第5話:「理想の恋人なんか、存在しない前提で考える」
「恋人にするなら、どんなタイプがいい?」
「うわ、また唐突に青春みたいな話題持ってきたな……」
「いや別に青春したいわけじゃない。現実にいない理想像を語るって、たまには脳の掃除になる」
「なるほどな、じゃあ俺は……そうだな。気が合って、話してて楽で、一緒にいて落ち着く人?」
「テンプレじゃん」
「うるせえな。いいだろ別に」
「“気が合う”って何基準? 映画の趣味? 食べ物? 温度設定?」
「そこまで細かく考えてないけど……まあ、感覚がズレてなきゃいいかなって」
「じゃあズレたらどうする?」
「話し合って合わせる」
「その“話し合えば解決する”って前提、わりとヤバいぞ」
「え、なんで?」
「“話が通じる”って期待してる時点で、相手に“自分と同じくらい論理的で冷静な人間”を求めてんの。無意識に」
「…………そうかも。お前は?」
「“話し合えないことがある前提”で動ける人がいい。“合わないとき、どう距離をとるか”を知ってるやつ」
「……それ、なんか恋人っていうより、危機管理要員じゃない?」
「恋愛なんていつ破裂するかわかんねえ感情爆弾じゃん。そもそも、誰かと付き合うって“感情が自分のキャパを超えても一緒にいる”ってことだろ」
「でも、そんなんばっか考えてたら、そもそも好きになれなくない?」
「好きになるくらいはできる。“一緒にいよう”って思った瞬間に、全部めんどくさくなるだけ」
「もしかして……恋愛向いてないって自覚ある?」
「バリバリある。“一緒にいて楽しい”より、“一緒にいて壊れない”のほうが大事なんだよね」
「……それも理想だよな。そういう相手、めったにいないし」
「だから聞いたじゃん。“理想の恋人”って」
「俺、“実在しそうな範囲”で考えてたんだけど」
「うん、それが“優しい人”の盲点。現実をちゃんと直視してない優しさは、長持ちしない」
「じゃあ俺、長持ちしないタイプ?」
「かもね。でも一瞬の優しさに救われる奴もいるし、需要はあるよ」
「……フォローになってるようで全然なってねえな、それ」