片5。
夕闇迫る特急列車
僕は向かうべくところに行く
「すまんな、風八。また、廃墟への依頼が来た」
「良いよ。爺ちゃん」
生まれつき肺が弱くて、鞄の中に吸入したばかりの発作治療薬を入れる
「いつまで身体もつんだろ……」
寝台車の足もと広げて、暗闇の窓辺を眺める
雨粒が流れ落ちる
「運命の人。なんて、なかったな」
浄霊学校に通って、数年。
病弱だから、ほとんど授業は通信教育で。
実技の祓魔以外は、ほぼ出席したことない
「おい、隣、空いてるか?」
閑散期の寝台特急
0時発のさっきの停車駅で乗り込んできた珍しい人
雨に濡れている。
冷たい空気が扉の開閉に流れ込む
突然の声
風貌は、短い丈のスカートにセーラー服。
黒髪の長髪に、黒い大きな瞳と長い睫毛
背中にラクロス部員を模した薙刀みたいな長刀を背負ってる
佇まいが同業者だって
視ればすぐに分かる。
(同い年……?)
爺ちゃんからの依頼は、廃墟の掃除
先生たちも諦めてる黒い影たちの後始末
浄霊協会も、いよいよ僕らみたいな未成年まで狩り出してる
労働基準法って、一体どうなってんだろ?
「空いてますよ……」
寝返りを打つ
僕の心に冷めた空気
浄霊師同士は関わり合わない方が良い
志望動機は闇を必ず引きずるから破綻を生む
結局、運命の人なんて無い
「悪いな……」
顔立ちの整ったその人は、背中の長刀を下ろし
寝台に備え付けの毛布を被るや否や
グーグーと、眠り込んだ
(疲れてるのかな……?)
夜が更ける
寝台車の灯りが橙々色の常夜灯だけになる
明日も早いから──
「──なぁ?」
隣の寝台で毛布に包まるさっきの女の子が僕に話し掛けて来た
「君って、風使いなの?」
さっき、僕がその子が刀士だって見抜いたように
浄霊師同士は分かる
惹き寄せられるように
「え? あ、うん。まぁ……」
「サポート、よろしく」
言われなくても。
けど、僕は──、
制御出来ないから。
あんまり近づかないでほしいとも想う
この子を守れないとも想う
けれど、
「分かった……」
「んじゃ、おやすみー」
イビキかいて眠るこの子は、
月影の神速剣の使い手。
剣神の子孫──16代目当主、刀霧薙。
「運命の人、か……」
風間家、筆頭の次期当主でもある僕は、
所帯持ちの兄さんたちを羨ましく想う。
風の力は──、
──僕だけに受け継がれた運命の皮肉。
車窓に浮かぶ三日月を眺めて目を閉じる。
「ねぇ、任務完了したら、聖地巡礼行かない?」
毛布に包まったままの、くぐもったその子の声が僕に届く
僕らは、つくづく田舎者だなって、想う。
「かまわないけど……」
「君のオゴリでね?」
そうでも言ってられなきゃ、
浄霊師なんて、やってられないって想うから──……。