1話
「最近バイト受からねえなあ、三連敗」
「顔だろ。あと清潔感」
「うわ、ド直球。励ましとかないの?」
「ない。“明るくて元気な子”しか採用しないコンビニのくせに、真顔の高校生が履歴書持ってったら不採用。そりゃ顔だろ」
「でもさ、社会って“中身が大事”って言うじゃん」
「言うだけ。中身を見てもらえるのは、見た目でふるい落とされた後に残った奴だけ」
「そんな極端な……」
「じゃあ試しに、接客業で働いてるブサイク探してみろよ。駅前のチェーン、全滅だから」
「いや、それ言い出したら雇ってる側が悪いって話になるじゃん」
「当たり前。選ぶのは企業側。でも“選ばれる努力をしろ”って言うのは、選ばれない側にナイフ渡してくる話だろ」
「ナイフ?」
「“お前が悪い”“お前が足りない”“お前が頑張ってない”──全部、切る言葉だよ。そんなんずっと聞かされたら、自分で自分切るしかなくなる」
「いやでも、それは被害者意識が強すぎじゃ──」
「自覚してる。でも正気でいられるほうがおかしいって状況、世の中にいくらでもあるだろ」
「……」
「努力しない奴はダメだって言うけどさ、努力しても届かない奴に“届かなかったお前が悪い”って言いながら笑ってる側が一番怖えよ」
「それでも、そういう場所で働きたくなるのって、なんで?」
「社会科見学」
「見学?」
「人間が“いい人のふりして踏みにじる”瞬間を、至近距離で観察してたいだけ」
「それは、さすがに……病んでるっていうか……」
「分析してるだけ。冷静だよ、むしろ」