表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/13

第6話:「五億年ボタンは世界の解像度を試す装置」


「五億年ボタン、押す?」


「うわ……それ聞いてくるってことは、もうお前の中で答え決まってんだろ」


「決まってる。押さない。あれは“自我の価値”をわかってないやつが押すボタンだ」


「でも記憶消えるんだろ? 押した本人は一瞬で五億年分の報酬もらえる」


「“記憶が消えるからノーダメージ”って考え方、逆だと思ってる」


「逆?」


「記憶が消えるってことは、苦しみを苦しみとして処理する手段がないってこと。永久地獄」


「いやいや、でも体感は本人だけで、しかもその“本人”は消えるわけで──」


「“その時感じた苦しみ”が存在した事実は、消えないじゃん。記憶の有無に関係なく」


「……それは、哲学だな」


「違う、倫理だよ。“消えるからいいじゃん”って言うやつは、“殺したあと忘れたら殺してないのと同じ”って言ってんのと同じ」


「…………」


「あとあれ、完全に“自分だけの話”に見せかけて、“人類観”が出るテストだからな」


「どういうこと?」


「“この苦しみを他人が味わってると知ったらどう思うか”ってとこが完全に抜けてる時点で、すでに“他者”が存在しない思考になってる」


「でもさ、あれってSF的な話じゃん。自分の中だけの問題っていうか」


「そう思えるやつが一番危ない。“自分の中だけ”に人を閉じ込める発想って、虐待も戦争も全部そこから始まる」


「……お前が親になったら、絶対に五億年分の説教しそう」


「するかも。でもちゃんと途中で“つらいなら逃げていいよ”って言う」


「五億年ボタン押したあとじゃもう逃げられないけどな」


「だから押さないの。どんなに金積まれても、“自分の中に世界が閉じ込められる感覚”を五億年味わいたくない」


「……俺、ちょっと前まで“押す派”だったかも」


「それなりに善良な証拠だよ。人は“自分が苦しむ”より“苦しんでることを他人に理解されない”ほうがきついから」


「だから記憶消されるってとこが救いだと思ってた」


「でも逆に言えば、“誰にもわかってもらえないまま”五億年過ごすんだよ? 自分の痛みを、誰も知らないまま。永遠に」


「うわ……それ今聞いて、一気に無理になった」


「でしょ。あれ、実際に押すかどうかじゃなくて、“自分の中のどこまで世界が見えてるか”を測るリトマス試験紙だよ」


「もう押さないわ。押させないで」


「安心しろ。ボタンがあったら、お前の手ごと折る」


「それはそれで五億年級の暴力だろ……」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ