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第5話 眠れる獅子は誰のこと

カーラ 公爵令嬢 銀髪に翠の瞳

レフ  転生者 琥珀狐 カーラの相棒

コラン カーラの想い人(両想い) 王子 金髪碧眼

ヘルン コランの姉 王女 金に近い茶色の髪 碧眼


ロナルド(ロニー) カーラの兄

シーミオ カーラの母

ロイル  カーラの父


ジャスミン 町の料理店の店主

ケイト   転移者 ジャスミンの店の店員

プラシノ  風の精霊


白ハク 沼地に住む魔物 人の姿をしている

 コランの執務室にて。


 応接セットのソファに座ったまま、コランは隣のカーラに頭を下げた。


「すまない、カーラ」


 婚約後のあれこれが順調に進んでいたというのに、とんだ邪魔が入ったものだ。

 帝国の王女には一旦、来客用の屋敷に滞在してもらうことにした。

 コランの頭の中には、厄介なことになったという認識しかない。


 大事なのは、カーラの気持ちひとつなのに。


 万が一にも、不安には、させたくない。

 



 カーラはというと、特に気にしてはいなかった。

 コランの気持ちを疑う要素などないというカーラの態度に、コランの方がほっとする。


「いえ。それよりも、気になったことが。彼女は殿下の事を、『未来の国王』とーー」


「ああ。それは、こちらが仕組んだ事というか。予定通りなんだがーー」


 コランは、カーラに種明かしをした。


 ハクとの沼地での一件の際、コランたちは帝国の密偵を捕らえて連れ帰っている。


 そして、少し離れたところにいた数人の密偵には、気がついていないふりをした。わざと偽の情報を聞かせて、泳がせていたのだ。


 暗殺の対象が、姉だけに集まらないようにとの、コランの采配だった。


「帝国側は、まんまと、信じたみたいだね。まさか、キャンディ王女を送り込んでくるとは、思わなかったけれど」


 コランにとっては、記憶の中の彼女は幼い子供であり教え子だった。

 もしカーラがいなかったとしても、娶ろうなどという気持ちはさらさら起きない。


「しかし、おもむろに武力をちらつかせてくるとはね。昔、指導していた頃は、もっと素直な良い子だったのだけど」


 寂しそうに呟くコランの肩を、そっと抱くカーラ。


「何か、理由があるのだと思います」


「そうだね。彼女一人の意志というよりは、誰かの思惑が絡んでいそうだ」

 たとえば、彼女の父親である帝国の王ーー。


 野心が服を着ているような人物だと聞いている。


 軍の事だって、王女一人で動かせるようなものではない。


 王女はただの駒であると考えた方が良いだろう。

 

 カーラの腕に頬を寄せる。

 

「ありがとう」

 そして、カーラの頬に指を這わせるコラン。


「早く、君と夫婦になりたいよ」

 

 わざと耳もとに囁くと、カーラの体に力が入ったのがわかる。

 それでも、抱きしめた腕は離さない。


 そんなところも愛おしくて、可愛くて。

 コランはいつの間にか、王女への苛立ちを忘れていた。



          ※



「ねぇ、どうすんのよぉ、コラン」


 スマラグドス領に戻ったふたりの話をきいて、レフは怒っていた。

 その肉球を、コランの頬にぐりぐりぐりと押しつけるくらいには、怒っていた。


 コランが悪くないのは、分かっている。


 勝手にやってきたのだ、帝国の王女とやらは。

 あの後、王宮は大騒ぎだったらしい。

 人騒がせな。


 しかし目の前にその無礼な王女がいるわけではないので、必然的に八つ当たりはコランに向かうのだ。


「あんたの甲斐性で、なんとかしなさいよ」


 言ってから、言葉選びを間違えたなと、焦る。

 前足でコランの肩をバシバシとたたきながら、続けた。


「あ、甲斐性って言ってもあれよ、一夫多妻とかじゃないわよ。そのちんちくりん王女、責任持って送り返せって事だからね!」


 ははっ、と、気が抜けたように笑うコラン。


「もちろんだよ」


 すぐに、真剣な顔に戻る。


「あの国は、わが国と違い、王族ですら自由がない独裁国家だからね。キャンディ王女もなんらかの駒だろう。結婚だけが目的とは思えない。あちらの王の、本当の目的を、探らないと。しかし、性急に下手な真似をしてそれを口実に帝国に攻め込まれても、困るからね。少し、時間をくれないか」


 目は笑っていないのに、口元が笑っているのって、普通に怒られるのより怖いよね。と思う、レフなのであった。


 カーラとの時間を邪魔されていちばん怒っているのはこの人なのだ。きっと。


「安心して。彼女には、丁重にお帰りいただくよ」


 怖い、笑顔が怖い。


 コランは、カーラがからむと人格が変わるのだった。


 うん。大丈夫そうだな。


 眠れる獅子を起こしたのは、帝国側だ。


 どんな結果になろうが、自業自得だった。


 いざとなればレフだって、矢面に立つ覚悟はできている。


「この件は王宮で預かるからな。余計な手出しはしないように」


「あ、帰ってきていたの、ロナルド」


 心を読まれたのかと思った。


「また魔王みたいな顔をしていたぞ」


「失礼ねぇ、こんな可愛いか弱い子狐をつかまえて!」

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