表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴンと魔法とアールグレイ  作者: Aドラゴン伯爵
12/24

秋雷 後編

 空を飛びながらも、リチャードは先程の一件が納得できていなかったので、杖に対して文句を垂れていた。

「なんで止めたんですか?」

「男の掟というものだ」

「考えられないですよ!普通主人の肩を持ちますよね?」

「それはそうだが……あの場面は私の魂が彼の味方をしたのだ。石としては君に付き従う」

「これであのお店が被害にあったら、ヴァージルさんや協会にどう説明するんですか?」

「案ずるな。あの男は自らの責任は自分で果たせる男だ。あの佇まいは、そう言っている」

「もう流されちゃったんで信じるしかないですけど……次からはやめてくださいよ?」

「善処はするが、期待はしないでくれ」

「全くもう……」

 そんな口論をしていると、耳が壊れそうなくらいの鋭い衝撃音がロンドンに木霊し、空気を揺らめかせた。

 落雷だ。しかも、普通の雷の比じゃない衝撃音。

 リチャードが空を見上げると、雷雲はもう真上と形容出来るくらいに、迫ってきていた。

 雨も次第に強まってきていて、スコールのようになってくる。

「……ヴァージルさん……頼みますよ」

 リチャードは天を見上げながらそう呟いた。


 街のパトロールがもう一息で落ち着くというところで、大雨の中、リチャードは道端で体育座りをしている人を見つける。

 こんな深夜、それも大雨と雷の夜、静まり返った街の中にたった一人だけだ。

 見つけるや否や、リチャードはすぐさまその人に声をかけにいった。

 近寄ると、ぐしょぐしょに濡れた黒いパーカーを着た若い女性──いやティーンエイジャーと言った方が近いか。そんな風貌に見える。未成年となれば、より一層こんな災害の迫る夜に一人で居てはならない。

「君……どうしたの?こんな雨の中じゃ、風邪ひいちゃうよ?」

「あんただれ?」

「俺はリチャード。魔法使い。ここは危ないし、家は近い?」

「……ほっといて」

「そんなわけにはいかないよ。君、まだ成人じゃないでしょ?」

「ほっといてって、言ってんの」

「無理だよ。ここにはドラゴンが来るかもしれないんだ。危ないし、家に帰ろう」

「……帰りたくない」

「……どうして?」

「……ママと……喧嘩した」

「喧嘩?どうして?」

「私、勉強苦手だから……出来損ないだって」

「その出来損ないって本当に言ったの?」

「…………」

 少女は黙り込む。

「まあいいよ。とりあえず一旦ここは危ないから。ほうきに乗ってどこか行こう。ほうきの上でも話は聞ける」

「………………うん」

 リチャードは少女をほうきに乗せると、力を込めてほうきを飛ばした。

「うわぁ、凄い!飛んでる!」

「本当はこんな雨の中を飛ぶより、晴れた日に飛ぶ方がずっと楽しいんだけどね」

「凄い……ねぇ、魔法使いって、なにするの?」

「そうだなぁ……ドラゴンと戦うのはもちろんだけど、それ以上にロンドンを守るって気持ちが強いかな」

「そうなんだ……」

「うん。俺も街を守る魔法使いに憧れて、魔法使いになったんだ。その憧れの人みたいには……全然なれてないけどね」

「夢を叶えてるってだけで……尊敬しちゃう」

 リチャードはそう言われると、嬉しさから少し照れてしまう。

「私は……自分がなにになりたいのか……分からない。夢がないの。お医者さんになりたいとか、先生になりたいとか、サッカー選手とか、歌手とか。そんな、将来の夢が……」

「……そうだね。夢を見つけるのは大変かもしれないね」

「……」

「だからこそ、色んなものをやりたいと思えることが大事だと思うよ。色んなことを試して、合ってることをすればいいんじゃないかな」

 リチャードが答えると、少女はハッとした様子になる。

「……なんで?」

 少女がリチャードに尋ねる。少しだけ声が震えていた。

「なんで、優しくしてくれるの?」

「君がロンドンにいるからだよ。俺の仕事は、ロンドンの街や人を守ることだからね」

 雨が弱まって、視界が見やすくなると、暗闇の中で、一つだけ明かりが灯っていた。

「そうだ!」

 リチャードは閃いたように、その灯りの元へ向かう。そこは、さっきのバーだ。

「いらっしゃいませ……おや、またあなたですか……何度も言いましたよねぇ。ここを閉める気は……」

「違うんです!お店を閉めろと言いに来たんじゃないんです!」

「……」

 店主は不思議そうにリチャードを見つめる。

 リチャードの後ろから少女が出てくる。

「おや、この子は……」

「家出したらしくて……今晩だけでいいんです。ここに居させてあげてくれませんか?お願いします!」

 リチャードは頭を下げて、店主にお願いした。

「魔法使いさん。バーは大人の世界です。託児所ではないんですよ?」

「でも……」

「ソフトドリンクを用意します」

 店主はそう言うと、棚からネクターのシロップとソーダを用意する。

「え?なんで……」

 リチャードは唖然とする。

「あなたのお願いに乗ったに過ぎませんよ。確かにバーは大人のためのお店です。ですがそれ以前に、この店は、夜に居場所のない人達のための場所です。そこに、年齢による縛りはございません」

「!……ありがとうございます!」

 リチャードはもう一度深く頭を下げる。そして、リチャードは少女から自宅の住所を聞くと、お礼を言いながら、バーを後にした。

 二人きりになった店の中で、少女はサイダーを口に含む。

 マスターは、タオルや着替えを奥から取り出して、少女に渡す。

「体を拭くといいでしょう。服は申し訳ありませんが、私の娘のものを貸します。そのままでは体に悪いですから」

「ありがとう……ございます……」

 マスターはカウンターから背を向ける。

「あの……」

「どうかしましたか?」

「あの人とは……知り合いなんですか?」

「……知り合いではあります。知り合ったのは、今日ですがね」


 一方のリチャードは、少女から聞いた住所へ向かった。

 ロンドンの住宅街の一角。ファミリー用のアパートの一室だった。

 リチャードがドアをノックすると、一人の女性が顔を出す。リチャードは一目見て、彼女の母親だと理解した。

「エマ!…………すみません。……その、なんの用でしょうか?」

「お電話での早急な連絡ができなくて申し訳ありません。俺……私は、魔法使いのリチャード・オブライエンと申します。お宅の娘さんなんですが、安全な屋内に誘導しましたので、報告しに参りました」

「エマ……エマは無事なんですか?」

「無事ですが、この家に送るには遠すぎると判断して、別の場所に預けています」

「そ、そうなんですか……ご迷惑おかけして、申し訳ありません。あの子反抗期なので……」

 母親は頭をヘコヘコと下げる。

「とんでもない。いい子でしたよ。ただ少し、悩み事があったみたいです」

「本当に、ありがとうございます」

「それでは、俺はこの辺りで失礼します。嵐に気をつけて」

 そして、リチャードはほうきで飛んでいってしまう。

 母親は、リチャードが見えなくなるまで、家に入ることなく頭を下げ続けた。


 雨が打ち付ける銅像は頭から絵の具を被ったような、緑青の跡がつき始めていた。

 リチャードは街を見回りながら、雨粒や雷を無制限に落とし続ける天を見上げる。

 ふと、なにかそれ以外のものも降ってきた。

 それのシルエットが鮮明になると、リチャードは驚愕した。

「人だ!」

 リチャードが動くより先に杖が反応していた。そして、猛スピードで落下点に入り、リチャードは空から降ってきた人をキャッチした。

「おぶふ!」

 一人分の重さが重力の加速を加えて一気にのしかかったので、リチャードは情けない声を出してしまう。

 降ってきた人は若い女性で、ローブを羽織っていることから、魔法使いだということが分かる。そして、体には所々焼かれたような傷跡があった。

「大丈夫ですか!?」

 リチャードが大きい声を出す。

「あ……あたし……はあっ!ハア……ハア……ハア……い……生きてる……」

 魔法使いは生きていることを思い出し、呼吸が荒くなった。

「大丈夫……ですか?」

「違う!大変なの!みんなが!この街が!あんなのに!適うわけない!」

「落ち着いてください!」

 リチャードが喝を入れて、その魔法使いは一呼吸を置くことができた。

「とにかくここは危険ですから、どこかに逃げましょう。立てますか?」

「はい……」

 魔法使いはもう一呼吸を置くと頷いた。

 リチャードは彼女をほうきに乗せると、辺りの地理を思い出して、テムズ川の方向へと向かう。

 間もないうちに、リチャードは最寄りの地下鉄の駅に着いた。地下鉄の改札の壁に彼女は寄りかかり、座り込む。そして、自己紹介を始めた。

「私、イザベラ・リー。所属はウィンブルドン。助けてくれてありがとう」

「リチャード・オブライエン。ピカデリーサーカスウィザードワークス所属。教えてください。あそこでなにがあったんですか?」

「……思い出したくもない光景よ。本当に酷い。地獄そのものだったわ……」

 そして、イザベラは悪夢のような光景について語り出す。

「雷のドラゴンが来ることは……分かってたの」

「サウサンプトンの魔法使い連合が、壊滅させられたって聞いて……だから、みんなで……雲の中に潜っていったわ」

 リチャードはゴクリと息を飲む。恐怖体験にそれほどまでに聞き入ってしまっていたのだ。

「でも……想像以上だった。まず私たちを襲ってきたのは……視界の悪さよ。雲の中は何も見えなかった。そこに、あのドラゴンの声が響いて……それと同時に、雷が……横向きに落ちてきた」

「雷が横向き!?そんなの……おかしいでしょ!」

「おかしいのよ!有り得ないことが目の前で……当たり前のように起きて……。わたしの仲間が何人もその雷に当たって…………墜落していくのが見えた。怖かった……。みんな死んじゃ……った…………うぅっ……」

 イザベラは泣き出してしまう。リチャードは背中をさする。

「みんなやられて……逃げたりした。でも……一人だけ立ち向かったの。確か……あなたと同じ、ピカデリーサーカスのローブを着ていたわ。心当たりがあればいいのだけれど……」

 その言葉を聞いた瞬間に、リチャードはハッとした。

「ヴァージルさんだ……」


 第六話【完】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ