場で戦わねぇくせに態度だけはデカイんだ」

「聞こえてるんだけど?ろくに索敵もできないから、私無しじゃドラゴン討伐できないダイン?」

「やべっ……」

「分かったらさっさと対象探してきなさいよ」

「はいはいわかったわかった。そうカッカすんなって」

 そういうと、二人組はリチャードたちを探しに天文台へと向かった。

 一方のリチャードたちはピンチを乗り切り、一安心していた。

「よくやったぞアル!」

「アルすごい!すごーい!」

「アハハ……そう褒められると照れますね」

 しかし、まだまだこれからだ。ほうきを失った今、どうやって逃げようか。

 リチャードはグリニッジパークの丘の上からグリニッジの街を見渡した。

 そして、彼は発見する。


「やっぱりいねえよ。見当たらねえ」

「ちゃんと探したの?」

「ちゃんと探したよ。それでもいねえんだ」

「まったく、どこいったんだろう」

 魔法使いたちは、あそこまで追い詰めながら取り逃した事に、ガッカリしていた。

 そんな時だった。

「なぁダイン、面白いもんあるぜ」

 二人組の片割れ、トビーが窓の外を指さす。

「ん?なんだよトビー」

「あそこ、観光客みたいに鳩が歩いてるぜ。それも二羽」

「ほんとだ。番かな」

「ちょっと!なにサボってんのよ!早くあいつら探しなさいよ!」

「わかったようるせえなぁ!」

 そう言うと、ダインは連絡を切る。

「あーやんなっちまうぜ、うるさいやつにつべこべ言われんのはよぉ〜」

 二人組は、窓からずっと二匹の鳩を見続けていた。

 だが、その時ダインはなにか不思議に思った。

「なあ、他の鳩はさっきから飛んでるよな」

「ああ、みんな群れで飛んでるなぁ」

「いくら人になれてるからって、あの距離に人がいたら普通飛ばねえか?」

「そういうもんなんじゃないか?」

「それに、なんかこっちをチラチラ見てる気がするぜ……」

 ダインの中でなにかが繋がった。

「あの二匹!さっきあの木の影にいたヤツらじゃねえのか!?」

「え!?」

「あの二匹だ!あの二匹が俺らの追ってるあいつらだ!」

「なに言ってるんだ?鳩だぞ?」

「鳩に変身してるんだ!さっさと追うぞ!」


 一方その頃リチャードとプロは、もう丘の中腹すらも過ぎたところだった。

 これだけ距離が稼げていれば十分かもしれない。

 リチャードが天文台を確認すると、丁度ダインがトビーに対して、窓の外のリチャードたちを指さし、叫ぶように状況を説明しているところだった。

「プロ、バレた」

 リチャードはそういうと、再び木陰に隠れて人間の姿に戻った。

 二人はそのまま、公園を突っ切る。

「待てー!そこの二人!止まれー!」

 二人組は必死にリチャードたちを追いかけたが、そんなことを言っても止まるはずもない。

 ただ、その追いつきようがない距離だけが広がっていく。

「テレサ!アイツらがいた!どっちに向かってる?」

「この方向だと、メイズ・ヒル駅……。アイツら鉄道で逃げる気よ!」

「いっぱい食わされたな」

「バカ、捕まえりゃオールオッケーだぜ」

 リチャードたちは、もうメイズ・ヒル駅に到着した。

 急いで切符を買い、電車を待つ。

 数分後には、遅ればせながら二人組が駅の改札へ滑り込んできた。

「待てー!」

 二人はホームに入ったものの、その時には既に二番線から列車が出発してしまっていた。

 そして、その列車の中には、あの二人が乗り込んでいた。

「クッソー!……クッソオオォォ!」

 ダインはホームの床を拳で殴り、悔しさを爆発させる。列車が出発した後というのもあって、彼らしかいないホームに、悔しい叫びが木霊した。

「ふう……なんとか……」

「プロ疲れた〜」

「大分走ったもんね」

「うん……」

 だが、これで終わりではない。今向かっていく方向はロンドンの主要な駅の一つであるロンドンブリッジ駅。

 いわばリチャードたちは、自分たちが逃げてきた方向へ逆戻りになる。今朝の警察の家宅捜査と、そこから自分のしでかした行為の大きさに、リチャードはドッと恐怖心が帰ってきた。

「俺は……なんて事をしてしまったんだろう……」

「リチャード、大丈夫?」

「大丈夫……ただの独り言さ」

 リチャードの不安を他所目に、列車は間もないうちにロンドンブリッジ駅に到着してしまう。

 監視の目がどこから自分たちを見ているか、検討もつかない。

 降車してエスカレーターを降り、改札へ抜ける。改札は様々な目的地を目指す人々で溢れかえっていたが、その群衆の中でもスコットランドヤードの黒い服はよく目を引いた。

 裏切り者の魔法使いがロンドンブリッジ駅を訪れる可能性は、どこかから伝わったのだろう。

 リチャードは咄嗟に物陰に隠れ、スコットランドヤードの動きを観察した。

「……アル、さっきのやつ、もう一回できるか?」

「任せてください」

「プロ」

「うん」

 二人で魔法石に触ると、彼らの姿はミルミル変化していく。

 身体全身がツヤさえ感じる黒と羽毛で覆われた。彼らはカラスに変身した。

 リチャードは息を飲み、そして合図した。

「……行こう」

 カラスたちは大勢の人がいる改札に足を踏み入れた。

 普段とは違って、地面スレスレの視線。

 目の前は人の足が所狭しと自分たちの視界を遮る。

 この姿では、自分たちがどこへ向かおうとしているかさえも分かったものではないし、人間の大きさや前を向いていて下に目がいかないことから、踏みつけられてしまうのではないかという不安も過ぎる。

 しかし、その低い位置に視線があるということは、スコットランドヤードの視線からも外れるということだ。

 そのおかげもあって、なんとか別のホームに到着した。目的地はない。もし目的地を上げるのであれば、それは誰にも見つからないどこかだろう。


 ──ロンドン・ウェストミンスター宮殿

「裏切り者はまだ捕まらんのか?」

「グリニッジでの目撃報告以降、姿を見せていません」

「一体どうして、どうやってやったと言うのだ」

 宮殿内にある秘匿された議場では、上役たちが裏切り者の魔法使い事件の進捗を気にしていた。

「ドラゴンを匿う。それも、そんな不届き者が魔法使いから出たなんて……私たちのメンツは丸つぶれだ。到底許しておけぬ」

「しかし、逃亡しているそいつも、落ちこぼれとはいえ魔法使いの端くれ。危険性は高い」

 議場の最も高い席に座す議長が、口を開く。

「こうなってしまった以上仕方あるまい。これは、私たち魔法使いとしての沽券に関わる問題だ。そこで私は、彼の捕縛には……コーディー・E・フロストベルを任命しようと思う」

 議場が一気にザワつく。

「彼をですか?実力は申し分無いが……彼は越境任務から帰還したばかりでは……」

「言っている場合でもない。ドラゴンを匿ったというのは国家の一大事だろう。最高戦力の彼に行ってもらうのは妥当だ」

「彼なら間違いない。なにせ、フロストベル家の人間だからな」

「彼が出るとなれば、捕まるのは時間の問題だろう」

 議場はザワついたものの、そのザワつきの中に負けることや取り逃がすという選択肢を挙げるものは誰もいなかった。

「それでは、リチャード・オブライエンの捕縛任務は、コーディー・E・フロストベルに一任する。それで、良いな?」

 議長が問う。議場には、その判断に反対する者は誰一人いなかった。


 その頃、リチャード一行はサウスイースタン鉄道の車両に揺られていた。

 プロは疲れからか、ぐっすりと眠っている。

 リチャードも疲れていたが、追われていることを思うと、そんな眠気も起きない。

 ふと気がつくと、車両はある駅に着いていて、今にも扉が閉まるというところだった。

「出発します。次の停車駅は『ノックホルト』です」

 車内アナウンスがそう告げた。

 そういえば車窓も随分と緑が濃くなったと思っていたが、そんなに遠くまで来ていたか。

 そして列車は、グレーター・ロンドンを脱出した。


 第十話【完】

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