第3話:「うちの親、何点?」
「“親を大事にしろ”って言葉、あれって宗教か?」
「いやいやいや、いきなり角度すごいな……」
「親ってなんだよ。“育ててくれた”ってだけで何でも正当化されるの、気味悪い」
「いや、でも育てるって普通に大変だろ。飯食わせて、学校行かせて」
「それって義務だろ。“産んだ側”の。そこに“感謝しろ”を強制すんなって話」
「でも恩はあるじゃん」
「恩って、“受け取った人間がそう思うかどうか”で決まるんだよ。“やってやった”って言った時点でそれ、貸しだろ。恩じゃない」
「でもそれ言い出したら、“何やっても文句言えない親”になっちゃわない?」
「違う。“親だから正しい”って前提がクソだって言ってんの」
「……そっか。うちの親、そこまでひどくはないけどな」
「じゃあ聞くけど、お前の親、お前の進路に口出す?」
「……まあ、“せっかくだから大学は”ってくらいは」
「それ、干渉だぞ。優しそうに見える圧力。そういうの、私“家庭型ハラスメント”って呼んでる」
「新しい単語作んなよ……」
「“子どものため”って名目で、親が人生に介入してくるの、マジで危ねえ。しかも大体、“自分の失敗を繰り返すな”って自己投影つき」
「でもさ、それって心配してるってことじゃ──」
「だったら“好きにやれ、困ったら助ける”でいいだろ。“失敗しないようにレール敷く”のは、自分が安心したいだけ。子どものためじゃねえ」
「…………」
「親の期待ってさ、“愛情”って名前の武器なんだよ。“お前のため”って言いながら、自分の理想を押し付けてくる。で、背いたら“がっかりした”ってダメージ与える」
「……それでも、全部が悪い親ってわけじゃないよな?」
「そう思ってる限り、親は反省しねえよ。“私は普通”って言いながら、子どもに無自覚にナイフ突き立ててんだよ、笑顔で」
「……お前んち、やばいの?」
「採点するなら……そうだな。五十点満点で、十七点」
「なんで五十点?」
「百点満点って発想がもう、完璧を期待してるじゃん。現実的に、五十点くらいでいいよ」
「じゃあ……うちは四十五点くらいかな」
「めちゃくちゃ高えな。世界の中では恵まれてる方」
「自分で言ってて、ちょっと虚しくならね?」
「なるよ。でもお互い様だろ。向こうもうちらのこと採点してるぜ」
「どうだろう。そうなのかな」
「そうだよ。昔言われただろ? 〇〇ちゃんはちゃんとできるよみたいな?」
「まぁ言われたけど」
「そうやって採点してんのに、子どもが親に点数つけると怒るんだろうね。ムカつくわ」
「……お前んちって、そんなに仲悪かったか?」
「めちゃくちゃいいよ。明日カラオケ行くし」
「普通の家庭はあんまり行かねぇよ」