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第2話 発明家ヘルン

カーラ 公爵令嬢 銀髪に翠の瞳

レフ  転生者 琥珀狐 カーラの相棒

コラン カーラの想い人(両想い) 王子 金髪碧眼

ヘルン コランの姉 王女 金に近い茶色の髪 碧眼


ロナルド(ロニー) カーラの兄

シーミオ カーラの母

ロイル  カーラの父


ジャスミン 町の料理店の店主

ケイト   転移者 ジャスミンの店の店員

プラシノ  風の精霊

「あ、そうそう、お客様よ」


 シーミオの後ろからやってきたのは、この国ーー中央国メソンの王女、ヘルンだった。

 金に近い明るい茶色の髪は、以前は腰まであったのだがーー肩下の長さになっていた。

 瞳はコランと同じ空色だ。

 口元のほくろが相変わらず色っぽい。


 カーラの婚約者、コラン王子の、異母姉でもある。

 馬に乗ってきたのだろうか。シャツにパンツの乗馬スタイルが格好良い。


「ヘルン様!」


「あらあら、楽しそうじゃない。私もまーぜーて」


「いらっしゃい! ヘルンさん、髪切ったの? 似合う〜」


「あ、気づいてくれたレフちゃん?! 可愛いでしょお」


 相変わらず、次期国王とは思えない、気さくな姉さんだ。

 ヘルンはケイトのデザイン画を見て、大きな目をさらに丸くする。


「素敵なデザイン! ねぇ、今度私にもドレスをデザインしてくれない?」


「ひぇっ?! 畏れ多い事ですが、カーラ様の婚姻の儀が終わったら、ぜひにと!」


「ありがとう〜。楽しみにしてるわ」


 ケイトちゃん、いきなりの王族からのご指名とは。異世界でデザイナーデビューの日も近そうだ。


「あ、そうそう、今日はお祝いがてらね、これを」


 何やら重そうな鞄を背負っていたので、気になっていたのだ。

 大きさといい、重厚感といい、ちょっとだけランドセルに似ている。

 王女とランドセル。

 細かい意匠などは凝っていて、さすが高級なものなのだと分かるのだけれど。

 いかんせん、シルエットがいけない。

 レフはあまり視界に入れないようにしようと、目を逸らした。


 ヘルンが黒革の鞄から取り出したのは、金の縁取りがされた、高価そうな鏡だった。

 壁にかけるタイプだな。


「これね、ただの鏡じゃないのよぉ」


 ふっふっふっと、得意げに笑う。


「ほら、この間、(ハク)殿と私、意気投合していたでしょう?」


(ああ、あの、ザル・オブ・ザルしか参加できなさそうな飲み会の事か)

 レフは黙って頷く。

 口は災いのもとだ。

 幾多の人間が、うっかり口を滑らせた不要な発言により散々な目に遭ってきたのだ。

 先人たちの金言は、無視してはならない。


「実はね、私たち、研究オタクっていう共通項があるのよ!」


(おお、酒飲み以外にも共通点が)

 再び、頷く。

 どうしよう。余計な事を言わないでおこうと思うと、喋れない。


「今日は静かね? レフちゃん」


「ん゛っ、ちょっと喉の調子がね」


「そぉ? まぁいいわ」


 危ない危ない。


「でね。毎日だって議論を交わしたいくらい、良きライバルなのだけど。あそこって、私の直轄地ではあるけれど、そんなに頻繁に行ける場所じゃないじゃない?」


 まぁ、そうだな。

 王都からはスマラグドス領を抜けていかないと。

 王都からスマラグドスの本邸は近いのだけれど、それは本邸が王都との領境に建てられているからである。

 スマラグドス領自体は、そこそこ広いのだ。

 沼地は、さらにその先だもの。


「だから、こんなものを作っちゃった!」


 ヘルンが彼女の顔より大きい鏡に手をかざして、魔力を注ぐ。鏡面がゆらぎ、次第に別の部屋を映し出した。

 

 籐でできたベンチとチェア、大きな一枚板のテーブル。

 趣味の良い家具に大きな葉の観葉植物。

 地下とは思えない、このリゾートのような内装、覚えがある。


(あ、テレビ電話的な? そんな一朝一夕で作れちゃう?)


 ケイトと顔を見合わせる。

 カーラで規格外の人間に慣れたつもりだったけれど。

 また違う方面の規格外さに、レフは心底驚いていた。

 しかし、それはそれ。

 この手のものには、この世界の人々よりは、慣れている。


 鏡の中に、白い蛇が顔を出した。

 首元に、黒い蝶ネクタイのような模様。


「あ、ハクリだ。おーい」


「こんにちは」


『あ、レフ殿! ヘルン様! 白さまぁ、ヘルン様です〜。ヘルン様、皆さま、お元気そうで。いま主人がまいりますので、少々お待ちを』


 そう言って、すぐに声が遠ざかっていった。


「急に、悪いわね。カーラちゃんたちに、お披露目しようと思って」


 ヘルンの声は、もうハクリには聞こえていなさそうだ。


「いいでしょう? ひとつ、こっちにも置いておいて! あとで、魔力の込め方を教えるから〜。あ、安心してね。受け取るほうが魔力を込めないと、映像は繋がらないから。こっそりお部屋を覗いたりは、できないから」


「便利ですね。ありがとうございます」


「いまのところは私の部屋と、白殿のところだけだけれど、また増やす予定よ!」


『お待たせいたしました』


 (白髪のイケメンがあらわれた! だな)


「白様。元気〜?」


 覗き込んだレフの顔は、彼らにどう見えているのだろうか。つい、気にしてしまう。

 今のレフは琥珀狐だから、どの角度から見ても可愛いのだけれど。


(インカメの存在って、偉大だったのね。あとでこっそりヘルンに耳打ちしようっと)


「そっちはどう、落ち着いた〜?」


『レフ殿。おかげさまで。平和に暮らしているよ。人族のように戸籍のある国民でこそないが、ヘルン殿の領地にお世話になる以上、何かできる事はないかと模索しているところだ』


 真面目な魔物だなぁ。

 働かず悪事を働くならずものより、よっぽど模範的な国民らしいよ。


「ねね、隣なんだしさ、こっちにもまたおいでよ〜! プラシノと一緒に森を案内するよ!」


『あ、ありがとう。お菓子もおいしかったよ』

 ハクリが嬉しそうに頷く。


『是非に』


「白様。カーラです。ご機嫌よう」


『ああ、カーラ殿。こんにちは』


「すごいですね、この鏡。わたしもいただきました。ありがとうございます」


『いえ。何かあったときに、伝達の速さがものを言いますからね。お役立てください。こちらからも、使わせていただきます』


「じゃ。急にごめんなさいね。また夜に打ち合わせしましょう」


『心得ました、ヘルン殿』


(リモート飲み会……)


 だめだ、余計な言葉しか浮かばない。


「ぐふっ」


 もう一度咳払いして、邪念を払うレフなのだった。

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