表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/24

5話:冤罪を晴らしてくださいと頼まれました


 5月になった昼下がり。

 アウリアはピオニーを肩に乗せて、サラと三人で図書館に出かけた。

「これは私の仕事です」とサラはいやがったが、アウリアもたまには外に出たいし、図書館にも行きたい。


 モグラさんとは連絡も取り合っていないが、仕事を始めるときにメッセージを受け取っている。

『ひとりでふらふら歩くな。違反したら減給だ』という、もはや脅し文句。

 これまで自由に歩いていたのに、誰であろうと同行しなければならないというのが、正直なところストレスだった。


「減給されてもいいです。ひとりで出かけます」

 とアウリアが言ったので、しぶしぶサラはアウリアに従ったのだった。

 すると当然のようにピオニーが小型の竜になって肩に乗ったので、アウリアは焦った。

 竜のまま外に連れ出すと騒ぎになると思って。

 ところがピオニーによると、認識阻害をかけることができるらしい。


 肩に乗られても重さは感じなかった。

 動かれるとこそばゆい感じ。

「どこまで小さくなれるのです?」

 訊ねても、ピオニーはツンと顎をあげるだけ。

 

 サラもピオニーの変身を見たときは驚愕していた。

「魔力人形が変身するなどという話は、未だかつて聞いたことがありません」

(そうなのですよ。やっぱりこの子は変わっています。バグでしょうか)

「動物型の魔力人形って、サラは見たことありますか?」

「いいえ。騎士団や軍事宮では、訓練用の魔獣型がいますが、特別に注文しています」

「あら、詳しいのですね」

 サラが一瞬言葉をつまらせた。

「詳しいというわけではありません。父も兄も騎士団所属でして」

「そうなのですね。どおりで、騎士のような雰囲気があるのです」

 サラは頷き、アウリアはそんな雰囲気も凜々しいのですよ、と眺めてしまうのだった。


 ✦~✦~✦~✦~✦

 

 王立図書館まで徒歩15分。

 学問街でもっとも美しい並木道を通っていく。

 世界の智の宝庫デュオクロス大図書館。正面の黒く素っ気ない扉には、古代エメス語で大賢者ディオクロスの言葉が刻まれている。

〈人間が想像できることは実現できる〉

 クリスタルの柱もそうだが、大賢者の言葉は至る所に刻まれている。

 アウリアはその言葉が好きだった。人はまず想像することから始まる。夢を見なければ何も生まれない。


 図書館に入ると、美しい吹き抜けの塔建築物だった。

 壁際に書棚が隙間なく置かれ、それが天に向かって伸びている。

 ここに立てば誰もが智の恵みに圧倒され、胸を奮わすことだろう。

 

 アウリアはうきうきした。

 学生のときも地下に行くことはあったが、課題論文に追われたため、地上階の本棚にお世話になることが多く、地下の書庫に行く時間がほぼなかった。

「本はサラが選ぶのですか? それともモグラさんから、棚の指定があるのですか?」

「指定されています」

「ふぅん」

(では、モグラさんは闇雲に本をめくっているわけではなかったのですよ。気になりますね。詮索は御法度ですが)


 アウリアはこの一ヶ月、12冊の古文書を扱った。

 パールシア王国建国時代か、ひょっともすると王国史以前に書かれた物らしく、解釈があっているかわからない。ジャンルもバラバラで、彼が何を調査しているのか検討もつかない段階だ。



 サラが地下書庫への許可証を受け取るのを待っていると、騒がしくなった。

 黒の法衣を着たデュオクロス裁判官と書記官、子どもたちがぞろぞろと入ってきた。

 その様子はどこか物々しい。白と青緑の格子模様のローブは初等部高学年で、大図書館は利用しない。学問街は案外広く、全寮制の初等・中等部は北エリア。中央通りまで来ることは滅多にない。


「裁判官と一緒ですね。学生裁判とは珍しいです」

 サラが声をひそめて言った。

「ええ」とアウリアも彼らが向かう専用エレベーターへ目を向ける。


 最上階は学生裁判所だ。

 デュオクロス特別自治区では、学生間のトラブルは学生裁判を開く。

 裁判を起こす者が裁判官に申し立てを行い、受理されたら数日内に裁判となる。


「何があったのか、興味ありますね」

「アウリアさま、首を突っ込まないように」

「はいはい」

 学生裁判は誰でも傍聴できるが、子どもの裁判など珍しくても見に行く司法学生はいない。

 大人と違って喧嘩の延長だが、形式的に開くことで、子どもたちを教え導こうという考えだ。

(微笑ましいのですよ。ふふ)

 アウリアも学生だったときに傍聴した。

 思い出して微笑んでいたとき、アウリアを呼び止める声があった。


「アルテ老師」

 少年の声。

 呼び止めたのは、初等部のローブを着た銀髪の美少年だった。

(す、すっごい美少年なのですよ)

 潤んだような青灰色の瞳をしている。

 銀髪はパールシア王国では珍しい。雰囲気からして留学生だと思われた。

 ダイヤモンドと思われるピアスをしているが、その石が放つ光はそれとは違って見える。

 貴族令嬢として世界中の宝石を目にして、一目で言い当てることのできるアウリアにして、何の石かはっきりしなかった。


「老師ってわたしのこと?」

「はい。暁ノ塔に最年少で招かれ、同じように最年少で首席で卒業された方には、老師の呼称を使うと聞いています」

 口調こそは丁寧だが、独特の威圧感が漂う。

「わたしに用があるのですか」

「僕の冤罪を晴らしてください」

「……え?」

 突然のことに、アウリアは反応を保留にした。


 少年は冷ややかに、軽蔑剥き出しで言った。

「デュオクロスがどれほどのものかと思って来てみれば、初等部は不要ですよ。時間を無駄にしたくない。早く行きましょう」

 彼は颯爽と身を翻していく。

「え……」

 肩の上で、キュゥ、とピオニーが小さく鳴いて、アウリアの首をくすぐった。

 アウリアはピオニーの顔を撫で回した。


「何でしょうか、彼は」

 サラも、彼をどう扱うか戸惑っていた。

 相手は子どもとはいえ、明らかに異国の高位貴族の振る舞いだった。

 といって、ここは身分性別年齢国籍も関係ない特別自治区。

 ここでは能力がすべて。

 ゆえに彼はアウリアを老師と呼んで、敬意は払っていた。

「行きましょう。冤罪だというなら助けがいると思います。留学生はどうしても不利なのです。文化や価値観の違いがあって」

「しかしアウリアさま」

「わたしはあらゆる資格を持っていますが、そのうちの一つが法曹資格です。子どもに助けを求められたのに、放っておけますか?」


 アウリアには苦い思い出がたくさんあった。

(貴族の家出娘でしらからね……嫌がらせを受けても誰も助けてくれませんでしたし、侯爵家に見捨てたんだろうとか、悪口もたくさんありました。大切にしていた文具も盗まれたものです)


 サラはアウリアの横顔を見て、肩の竜に言った。

「危険が及ぶような場所ではないと思いますが、アウリアさまがハッスルしすぎないよう見張ってください」

(まあ失礼ね)

 頼まれたピオニーはやる気満々、嬉しそうにキュウキュウ鳴いて羽を動かした。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ