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【休載】このジジイ、最強につき!  作者: noah太郎
第1章 ジジィ、目覚める
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第16話 踊りますか

西の森から数百メートルほど離れたところに、小さな丘がある。その丘からは西の森が一望できるため、街に進軍してくるはずの魔王軍が森を抜けた場合、すぐにその位置を把握するにはもってこいの場所だった。


アルベルトは自身が率いている第一歩兵騎士団とともに、その丘に陣を引いていた。父が森へ入ってすでに数刻ほどが経ったが状況に大きな動きはなく、魔王軍はいまだその姿を見せてはいない。だが、それが逆にアルベルトの不安を掻き立てていた。



「心配ですか……?」



丘の一番高いところに立ち、森を見据えるアルベルトに、横に立つアリシアはそう尋ねる。



「まぁな……父の強さは私が一番よく知っている。とはいえ、認知症という大病から快復したばかりで、これまでずっと寝たきりだったのだ。心配にはなるのも当たり前さ。」



アルベルトはアリシアに視線を向けることなく、森を見据えたままそう溢した。その表情には不安と信頼が混じった複雑なものが浮かんでいる。そんな彼の横顔から一度視線を落とすと、アリシアもまた森を見据える。


大将校と謳われたダビド=クロフォードの強さは自分もよく知っているつもりだ。だが、アルベルトとは違って、それはあくまでも彼の過去の実績だった。自分が生まれるよりも前に活躍していた彼の強さについて、文献で読んだり人づてに聞いただけで、目の前で直接見たことは一度もない。


騎士団に入ったのは、彼に会って自分を認めてもらいたかったから。彼の武勇に憧れてその扉を叩き、必死に研鑽を積んできたのは、一塊の騎士では無理だとしても騎士団の団長になればダビドに会うことが叶うかもしれない……そう思ってのことだった。

夢への最短の道筋は見えていた。当時から頭角を見せていたダビドの息子であるアルベルトと同じに地位に昇れば、彼の家に行くことも……。まぁ、理由に少し不純が混じっていたかもしれないが、結局のところ、その途中でダビドは認知症を患い、自分の夢は潰えてしまった。


そんなことを思い返しながら、アリシアは小さくため息をついた。そして、彼女は思う。これまでの努力は無駄ではなかったのだと。


実は、アリシアは定期的にこの街を訪れている。その目的はダビドへの見舞い。時には団同士の演習を設定して。時には休暇を取って観光がてら。時には変装し隠密に。アルベルトやクロフォード家の面々に感づかれないように、様々な方法で細心の注意を払いながらこの街を訪れていたのである。


彼女はこれまで彼の復活を信じて止まなかった。それはまるで、死地に赴いた初恋の人が帰ってくることを信じ続ける少女のように。


ーーーそして今日、彼は復活を遂げた。


彼女の家は誕生の女神ルキーナを信仰しており、中でもアリシア=グローリィは特に信仰が厚い。だから、彼女は今、ルキーナへ自分の思いが届いたのだと確信している。



(女神ルキーナ様。我が信仰と喜びの舞を今ここに。)



とまぁ、今すぐにでも小躍りしたい気分さえあるが、今は有事だ。魔王軍が攻めてきているのに、そんなことをしては第一騎兵騎士団の団長としての威厳が保てない。そう自分に言い聞かせながら今ここに立っているが、どうしても嬉しさが無限に込み上げて、胸の高鳴りが収まらない。このままでは本当に踊り出してしまいそうなので、心の中で小躍りすることでなんとか凌いでいる状態だ。


そんな時、アルベルトから声をかけられる。



「アリシア。」


「踊りますか!?」



一瞬訪れる間にハッとした。そして、すぐに自分の失言を理解して咳払いを一つ。しまったと内心で焦りつつ、何事もなかったかのように「どうしましたか?」と聞き直す。



「……大丈夫か?」


「何がですか?」


「あ……いや……大丈夫ならいいんだが。」



あたかも何事もなかったかのような態度のアリシアに困惑しつつ、アルベルトは気を取り直して口を開いた。



「森の中から何か来るぞ。」


「……本当ですね。しかし、殺意や悪意は感じません。」



アルベルトは「あぁ……。」とだけ呟いて森を注視する。アリシアも同じく視線を外さぬように固唾を飲んで見ていると、ゆっくりと姿を現したのは一人の老人だ。それに、彼の後ろには村人たちの姿も確認できた。



「救護班!急げ!」



怪我人の姿を確認したアルベルトは、すぐさま部下たちへ指示を出す。その言葉に慌ただしく動き出した騎士団たち。それぞれの役割をこなすべく鎧を鳴らす彼らの先陣を切って、アルベルトとアリシアは老人のもとへと駆けつけた。



「父さん!ご無事でしたか!」


「お〜。アルベルト、どうしたんじゃ?そんな真面目な顔して。」



飄々とした態度を見せる父の姿に、アルベルトはホッと胸を撫で下ろす?そして、ことの顛末をダビド自身に確認し始めた。一方でその様子を見ていたアリシアは、ダビドを見て内心で驚愕する。



(まるで何事もなかったかのように振る舞っておられるが……あの方はいったい何体斬ったのだ。)



話を聞くまでもなく、彼を見た途端にアリシアはすぐに理解した。目の前の老人が1人で魔王軍を殲滅したということを。先ほど兵舎で会った時となんら変わりない様子ではあるが、アリシアの眼には彼の闘志の残滓が映って見えたのだ。


ダビドの活躍を想像して、つい惚れ惚れしてしまうアリシア。うっとりとした表情を浮かべ、ちらりとダビドの顔を見ては恥ずかしさを隠すように何度も両手で顔を覆う。それを繰り返していた。

ふと、違和感を感じたアルベルトが振り返る。アリシアは平然とした態度に戻っている。疑問符を浮かべ腑に落ちない様子だが、アルベルトは再びダビドに向き直り、気を取り直して質問を続ける。



「で、村はどうなったんですか?」


「村?あぁ、あそこはわしが着いた頃にはほとんど魔王軍に壊されてしまっとった。」


「そうですか……村人たちはこれで全員ということですね。」


「そうじゃな。なんとか助けられる者は助けたつもりじゃが……」


「いえ、全滅しなかっただけで十分です。命を落とした者は、後で全て弔います。それよりひとつ聞きたいのですが……」



村人たちは助かったことには安堵したが、それでもなお真剣な顔は崩さない。アルベルトが一番聞きたいのはもちろん上級魔族のことであったからだ。逃げられたのか、それとも倒したのか。その結果によって今後の動きが変わってくる。このまま厳戒態勢を敷き続けるべきか。その判断はダビドの言葉に左右される。街の防衛を皇帝から任せられているアルベルトとしては、一番重要なことだった。

だが、ダビドはそれを理解しているかのように、二カリと笑みを浮かべてこう答える。



「安心せい。全て屠ってやったわい。」



その瞬間、アルベルトは本当の意味で安堵した。それと同時に、父の……かつての大将校の復活に期待を高めていた。ダビドが軍に戻る。そうすれば騎士団全体の士気は高まり、魔王軍殲滅へ大きな一歩となるはずだと、そう信じて。


アルベルトはそんな胸の高鳴りを心の内に秘めながら、脅威が去ったことを部下たちに告げると、騎士団は歓喜に包まれた。みな勝鬨を上げて、保護した村人たちと共に街へと帰還を始める。


そんな喧騒の中でひとり、アリシアだけはダビドへ熱い視線を向けていた。

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