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仁科愛美から河村一樹へ 1


「好きです」


 私が初めて告白されたのは、高校二年のときだった。同じ学年の、同じクラスの男の子。


 高校生活の一大イベントである、修学旅行。旅館の中で呼び止められて、告白された。二人とも、学校指定のジャージ姿。


 私はお風呂上がりで、髪の毛が少し濡れていた。


 彼は、お風呂上がりの私が一人になるところを狙っていたそうだ。


 彼とは、教室内でもよく話していた。修学旅行の冊子作成を、一緒にやった。急激に親密になってゆく気配は、確かに感じていた。


 私は、束ねた髪に触れながら、彼から目を逸らした。好きな人は特にいない。私にとっての彼は、その時点で、一番好感を持っている男の子だった。好いた惚れたというほどではないけれど。


 つまり、断る理由がなかった。よく考えて、好きになれるだろう、と思った。


「はい」


 だから、付き合い始めた。


 交際は順調だった。思っていた以上に、彼とは気が合った。一緒に過ごす時間を積み重ねれば積み重ねるほど、彼への好感は強くなった。はっきり「好き」と言えるようになった。


 初めてセックスをしたのは、その年のクリスマスだった。私も彼も初めてだった。全然上手くできなかった。私が「痛い」と言っては中断し、また再開して。そんなことを何度も繰り返した。


 終わった後は、二人で顔を見合わせて笑った。恥ずかしさを誤魔化すような笑い方だった。顔を見合わせるのが照れ臭くて、抱き合った。重なる肌の感触が心地よくて、自分の気持ちを実感した。


 この人のことが好きだな。ずっと一緒にいたいな。


 彼も同じ気持ちだったようだ。だから、同じ大学に進学しようと約束した。彼が志望していた、東京の大学。


 クリスマス後から、私達は、一緒に勉強するようになった。時々ベッドの上で勉強を中断するけど、やるべきことはやっていた。だから、無事に大学に合格できた。


 高校を卒業した。地元を離れて、新しい土地で、新しい生活。


 不安はあった。見ず知らずの場所。家族も友達もいない場所。そんな場所で、彼は、私の心の拠り所だった。たぶん、彼にとってもそうだったと思う。


 アルバイト先も同じところにした。ファミリーレストラン。


「仁科愛美です」


 緊張しながら、バイト先で挨拶をした。彼も緊張しているようだった。


 私も彼も、基本的にはキッチンスタッフ。たまにホールに駆り出されることもあったけど、概ね、二人で一緒に仕事をした。


 大学一年。何もかもが新しくて、何もかもが新鮮で。そんな生活を、彼と楽しんでいた。


 このまま彼と付き合って、大学を卒業して、就職して、結婚するんだろうな。漠然と、未来のことを思い浮かべていた。


 私は、まだ知らなかったんだ。


 若さには力がある。新しいものに慣れる力。新しいものを受け入れる力。新しいものに順応する力。


 そんな若い私達が、新しい刺激に影響を受けないはずがない。


 後になって思う。


 せめて、バイト先を彼と別々にしていれば。


 何も知らないままでいられたのかも――と。


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