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携帯電話の着信メロディーが流れて、我に返った。
最近では着信を示すメロディーが流れると、会社からではないかと疑ってしまう。
しかして携帯電話を開くと、信人からだった。
「あ、お疲れ様です。今大丈夫です?会社ですか?」
「いや、もう家だよ。どうしたの?」
「僕今実家から帰って来たんですけど…小山さん時間あります?今からお土産届けに行ってもいいですか?」
そういえば実家に帰ると言っていた。
急だったが、断る理由は無かった。どうせ後一週間、時間は山ほどあるのだ。
「大丈夫だよ。じゃあ家で待ってたらいい?」
「はい、三十分ぐらいで着けると思うんで」
信人は本当に三十分で到着した。
「どうも、これお土産です。どうぞ」
「ありがと。上がってく?」
「いいんですか?じゃあちょっとだけ」
「どうぞ。ごめん、自分だけ飲んじゃってて」
信人は車で来たようで、なんだか申し訳なかった。
「なんか久しぶりだな」
「そうですね…こっちはどうでした?こんなに早く帰宅してるってことは、例のプロジェクトまとまったんですか?」
いきなり痛いところを突かれた。しかし隠しても仕方なかったので、素直に打ち明けた。
話を聞く信人の顔は、次第に曇っていった。
「そうですか…残念でしたね。こんなタイミングで小山さん外すなんて、部長何考えてるんでしょう」
「…まぁ小林さんなら上手くまとめてくれるだろ。しかし、やっぱ難しいなーこういうのって。お前ならもっと上手くできただろうに」
僕は信人にそう言ってもらえた事が嬉しくて、少し酔っているせいもあり涙腺を刺激されてしまった。悟られないよう、精一杯明るく言った。
「いや、僕は無理ですよ。そういうのに取り組めない人間なんです」
「そういえば、そっちは?」
「えぇ…実は…」
なんだか言いづらそうにしていた。僕に気を使っているのだろうか。
「久しぶりの実家、どうだった?」
「実は…祖父が死んだんですよ」
「あ…そうなのか。ごめん、休暇だとばかり思ってた」
「いえ。僕じいちゃんには随分世話になったんですよ。前から調子悪いってのは知ってたんですけど、中々会いにいけなくて…。僕が戻ったときはもう意識無くてね、ベッドの上で苦しそうにしてましたよ」
信人は淡々と話す。僕は何となく、家族の遺体が並べられた霊安室を思い出していた。
「でも僕が病室について、何て声をかけたらいいかわからなくてただ顔を見ていた時、一回だけ意識が戻って…ガッツポーズしたんですよ、僕を見て。弱って腕なんか細くなっちゃって。だけど…」
だけど?
「だけど、あんな力強いガッツポーズ、僕初めて見たんです」




