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71話:人見知りなチビ竜が頑張りました



 アウリアはハッと顔を上げて、ユリアスに訊ねた。

「転移装置をお使いになったことはありますか?」

「ない」

「近衛騎士たちと移動されるときはどうするのですか?」

「現地で合流するが、転移が問題なのか?」


 そこへアキトの声が降ってきた。

「アウリアさま、殿下の魔力は大きすぎるんで、転移装置など使ったら多次元空間を破壊してしまうおそれがあると、大魔道士さまが言っていました。原理の違いについて話をしたと思いますが」

「それって! (つい)消滅する?」

「はい。おそらくその現象が起きるのではないかと、恐ろしくて試してもらったことはございやせん」

「何の話だ? それが今関係するのかね!?」

 公爵が苛々と言い、アウリアは早口で簡単に説明した。


「小公爵さまは最近転移装置を度々、遠距離で使用されていて、その結果心臓麻痺を起こしていました。心臓に溜まった魔素は、ふだんの生活で溜まったものではありません。転移装置の魔力と結びついたもの。つまり魔道士や魔石の影響を受けているのです。ユリアスさまとは原理が違う力ですから、ユリアスさまがすごく気をつけて魔力操作をしたとて、溜まった魔素は加工物。まだ排泄していないので、一気に爆発したのだとしたら──ひょっとして、ユリアスさまが小公爵の身体にあるおのれの魔力を集めて、ぽいっと外に出せたらいいのでは、あ、ダメですね──アキト?」

「──理屈から考えると」


 アウリアもアキトもあえて言葉にしなかった。

 排出の方法としては悪くない考えに思われたが、ユリアスの力が加わった瞬間、アレンヴィクの身体が消滅する可能性がある。


 ユリアスが少し眉を上げた。

「オレの魔力操作はできていたのだろう?」

「はい。ただそれは、相手の状態が良好であることを前提にしたものです」

「良好? 当然だろう。そなたが病になるなど許さぬ」

(話が少しズレていますが、わたしの健康体が前提なのですね。心得ました)


「小公爵の心臓の魔素と、ユリアスさまの魔力は相容れません。そして小公爵さまが今の心臓の状態で、何度も吐き出すのもよくないのです」

「ではどうするのだ!?」

 公爵が声を荒げさせた。


 アウリアは深く呼吸をした後で、ユリアスに言った。

「ピオニーに、協力してもらってもいいですか?」

「考えがあるのか?」

「はい。成功するかはわかりませんが、ピオニーはユリアスさまとくっつく習性があります」

「なるほど? オレを凌ぐ魔力ではないゆえ、アレンの身体も持ち堪える可能性がある」

「はい、でもピオニーが何をするか、知られたくないというか」

 ユリアスは頷く。

「ここにいるのは関係者だけだ。騎士団には口外せぬよう魔道誓約をさせよう」


(こんなときだけ都合良くピオニーに頼るなんて……でも力を貸して、ピオニー)


 皆の視線を浴びながら、アウリアは独自の空間にいるピオニーを呼んだ。

 ピオニーは愛らしい顔を出して、ちょこんとアウリアの横に立つ。

「リィ! オワタ?」

 午餐会には参加しないものの、別室でもてなしてもらえると聞いて、ピンクと緑のおしゃれなチューリップ型ドレスを着せていた。金髪の頭に大きなリボンをつけている。


「ううん。ピオニーにね。チビ竜になってお手伝いをしてほしいの」

「ワカタ」


 ぴょんと跳びはねたときには、ピオニーは小さな竜に変身し、初めて見る者たちを驚愕させた。

 そのときルミナスが食い入るようにチビ竜を見つめたのだった。

 アウリアやサラの前ではチビ竜になるピオニーだが、ルミナスのいるときはチビ竜にはならなかった。

 アウリアがしつけてきたからだが、ピオニーはチビ竜になる相手を選ぶところがあった。


 アウリアはピオニーにアレンヴィクの腹に座らせた。

「キュゥ?」

「ピオニー、このお兄さんの中にある、()()を感じてほしいの」

「キュゥ」

 ピオニーはユリアスを見て、チチだと認識した後で、アウリアに顔を戻した。

 つぶらなエメラルドの瞳を見ると、ピオニーの力を利用することに躊躇いがでてくる。

(うまくいくかもわからないのに、ピオニーを見世物にして)

「アウリア、失敗はオレが引き受ける」

 ユリアスは言って、ピオニーの頭を撫でた。

「きゅう⤴」

(……そうです。今はやれることはすべてやるのです)


「いい子ね。下にいるお兄さんの中から、チチの魔力を集めてくれる? それを吸収して、火にして吐き出せたら嬉しいの」

 傍目には冗談に聞こえることだが、ピオニーには伝わった。

「キュウウ⤴」


 アレンヴィクが再びゴボッと血のような、光る塊を吐いた。

 アウリアは床に手をつくと、アレンヴィクの耳元に話しかけた。

「身体の中に流れる血液を感じてください。楽にして、身体に力を入れないで!」

 アレンヴィクに意識があることはわかっていた。

 血の涙を流す瞼がヒクヒクした。


 夫人がアレンヴィクの横に跪き、手を握った。

「アレン、力を抜いて、頑張るのですよ!」


 ピオニーの羽がパタパタした。

 次の瞬間、パカッとピオニーが口を開いた。


 ブォォォォォォ……!!


 ひぇえええええ……

 アウリアの想像を遥かに超えた火焔流が噴き出て、ユリアスがわかっていたかのように待ち構えていた片手で、凄まじい威力の炎を吸い込んだのだった。


 騎士たちから歓声が上がった。

 緊張していたのかアウリアはよろめき、すぐにアレンヴィクの顔を消毒シートで二度拭きした。

 瞼をめくり、光を当てると、貧血を起こしてはいたが謎の光は消えていた。


「どうなのだ! アウリア嬢!」

 公爵がうろうろした。

「増殖は止まったようですが、ご子息の体内は焼け野原状態です。ゆっくりと点滴を落として、数日は絶対安静です。カルテを作成しますので、治癒魔道士に渡してください」


「一緒にいてくれないかい?」

 と、レティシアがアウリアの手を掴んだが、ビクッとしたように手を離した。

「手がビリビリするぞ」

「そうですか?」


 アウリアは自分の手を見た。

 ルミナスも触れたが、反射的に手を離す。

「これは魔力だろうね、殿下の」

「あっ、わたしったら、手袋をしないで小公爵さまの血液に触れたのです」

 一度処置を終えた後、廃棄ケースに棄てたためだった。

「僕もびっくりして気づかなかった。ごめん。手袋は必須だからね」

「はい、気をつけます」


 レティシアが消毒液で手を拭うのを見ながら、アウリアはまだ考えていた。

 ピオニーが何度もゲップしながら火を噴いた。

 その様子を見ると、ユリアスの魔力がかなりアレンヴィクの体内を荒らしたことになる。

(あんな間接的な治癒行為でも、ユリアスさまの魔力が体内に入ると小公爵のようになるのです……それでも体力もあって身体も大きい小公爵だから持ちこたえた面もある)

 

 アレンヴィクが公爵夫妻に付き添われて運ばれていくと、ユリアスが言った。

「何を考えている? 気になることがあるのか?」

「ユリアスさま。小公爵に圧迫蘇生を施すときに、彼に身体強化はされましたか?」

「……失念していた。すまぬ」

 アウリアはますます不思議に思う。

「それなのに、小公爵は耐えていたのですね」

「ありえぬのか?」

「……わかりません。初めてのことばかりなのです。ユリアスさまが頑張って制御されていたとしても、小公爵の状態はそもそもよくなかったのですよ」


 するとルミナスがアウリアの肩越しに、頭上をパタパタするチビ竜に目を向けながら、

「アウリア、さっき殿下の魔力を帯びていたのに平気だったね?」

「ふつうはビリビリするのですか?」

 ユリアスに聞くと、「知らぬ」とあっさり言われた。


「毎日ピオニーと一緒に過ごしていて、耐性ができたのかな?」

 ルミナスの言葉に、アウリアはハッとして、そうかもしれないと思う。

(ふふふ、毎日同じベッドで寝ているのですよ)

「ありがとうピオニー」

 両手でチビ竜の胴体を掴むと、嬉しそうにした。

「キュッキュッキュッ⤴」

 首を伸ばしたピオニーが、同じ目の高さになったユリアスの顔に右手パンチを入れた。

「ひっ」

「こいつ!」

「ピオニーったら。どうしたの? 大好きなチチにパンチって、ふふふ」

 ピオニーは再びゲップしたような火を噴き、ユリアスがくっと笑った

「くっつくのと吸収するのは違うようだ。お腹がいっぱいすぎて、腹を立てている」

「ごめんピオニー」


 我が子の話をするような二人だった。

 レティシアが興味深げに観察し、ルミナスはピオニーの状態を知りたかった。

「アウリア、ピオニーはおまえ以外でも触れることができるのかい?」

「はい。サラがお風呂に入れてくれるのですよ。他の方は、そういえば見たことはないです。陛下にも塩対応で、人見知りです」

「サラ殿はピオニーが来る前から、おまえと同居していたのだったね」

「はい。サラはメイドのときのピオニーの教育係なのですよ」

 離れて控えていたサラが、ルミナスの視線に応えて目礼する。


 アウリアの護衛のためだが、サラは人を観察することも役目だった。

 そうして彼らを眺めていると、ピオニーが明確に線引きしているのがわかるのだった。

 ピオニーが近づくのは王太子とアウリア、そして魔力人形として預かった最初の人間であるサラ。

 それ以外でピオニーが触れた人間は、アウリアが腹部に載せたドレイヴェン小公爵だけ。黒猫大魔道士とアキトに殴る蹴るはあったが、アレは人間ではない。


 ――アウリアさまが最初に小公爵の蘇生をしたから、続く殿下の魔力をやわらげたのではないだろうか。ピオニーが素直にくっついたのもそう。

 理屈などわからないが、サラはそんなことを思っていた。



  

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