表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
軌道  作者: 小雨
8/9

8

携帯電話の着信メロディーが流れて、我に返った。

最近では着信を示すメロディーが流れると、会社からではないかと疑ってしまう。

しかして携帯電話を開くと、信人からだった。

「あ、お疲れ様です。今大丈夫です?会社ですか?」

「いや、もう家だよ。どうしたの?」

「僕今実家から帰って来たんですけど…小山さん時間あります?今からお土産届けに行ってもいいですか?」

そういえば実家に帰ると言っていた。

急だったが、断る理由は無かった。どうせ後一週間、時間は山ほどあるのだ。

「大丈夫だよ。じゃあ家で待ってたらいい?」

「はい、三十分ぐらいで着けると思うんで」


信人は本当に三十分で到着した。

「どうも、これお土産です。どうぞ」

「ありがと。上がってく?」

「いいんですか?じゃあちょっとだけ」

「どうぞ。ごめん、自分だけ飲んじゃってて」

信人は車で来たようで、なんだか申し訳なかった。

「なんか久しぶりだな」

「そうですね…こっちはどうでした?こんなに早く帰宅してるってことは、例のプロジェクトまとまったんですか?」

いきなり痛いところを突かれた。しかし隠しても仕方なかったので、素直に打ち明けた。

話を聞く信人の顔は、次第に曇っていった。

「そうですか…残念でしたね。こんなタイミングで小山さん外すなんて、部長何考えてるんでしょう」

「…まぁ小林さんなら上手くまとめてくれるだろ。しかし、やっぱ難しいなーこういうのって。お前ならもっと上手くできただろうに」

僕は信人にそう言ってもらえた事が嬉しくて、少し酔っているせいもあり涙腺を刺激されてしまった。悟られないよう、精一杯明るく言った。

「いや、僕は無理ですよ。そういうのに取り組めない人間なんです」

「そういえば、そっちは?」

「えぇ…実は…」

なんだか言いづらそうにしていた。僕に気を使っているのだろうか。

「久しぶりの実家、どうだった?」

「実は…祖父が死んだんですよ」

「あ…そうなのか。ごめん、休暇だとばかり思ってた」

「いえ。僕じいちゃんには随分世話になったんですよ。前から調子悪いってのは知ってたんですけど、中々会いにいけなくて…。僕が戻ったときはもう意識無くてね、ベッドの上で苦しそうにしてましたよ」

信人は淡々と話す。僕は何となく、家族の遺体が並べられた霊安室を思い出していた。

「でも僕が病室について、何て声をかけたらいいかわからなくてただ顔を見ていた時、一回だけ意識が戻って…ガッツポーズしたんですよ、僕を見て。弱って腕なんか細くなっちゃって。だけど…」

だけど?

「だけど、あんな力強いガッツポーズ、僕初めて見たんです」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ