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軌道  作者: 小雨
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次の日は休みだった。

休みではあったが、少しでも仕事の負荷を下げるため、会社にこそ行かないにせよ何もしないわけにはいかない。

僕は昼頃起床し、トーストとインスタントコーヒーで簡単な食事を済ませた。

何となくベランダに出てみると、旅客機が空に浮かんでいた。

どこに向かっているのだろう。僕は少しの間、多くの人を運んでいるであろう鉄の塊をボーっと見上げていた。


以前信人と海外出張にいった時の事を思い出した。

彼は飛行機が苦手で、乗っている間は身動きひとつせず拳を握りしめて一点を見つめていた。

冷や汗をかいており、精神的に相当疲労したようだった。

ホテルに着いた翌日、彼は鳩に乗って大空を飛び回る夢を見たと嬉しそうに話してくれた。

苦手意識というものは不思議なものである。


そういえば、結局昨日は信人からの連絡無かったな…思い出したが、あまり気にしない事にした。


このプロジェクトに参加してからというもの、体重は減り続けていた。

思っている以上にストレスがたまっているのだろうか。

僕は夕方頃で仕事を切り上げ、少し外に出ることにした。

Tシャツにジーンズ、サンダルといった、ラフな格好で、携帯電話は置いて行った。

社会人になったばかりの頃はスーツが窮屈で仕方なかったが、一週間のほとんどをスーツを着て活動していると嫌でも慣れる。

人間は慣れる生き物なのだ。例えばそれが窮屈さであっても。例えばそれが無茶苦茶なスケジュールだろうと。


夏は終わりかけていた。

ひときわ暑い夏だったが、それ以上の思い出は無かった。

ここ数年、思い出を食いつぶして生きているように思う。

新しい記憶が更新されないのだ。

昼間は残暑が厳しかったが夕方になると秋の匂いもしはじめ、何となく近所の公園まで歩いてみた。小さな公園だ。

少し喉が乾いていたので、缶コーヒーを買って公園のベンチでぼーっとしていた。

昔は缶コーヒーなんて好きじゃなかった。しかし今ではなぜか缶コーヒーを買ってしまう。決しておいしいとは思わないのだが。


しばらくベンチでぼーっとしていると、ふと公園の入り口から女の子が出て行くのが見えた。

少女には見覚えがあった。確か妹の幼なじみの子だ。

あまり仲はよくないようだったが、何度か家に来たことがあったので、見覚えがあった。

真っ白なワンピースが、夕暮の日差しによく映えていた。

確か、由紀ちゃんっていったっけか。


彼女は高校に行っていない。いや、正確ではない。彼女は高校を卒業していない。何かの事情があって、中退してしまったらしい。当時は近所でも話題になっていた。

本当であれば大学二年生くらいの年だろうが、今は何をしているのだろうか。


どうせ当てもない散歩だった。

僕は何となく彼女の後をついて行った。

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