第8話:「幽霊の話は、だいたい生きてる人間の話だ」
「幽霊って、いると思う?」
「“いる”っていうのが、“実在する”って意味なら、いない。“存在する”って意味なら、いる」
「……え、急に哲学っぽくなった」
「だってさ、誰かが“そこに何かがいた”って思った時点で、その“何か”はもう、存在してんだよ。そいつの頭の中に」
「うーん……そういう意味だと、俺も“いる”側かも。“見たことある”わけじゃないけど、“あれ、今の何?”って思った瞬間はある」
「でしょ。“脳が幽霊を作る”って言うけど、私は逆に、“幽霊を作れるほどに脳が必死になる状況”のほうが興味ある」
「つまり?」
「“何かを失った”とか、“誰かが戻ってこない”とか、“説明がつかない痛み”を処理できないとき、人は“幽霊”ってラベル貼って、保存するんだよ」
「……なんか、妙に説得力あるな」
「あと、幽霊ってわりと“社会的な生き物”でもある。心霊スポットとかって、たいてい事故現場とか火事跡とか、誰かの死が無視された場所じゃん」
「あー、たしかに。“忘れ去られたことへの抗議”って感じ」
「そう。“人として扱われなかった痛み”が、“人じゃない形”になって出てくるのが幽霊。だから、“怖い”って感じるんだと思う」
「じゃあ、幽霊は“死んだ人の残像”っていうより、“見た人の罪悪感”なのかもな」
「うわ、それいいな。採用」
「でもさ、もし本当に幽霊がいるとして、話せたら何聞く?」
「うーん。“あんたの痛みは、ちゃんと終われたか?”って聞く」
「優しいんだか冷たいんだかわかんねえな、それ」
「優しくないよ。ただ、無視されたまま浮いてる声があるなら、拾わないと自分もどこかで幽霊になる気がするだけ」
「……お前、自分のこと“幽霊予備軍”だと思ってる?」
「わりとね。“誰にもちゃんとわかってもらえなかったまま消える”って、よく考えたらもう幽霊みたいなもんだし」
「…………」
「だからせめて、生きてるうちにだけは、誰かの声を“なかったこと”にしないでいようと思ってる」
「それって、つまり俺のこの声も?」
「うん。とりあえず、今の会話は保存してやってもいい」
「うわ、上から目線だな」
「そりゃそうだろ。私はお前の中の、“幽霊にならなかった思考”なんだから」
「やめろ、意味深な締め方すんな。怖いだろ」