第2話:「モテるとかいう公共資源」
「体育祭のフォークダンスでさ、最後まで余ってたら罰ゲームなってんの意味わかんなくない?」
「まあ、行事として盛り上げようっていう……」
「盛り上げるために“相手いない奴=負け組”って空気つくってんの、冷静に見て頭悪いよな」
「でもさ、実際ペアになれなかったら寂しいだろ」
「寂しさってのは個人の感情だろ。それを“あぶれたら恥ずかしいよ”って周囲で煽るのは、もはや文化的暴力」
「うわ、すぐ暴力って言う……」
「じゃあ聞くけど、ああいうペアもの行事って、最初から“相手に選ばれる側”と“選ぶ側”が存在してるの、どう思う?」
「まあ……男子が声かける前提だったりするしな」
「そこで“モテる男子”と“普通の男子”と“選ばれない男子”が一斉に振り分けられるじゃん。公開処刑だよ、あれ」
「女子もそうじゃない?」
「女子は基本“選ばれるの待ち”だから、自分から動くと浮く。でも動かなきゃ“残ってた子”ってラベリングされる。どっちも地獄だろ」
「……まあ、たしかに」
「で、モテるやつらは何しても許される。“あの子たちは違うから”で社会的に無罪放免されてる」
「そこまで言うとさすがに嫉妬っぽく聞こえるぞ」
「違う。あいつら“得してる”自覚がねえのがムカつくんだよ。“運良く生まれた側”のくせに、“自分が努力したから”とか言い出すの」
「努力してるやつもいるとは思うけど」
「でもその努力って、“モテるやつがさらにモテるための努力”だろ? 底辺にとっては、どこまで行っても舞台にすら上がれない」
「それでもさ、そういうイベントに意味を見出す人もいるんじゃないか?」
「そりゃそうだろ。だからみんな参加する。“恋愛をしているふり”も、“楽しいふり”も、全部やる。やらないと、“変なやつ”って扱いになるから」
「だったら、そこまで文句言う必要……」
「文句じゃない。記録。全員が“そういうもんだよ”って黙ってるとこに、ひとつくらい“違くね?”って言うやつがいてもいいだろ」
「……そっか。そうかもな」