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第37話 つわものどもが夢の跡

 プラシノは魔力を使い果たしたと言って、元の姿に戻っていた。

 今はコランの肩の上で、くの字になってすやすやと寝ている。器用な事だ。


 レフも元のサイズに戻ろうと試してみたら、できた。

 なので今は、小さくなって、カーラに抱かれていた。


 尻尾の先はわかれたままだけれど。

 そこはまぁ、支障ない。


 このサイズじゃないと、カーラの膝にも肩にもうかつに乗れないのだ。子狐に戻れてよかったと、心から思うレフである。


 レフたち一同は、(ハク)の棲家に戻ってきていた。


「おかえりなさい!」


 キャンディが、いの一番に、出迎えてくれた。

 ずっと、皆の身を案じながら待っていたらしい。


「よかった、皆さまが無事で、本当に……」


 最後まで言葉にならず、感情が目からあふれている。


「ごめんなさい、泣けるような立場じゃないのに」


「そんな事。心配してくれたんでしょう?」


 そう言って、カーラがキャンディに駆け寄った。


「お互いに、大変な1日だったでしょう」

 コランがその涙を拭うために、ハンカチを差し出そうとした時だった。


 それよりも先に、白がすっと、キャンディを抱き寄せた。


 キャンディの顔が、白の胸に埋もれるかたちになった。


 その場の注目を一身に浴びる、白である。


「白……さま?」


 当のキャンディも困惑している。

 カーラとコランは、驚き、顔を見合わせている。

 ヘルンだけが、にんまりと笑っていた。


「ああ……すみません。どうしてだろう……」

 パッとキャンディを解放して、首を傾げる白。

 そんなつもりは無かったのに、気づいたら体が勝手に動いていた。

 こんなことは初めてだったので、白自身驚きが隠せない。


 白は、自分の行動の理由を探す。


 そして、思いついた事を、そのまま口にした。


「あなたの涙を、誰にも見せたくなかったようです」


 王女の顔に、懐かしい人の面影を重ねていたのだろうか。そうかもしれない、と白は思う。


 そんなこととはつゆ知らず、キャンディの頬が、りんごのように赤く染まった。


(あ〜……)

 レフは、生あたたかい目で見守る。


(こんなところにもいたわ、天然ジゴロが……)


 臆面もなく、そんなセリフがよく出てくるものだ。


(うん、でも涙を見せたくないって。もしかしたら、そういうことなのかもしれないわね)


 キャンディも、まんざらでもなさそうだし。

 

 いいことを思いついた、と、レフはヘルンの肩によじ登って、耳打ちをする。

 よしきたと、ヘルンがさっそく提案する。


「ねぇ、お嬢さん。実はさぁ、ここに白の研究施設兼自然公園を作ろうと思っていてね。管理業務のお手伝いを募集中なのよ。一緒に手伝ってもらえないかしら。

 しばらく、帝国には帰れないでしょう?」


 キャンディの顔に、嬉しい気持ちと、申し訳ない気持ちが交互にあらわれる。

「私が……、いいのでしょうか」


 白はにこりと笑って言う。

「手伝っていただけるなら、助かります」


 キャンディの頬がまた赤くなった。

(いいわね、若いって。それだけで眩しい)


 レフが遠い目をしていると、後ろから、声がした。

 声の主は、黒い髪を三つ編みにした青年だった。


「えらい、賑やかになりますねぇ〜。オレも嬉しいです」


 レフは眉をひそめる。


「その声。その喋り方。帝国の使者じゃない。なんでいるのアンタ」


「オレへの()()()、つよないです?」


 控えめに苦情をていしたあと、青年は一礼をして、自己紹介をする。


「本日付けで白殿の部下を拝命いたしました、キオと申します。どうぞ、お見知りおきを!」


 ヘルンがキオの肩に手を置いた。

「ふっふっふ。面白そうだから、スカウトしちゃったー」


 面白そうだからって。この場にいないロナルドの苦労が透けて見えて、レフは心の中で合掌した。


「まぁ、ヘルンと白が認めたなら良いわよ」

 そもそもレフに人事権など無いのだし。他人事だし。


「我が上司達の信頼えげつないですね。オレも認めてもらえるように頑張りますんで」

 再び頭を下げるキオ。

 まぁ、悪いやつではなさそうだ。


 つまり、エリアスの同僚って事か。

 ちら、とエリアスの顔を見てみても、ポーカーフェイスで感情が読めない。

 特に嫌がってもいなさそうだ。

 おおかた、無茶振りが分散するとでも思っているのかもしれないし、心ここに在らずで愛する人のことでも考えているのかもしれなかった。


「今度ともどうぞ、ご贔屓に」

 キオが言う。


「よろしくね」

 レフは応える。


 そして思う。


 どんどん変わってゆくな。

 自分もまわりも。

 想像もしなかった未来が、今になっている。


 レフはカーラの膝に戻り、少しだけ目を閉じた。

 

 空の上で、ヨルズたちも笑っているだろうか。



          ※



 レフが()()()丘の上で、朝焼けを眺めていた。


 白の棲家には影響はなかったようだが、地表には戦いの後があちこちに残っていた。地形すら変わっているのだから、当たり前か。

 10年も経てば、ここもまた姿を大きく変えるのだろうけれど。


「レフ」

 呼ばれて振り向くと、カーラがいた。

 今日もパンツスタイルでポニーテールだ。可愛い。


「大丈夫?」

 心配そうな顔をしている。


 心配させないように、レフは笑う。


「うん、ヨルズと一緒に行けたみたい。チビも、ーー元のレフも」


「レフの気持ちは、大丈夫?」


 さすがはカーラさん、お見通しだ。


「うん。やっぱり、辛い記憶ではあったけどね。思ったより大丈夫。むしろ、スッキリしたかな」


 それもレフの本当の気持ちだ。


「ふわふわしてた自分の存在が、はっきりした感じ」


 漠然とした不安のあった場所に、いまは力がみなぎっているのも、本当のこと。ヨルズたちがのこしてくれた、大切なひとを守る力だ。


「うん、これで、カーラの結婚式準備に全力投球できるわ!」


 ぎゅっと突然抱きしめられて、慌てるレフ。

「わわっ」


「大好きよ、レフ」


 レフの毛皮に顔を埋めて、カーラが言う。


「私のところに来てくれて、ありがとう」


「カーラ」


 そんなの、私だって。ああ、胸がいっぱいでうまく言葉が出てこない。

 まぁいいか、大事なのは、気持ちなのだから。


「カーラ、あのね。ーーだいすきよ!」

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