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ドラゴンと魔法とアールグレイ  作者: Aドラゴン伯爵
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Just running away 前編

 ある日のこと、一人の男が王立ドラゴン討伐院を訪ねてきた。

 その男曰く、ドラゴンを匿っている魔法使いがいる。顔写真さえ見れば、その魔法使いが誰かも分かると主張した。

 にわかには信じがたいことではあるが、院は彼の主張を無下にすることはなかった。

 ロンドン中のすべての魔法使いの写真を彼にチェックさせ、そしてついに見つける。見つけた瞬間、彼は目を見開き、ゴクリと息を飲む。そして宣言した。

「……こいつだあぁぁ!」

 彼はあの日のことは鮮明に覚えている。見間違うことなど万に一つもない。

 大物を捕らえようとしたことや、身体が灼熱に焼かれたこと、テムズ川から這い上がった時に感じたドブネズミのような屈辱。

 なにより、この自分に一生消えない傷を負わせたあのドラゴンと裏切り者の魔法使いには、必ず復讐すると決めた。

「時は来たぞぉ……プロティアスぅ……」

 ローブのフードがズレて、彼の容姿が露になる。

 肌は焼け爛れ、醜い大きな傷になってしまっていたが、その骨格と不気味な笑み、そして特徴的な喋り口が重なり、彼の正体が明らかになる。

 その男こそ、ある日行方不明になっていたモーリス・ブラウン・ジュニアだった。

 彼の証言により、スコットランドヤードは、裏切り者の魔法使いの正体をリチャードに定め、捜査を開始したのだった。


「なにするんですか!勝手に入らないでください!」

 リチャードが警察の男どもを止めようとするも、それは叶わなかった。リチャードはガタイのいい男どもに肩を掴まれると、捨てられるように家から出され、一方警察はそんなリチャードと入れ替わるように家の中へと入っていく。

「黒煙!」

 リチャードが大きな声を出すと、リビングに置かれていた杖は黒煙を撒き散らした。

「なっなんだ!?」

「プロ!どこからでもいい!アルと杖を持って逃げろ!」

「わっ、わかった!」

 プロはアルの魔法石と、黒煙の発生源の杖と、リチャードのカバンを手に取り、窓から飛び出した。

 裏手から玄関の方へ回りこむと、そこにはリチャードがいる。

 リチャードとプロは家の庭用のほうきに跨った。

「お前に跨るのは久々だな」

 呟きながら力を込めると、ほうきは気合を入れたように浮き上がり、そして加速した。

「リチャード……あれ、なに?」

「……警察だよ。僕たちを、捕まえに来たんだ」

「リチャード……プロ──」

「大丈夫。プロを……酷い目には合わせないから。プロは、大人しくしてて」

「う、うん」

 リチャードは地上を見下ろしながらほうきの高度と速度を上げる。どこか遠くへ向かおう。少なくとも、自分たちの生活圏である、ロンドンの中心地にはもういられないだろう。


 ほうきを走らせること三十分程度。リチャード一行はロンドンの中心地から外れる。

 見下ろすと、曲がりうねるテムズ川と、大きな丘、そしてその丘の上で存在感を放つ、不思議な形の赤レンガの建物などの個性的な眺望が広がる。

 ここはテムズ川南岸の街、グリニッジだ。

「プロ、お腹すいてないか?」

「……お腹……すいてない」

 ぐうぅぅ〜

 プロの腹の虫は正直だった。プロは自分の本心を暴露されたような気持ちになって、顔を赤くしてお腹を抑える。

「休もうか。ずっと飛び続けて疲れたでしょ?」

「…………うん」

 リチャードはほうきを下降させ、グリニッジに降り立った。

 川沿いから歩くと、この街でも有名な観光地。グリニッジマーケットに到着する。

「プロ、なにか食べたいものある?」

「……ない」

 普段はにこやかな笑顔をしている彼女だが、今日はずっと曇り空のような表情だった。

 なにかを不安がっていることはわかるのだが、どうにもそれが分からない。

 リチャードは、とりあえず食べ物で彼女の機嫌を取ろうとした。

 マーケットのサンドイッチショップで、リチャードはサンドイッチを頬張った。

「ん〜、美味しい〜。ほら、プロも食べなよ。美味しいよ?」

「いらない」

「いいの?」

「いらない!」

 口ではそういうものの彼女の目は、とても食べたそうにサンドイッチを見ていた。

 その瞳はまるで、飼い主から指示されたお預けの命令を全うする犬のようだった。

「そっか〜。じゃあ、俺が食べちゃおうかなぁ〜」

 そういうと、リチャードはサンドイッチを手に取り、大きな口を開けて食べる素振りをした。

「あぁ……」

「食べる?」

「い、いらない!」

「じゃあ食べちゃお〜」

「あぁぁ……」

「フフッ……アハハ」

「リチャード!」

「いやーごめんごめん。プロがあまりにも面白くて……」

「リチャードいじわる!酷い!」

「それで、食べないの?」

「…………食べる!」

 プロはリチャードからサンドイッチを受け取ると、大口であっという間に食べてしまった。

「ん〜ンフフ〜」

 お気に召したようで、プロの顔にいつもの愛くるしい笑顔が戻ってくる。

 リチャードは調子の戻ったプロの様子をみてホッとしながら、ミルクティーのカップを口元へ運んだ。


「美味しかったねぇ〜」

「うん!プロ、美味しい大好き!」

 リチャードとプロはマーケットを後にした。

 その時だった。

「ほんとにいるんすか?ドラゴン匿ってる魔法使いなんて」

「いや、本当らしいぞ。向こうの警察がそいつの魔法で撒かれたって」

「警察の仕事なんだから……うちらに面倒事持ってくんの、やめてほしいっすねぇ」

「そういうな。魔法の事件には魔法のエキスパートが出る決まりだろう」

「ふぁ〜あ。ストライキ明け初仕事なんだから、ドラゴン殺してえっすわ」

 奥から歩いてくる二人組。その会話内容は、間違いなくリチャードやプロのことを話している。

 リチャードの背には冷や汗が伝う。

 自分のことを追っているのは、警察だけではない。

 もっと言えば、魔法使いが追ってくるというだけで、危険度は跳ね上がる。

 なるべく早くこの場を立ち去りたい。

「おい、そこのほうき持ったお前」

 不意に、二人組のボヤいている方が、リチャードに声をかけてきた。

「お前、なんでこんな街中でほうきなんか持ってんだ?」

「僕は魔法使いなんだ。この子の母親を探してる」

 リチャードは咄嗟に嘘をついた。

「へぇ、立派だな。励めよ」

「あ、ありがとう……」

「あとよ……」

「な、なにか」

「この辺りじゃ見ねえローブ着てんな?」

「あ……ああ、俺は別の地域の魔法使いなんだ。たまたまこの街に来ただけ……」

「なんか匂うな。お前、はっきり言ってかなり怪しいぜ」

「なっ、なにが怪しいんだ。言いがかりはやめてくれよ」

「お前──ドラゴン匿ったって噂の魔法使いか?」

「そんなわけないだろ!」

 観光客も多く賑わいもあるグリニッジのテムズ川沿いの空気が、一瞬だけ静まり返る。

「フフフッ……今の反応で、確信に変わったぜ。お前、やっぱりそうなんだな!」

 リチャードはほうきに跨ろうとする。

「させん!」

 もう一人の魔法使いがリチャードの手元に魔法の光線を放った。

 その影響で、ほうきの柄は折れてしまった。

「クソッ!……プロ、逃げるぞ!」

「う、うん!」

 リチャードはプロの手を引いて逃げ出した。

 魔法使いたちは魔法を放とうとするも、多すぎる観光客がそれを阻む。

「クッソォ、人が多すぎる!」

「とにかく後を追うぞ!」

 二人の魔法使いは、リチャードたちを追走する。


 リチャードたちは、マーケットの人混みを上手く掻き分ける。

「待て!通せ!」

 リチャードたちの後方で、魔法使いの一人が喚く。

 その声を聞きつけてか、リチャードたちの前に大男が立ち塞がり、リチャードを捕らえようとする。

 絶対絶命、だったのだが──

「リチャード!捕まって!」

 プロが突然、リチャードにそう命令した。縋るものは他にない。リチャードは素早くプロの背中側へ回り込むと、プロは大男たちすら飛び越えるような跳躍を披露した。

「あれはなんだ!?」

 飛び越えられた大男たちや、その場にいた観光客たちはどよめいた。

「マ、マジかよ……」

 魔法使いの二人は呆気にとられた。しかし、気を取り直す。

「ダイン、回り込むぞ!」

「ああ、増援も呼ばねえとな」


 一方のリチャードは、再び二人で走り逃げていた。

「すごいじゃないかプロ!」

「うん、プロすごい!」

「でも……ほうきが無くなっちゃったなぁ。これからどうする……」

 リチャードが考え事をしているといつの間にか空には、ほうきに跨った別の魔法使いがいる。

 深紅の地に白いのレンガのような縁どりが施されたローブは、グリニッジに所属する魔法使いを意味している。

「増援か……」

 攻撃する素振りは見せない。だが、なにやらぶつくさと喋っている。

 その時リチャードは、背後からあの二人組が迫ってきていることに気づく。

「サンキューテレサ!お縄に付いてもらうぜ、カス魔法使い!」

「あの魔法使い、位置を教えてるんだ」

 リチャードはあの増援の真価を知ると、逃げる方向を変化させる。

 その先にあるのはグリニッジパーク。広大な敷地には、多くの観光客がいたのだが、それでも密度は並程度だった。

 リチャードとプロは、再び観光客の間を縫うように逃げていく。

「ちょこまかとしやがってえ!」

 なんとか二人はリチャード一行を追おうとするものの、人の流れに苦戦して距離がどんどん離れていく。そして、二人は彼らを見失う。彼らの位置を目視可能な人間は、上空にいるテレサと呼ばれた魔法使いだけだった。

 だがリチャードも、この状況は不利だと感じていた。公園の奥の方へと進んでいる上に、自分たちの進行ルートが、第三者を経由してバレているというのは非常に都合が悪い。

 そんな状況を打開できないまま、リチャードたちは天文台の麓まで来てしまった。ここからは文字通り先がない。この道の終点はすぐ目の前まで迫ってきていた。

 そんな時だった。

「リチャード!アルに触って!」

「え?」

「アルが言ってる!」

「わ、わかった!」

 プロがなにかを感じ取ったのか、リチャードにそう命令した。リチャードはプロと共にその命令に従って、アルに触れる。

 すると、みるみるうちに二人の姿が変わっていく。

 変身が終わると、フサフサとした羽毛や細い脚、クチバシや目元まで二人の容姿は鳩のそれになっていた。

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