物語は続くよ、世界の果てまでも㉔
五月三度目の日曜日。僕とウメタカは合唱部の定期演奏会のためにM市民会館を訪れていた。今までだったらこの時間はウメタカの家で格ゲーをしていたけど、せっかくのお誘いだし顔ぐらいは見せようかなってことになった。
「わざわざ自転車で五十分もかけて演奏会に行くなんて、メーセーも変わったな。これも、磐井や多武とつるむようになった影響か」半袖Tシャツの首元をパタパタさせながらウメタカは言う。「一ヶ月前じゃ考えられないな」
「それにわざわざついてくるなんて、ウメタカは相変わらず僕のこと好きなんだね」
「勘違いさせて悪いな。俺も磐井に招かれたんだ」
「何と! プロデューサーに隠れて一般人にサービスするなんて。後で説教だ」
「そう茶化しているけど、実際のところは嫉妬だろ? 愛い奴め」
「違うからー」違わない。
演奏会終了後、会館から出たらタマからLINEがあって、近くの図書館(市内のものよりだいぶ規模が小さい)の銅像付近で待っててほしいとのこと。
「あら、継橋君と大友君」私服姿の多武さんと出会った。上は白のブラウスの上にクリーム色のベストを羽織り、下は茶色のハイウエストパンツ。女子の私服見るとドキッとする。
「多武も磐井待ちか?」
「ええ。この後、私の家で──」と、辺りを見渡し、小声で「新曲制作の続きをするの」
「そうなんだ。進捗は?」
「それがね、二人で作曲するの久しぶりだからペースが合わなくてちょっとギクシャクしちゃってる」その割には嬉しそうに笑って「でも、ここからまた始まるんだって思ったら、ワクワクしてきたの」
「そうですか」
「あ、でもね」多武さんはポケットからスマホを取り出して「二人共、こっち来て」
問います アナタは動けますか?
自信なくしたむっつり人形は
短い足で 揺れに揺れ揺れて
現実味ない理想 隠しながら
戸惑い 答え違えて また止まった 黙った
オッ? トットット オッ? トットット イイカ イイカナ(んっ?)
オッ? トットット オッ? トットット イイヤ イマイヤ(んっ?)
未来見えない見栄っ張り人形は
長い腕で 回り回回り
不安な気持ちすら 騙しながら
ふらつき 答えたがって また止まった アガッた
オッ? トットット オッ? トットット イイナ イナイナ(んっ?)
オッ? トットット オッ? トットット イヤヤ イヤイヤ(んっ?)
応答 到頭 堂々 朦朧 否だ 嫌だ嫌だ(んっ? んっ?)
えっと、どーゆうつもり?
「マジで⁉ 『動揺不稼働人形(Antinomy toy)』だ! カバーしたんだ!」
「しっ……! 声が大きい」
「えっと、何の曲だ?」
「あ、そうか。ウメタカ知らないんだっけ。この曲は──」
僕と多武さんでみっちり『多分私の人生P』に関する即席講義を行った。途中から「おう」とか「そうか」という返事しか出来ないくらい僕達の熱に圧されていた。
「それにしても、どうしてこの曲を歌ったんですか?」
「……雑談していた時に流れで」
「へぇー。それにしても上手いですね。リズムが独特でサビとか結構高音なのに」
「……歌だけ? ギター演奏は?」青筋を立てた顔を近づける多武さん。鏡見ろ!
「ももも、もちろんギターも上手いですよ。ねぇ、ウメタカ?」
「そうだな。俺は歌うのも演奏するのも不得手だから感心させられるよ」
「そうでしょ? えへへ……」
「お待たせー!」タマが来た。
「磐井さん、お疲れ様」
「良かったぞ」
「ありがとー!」
図書館から出入りする人達がチラッとこっちを見てくる。当たり前か。
「早いとこ、移動しましょ」
「うん。あ、そうだ! 伴奏している時に思いついたんだけど──」
「その時くらいは集中しなさい」
「はーい……」
「で、何を」
「えーっとね──」
二人はドンドン進んでいっちゃって置いて行かれる僕とウメタカ。
「仲が戻って良かったな。功労者としてどんな気持ちだ?」
「達成感はあるけど、反省点もそれなりに」
「でも結果が良かったんだから、あまり気にし過ぎない方がいい」
「そうだね」
これで終わったー! と素直に喜ぶには、謎が残り過ぎている。
四回に渡る、ユメシンクロ(そんなこと言えば桜月夜の時点で謎だけど、それは一旦置いといて)。これで終わりなのか、他の人の夢を見たとしたら僕はどうすべきなのか、そもそもこれは何なのか謎を究明すべきなのか、と色んな懸念が浮かんでくる。
でもまぁ、今は、二人の再始動を祝福するとしよう。
「あ! すっかり忘れてた! メーメー、実はね──」
「ん? カバーのこと?」
「何で知ってるの⁉」
「え、だってさっき……」多武さんの方を見る。
「舞奈ちゃん、言っちゃったの⁉ どうしてー? 私が発表したかったのにー!」
「こういうのは早い者勝ちよ」
ワイワイガヤガヤと(主に女子二人が)騒いでいるうちに、駐輪場に着いた。
「二人とも、これからの予定は?」と多武さん。「折角だし、私の家来る?」
「いいんですか⁉ 女子の家とか小五以来だな!」
「邪魔したところで何も手伝えることはないが」
「そんなことないよ。歌詞を考えるのに男子の意見を聞きたいんだ」とタマ。
「だが、俺はともかくメーセーはヘンタイだから歌詞も淫猥になるんじゃないか?」
「流石の僕も女子の前ではそういうの控えるぐらいのモラルはあるんだけど⁉」
「……継橋君、また学校で」
「信用されてない⁉」
困った表情をしながらも、心は満面の笑みを浮かべている。
親のこととか、学校のこととか、煩わしいことは残っている。
そしてこれからも、色んなことが起こるだろう。
その度に僕は頭の中で考え過ぎて、面倒になって、投げ出しそうになるだろう。
でも……あー、そんなこと考えるのすら面倒くさい。
先のことなんてわからないんだから、考えても時間の無駄だ。
だから、僕は深く考えない。都合良く解釈して飄々としていく。
していけるに、決まってる。
すっごく中途半端だけど、とりあえず今回の夢はここまでってことで──