表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/73

45話:相性が悪いようです


 ✦~✦6月5日✦~✦


 その日の午前中、アウリアはエメラルド宮地下にある秘密の会議室にいた。

 ユリアスとレン、王太子付き近衛隊長以下近衛騎士数名、ユリアスの直属部隊〈白竜の牙〉が整列していた。

 ユリアスが〈白竜の牙〉小隊長だというマルス・ランデールを紹介した。


 ラピディオール侯爵家の分家、ランデール子爵家の次男、28歳。飴色のような髪を一つに束ねて、切れ長の濃い飴色の瞳がやけに印象的な若者だった。

 動きやすそうな中衣に、左手首に騎士の銀環、紺手袋、略式の片方だけかけるマントは紺色に近い青色で、華やかな近衛騎士と異なり地味な装いだった。これでもエメラルド宮に出入りするため整えており、ふだんは平民と同じ恰好で動く部隊だった。


 その若さでユリアスの信頼を得ているだけに、実力は折り紙付き。魔力はないが、魔道具に精通して、適応力に優れている。

 すべてレン情報だ。


「マルス、準備は滞りないか?」

 マルスは直立不動で答えた。

「はっ。先発部隊は展開しており、潜入部隊も準備は終えております」


 アウリアは作戦全容を知らなかった。

 朝食中にユリアスが現れて、「会議に顔を出すか?」と言うので、一にも二にもなく頷き、急いで身支度をした。ユリアスはすぐに戻ったが、2時間後、魔道士アキトがモグラ邸に迎えに来て、現在――



 ユリアスの傍らには、アキトと異なる黒衣の魔道士がいた。

 ふたりは思念で会話をするため、内容は聞き取れない。

 アウリアは知らなかったが、ケアンはユリアス付き上級魔道士で、実力は上級の中でもトップクラスだ。


「マルス、これより潜入開始を命じる」

「はっ。潜入終了予定は3日後の正午、報告はその一時間後と考えております」

(すごい。3日で異国の牢獄から救出できるのです?)

「気をつけて行ってまいれ」

 マルスは胸を叩き、一個小隊はケアンの用意した転移陣に移動し、数秒後には去った。


 そうして見送ったものの、アウリアは兄の状況や、救出作戦も聞いていなかった。

「ユリアスさま、わたしは何も教えていただいていないのですが」

 ユリアスはアウリアの背を促すと、ひそひそ話をする体勢になる。


「成功したら話す。目的はピオニーだ」

「ん?」

「今日はアキトに預けよ。ピオニーはそなたから離れぬと思うが、ここでこっそり引き離す」

 ピオニーの魔力が増えたと言っていた。アウリアから引き離そうとした場合、ピオニーが怒って魔力を暴走させる恐れがあると、ユリアスは考えたのだった。

 万が一に備えての、魔力結界が強固なエメラルド宮だった。

(王宮の館で、壁を破壊してわたしを上空に連れ去ったからですね)

 アウリアはピオニーを一瞥した。


 部屋の片隅で、ピオニーと対面して喜びを爆発させている魔道士アキトが、ピオニーの尾っぽを飾る金の環を調整していた。

 ピオニーはちょっとだけチビ竜になって見せたが、すぐメイドに戻って、アキトが近づくとペシッと顔を叩いていた。それを喜ぶアキトのM体質に、周りがドン引きしたのは言うまでもない。



「わかりました。ではそっと部屋を出ます」

「今日はフォレンテ公爵家のお茶会だったな」

 アウリアは話していなかったが、毎日サラからレンへ行動報告がされていた。

「はい。実はあの子を連れて行くことを迷っていたので、よかったです」

 ユリアスが意外そうに眉を上げた。

「いつも一緒ではないか」

 実は、とアウリアはアクリアス公爵令嬢に招かれた際、ユリアスに似ていると指摘されたことを話した。

「そんなに似ているか?」

「指摘されてわたしも思いました。目の色はもちろん、顔もそっくりです」

「そうか」


 ユリアスはメイド・ピオニーよりチビ竜の姿と一緒にいることが多い。

 ユリアスがあらためて眺めようとしたら、ピオニーはポンと変身した。

 その尾っぽには金の環が光っていて、アキトが「調整終わりました」と告げた。

 ユリアスは頷くと、何を思ったか唐突に言った。


「お茶会には、オレも行こう」

(はい? 脈略がまったくないのですが??)


 ユリアスの思いつきに、レンが仰天した。

「殿下! 執務がございます」

 近衛騎士がいるところでは、少しだけ筆頭補佐官らしい口調になるレンだった。

 アウリアも当然レンを後押しする。

「ユリアスさま、今日は女性の集まりです。モグラさんに変装されても、男性を連れては参りません」

「そなた知らぬのか? 男の従者も珍しくないのだぞ?」

 ユリアスの視線がウリアの頭上を取り越して、近衛騎士の端に立っているサラへ向けられた。


「そうだろう? クール騎士」

(そっちに振る!?)


 サラはメイド服で、騎士らしく? 前で組んでいた手を足にそって、ピシッと伸ばした。


「はっ。室内ではなく庭園や外が会場のときは、侍女以外に男性をつけることもございます」

「そうなのですか?」

「はい。私も詳しくはありませんが、外会場の場合、使用人は2名まで同伴が許されており、男女従者の組み合わせが目立ちます」

 まったく参加してこなかったアウリアには初耳だ。


「恐れながら殿下、私とピオニーで同行者枠が埋まっております」

 サラは筆頭補佐官に機転を利かせて人数の話をしたが、ユリアスはすぐさまピオニーに言った。

「ピオニーは留守番だ」

 ピオニーはきょとんして、ユリアスの前でパタパタする。

「きゅぅ?」

 留守番の意味がわからなかった顔だ。これまで自分が置いていかれたことは一度もなかったから。


(もう、そっと置いていくと言われたのはどの口なんです?)


 アウリアはピオニーの顔を自分に向けて、ニコニコした。他愛のないことだと思ってもらえますうにと。


「ピオニー、あなたがユリアスさまに似ていると思う方が多いようなの。騒ぎになるから、アキト魔道士とお留守番してくれる?」

「キュゥゥゥゥ!!」

 ピオニーは驚いた顔で、アウリアとサラを見る。

 愛くるしさに負けそうなアウリアは目をそらし、ピオニーはサラの周りを飛び回った。


 サラはキリリと答えた。

「ピオニー、私に決定権はありません」

「キュウゥ⤵⤵キュウゥゥ⤵⤵」


 ピオニーは誰に頼めばいいのかと、レンや近衛隊長など、その場にいた側近たちを見る。

 皆がかわいらしさから胸を痛めるものの、サラ同様決定権はない。

 すかさずレンが言う。

「殿下が()()()! 執務室で! お留守番でよろしいのではありませんか」

「きゅ? きゅきゅっ⤴」

 ピオニーが関心を示したように、べちゃり、ユリアスの顔に張りつく。

「こら」

 それにはアウリアがむっとした。

「ピオニーったら、ユリアスさまが一緒ならお留守番も悪くないというのです?」

「アウリアさま……」

 サラが「今そう言う話では」と呟くも、後のまつりだった。


 ピオニーがハッとしたようにアウリアを振り返り、ユリアスが顔からピオニーを剥がした。

「ピオニーは留守番だ。オレが同行する」

 レンが悲愴な顔をする傍らで、今度こそ置いて行かれる危機感を募らせたピオニーが、アキトのほうへ素早く回り込んだ。何をするのかと目を向けたら、「フキュン!」と鼻息一つ、彼の後頭部にケリを入れたのだった。

「ぐほっ」

 アキトが面食らって頭を押さえた。

(ええっ! ピオニーちゃんや!?)

「や、やめなさいピオニー」

「キュッキュウ! ゥゥゥゥ!!」

 悪の根源はアキトだと言わんばかりの鳴き方で、アキトを追い払おうとする。

「竜学者のくせに、竜と相性が悪いようだな」

 ユリアスが少し考え込む。

「ち、ちがいますよ! 殿下。私の言動が気持ち悪いようで、それは仕方のないことなんでございます!」


(自覚はあったのですよ)


 アキトは必死だった。ここでおまえは用なしだと言われたら、彼にとっては貴重な研究対象が奪われてしまう。知恵を振り絞って提案を試みる。

「アウリアさまの影に入ることができたら、ピオニーさまも同行できるのではないでしょうか」


 ユリアスが「ふむ、目を離してピオニーが暴れるほうが大変か?」と呟く。

「影に入るとは、どうなるのですか?」

「こうなります」

 アキトはアウリアの影に潜るようにして消え、地面からぬっと上半身を出した。

「きゃっ」

 思わずユリアスに飛びついた。

「ふっ、そなたも驚くのだな」

「当たり前です」


 ユリアスの危惧は一つだった。魔道士は影に入っても外の状況は見ることができるが、ピオニーの魔力のほうが、中級アキトを越えていたのだ。魔道士はおのれより魔力の高い物を、影に入れることはできなかった。


「ピオニーさまが影を作れたらいいのですが、これはおそらく魔道士の特性ですので」

「難しいだろうな」

「はい。ですので、私がピオニーさまに魔力を借りて、影の力を安定させます。そのためにはピオニーさまが優しく、素直に力を貸してくださることが条件ですが――」

 アキトの縋る目に、ピオニーはジトッと目を細めて返す。


「ピオニー、力を貸してやれ。一緒に行けるかどうかの瀬戸際だぞ」

 ピオニーはピクンと羽を動かす。

 ユリアスを見つめた後、びゅん、とアウリアの影に飛び込み、数秒後、ピオニーがちょこんと顔を出した。


「ほぅ、できたようだ」

 ユリアスが感心し、ピオニーは誇らしげにした。

「ほんとうに大丈夫?」

 ピオニーの頭を撫でるアウリアに、アキトが影から顔を出して答えた。

(何となく、ドレスの中を覗かれているようで、気持ちいいものではないのですが)


「影の中でピオニーさまの様子を観察します。長時間は無理ですが、くふふふ、私には至福の時間であります」

(その反応が気色悪いのですよ)


 ピオニーは不愉快そうなので、馬車の中ではメイド・ピオニーでいていいのですよ、とアウリアは伝えたのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ