第16話 悪路
「あと少しね」
森の中を、ヘルンと兵士たちは馬に乗り進んでいた。
雨雲に行き合わなくてよかった。
もともとある道は進軍には向かないため、先導する魔道士団が浮遊魔法を使いながら、多少の木や下草を伐採して道を開けながら進む。
潜伏しているかもしれない帝国兵の話も、ヘルンまで通っていた。
警戒しながらだと、ただでさえ、どうしても時間がかかる。
先鋒から、小さなどよめきが聞こえた。
魔道士団の指揮をとっていたのは第三師団長のヴェルだった。
茶色い髪はサイドが刈り上げてある。魔道士にしては体格が良く、剣も巧みに使うので、制服のローブを着ていないと騎士に間違われることがしばしばだった。
ヴェルは中央国の現役魔道士団の中では十本の指に入る使い手だと自負している。
ただし、魔道士団という縛りをなくすと、上位五十人の中に入れば良い方だろうと思う。
軍人はもちろんだが、ヘルンやカーラ、シーミオなど、平常時は温存している戦力が、中央国にはごろごろいる。
「毒蛇……でしょうか。あまり見ない種類ですが」
すぐ後ろを歩いていたエリアスが言う。
彼もまだ学生の身で魔道士団に抜擢された才能ある若者だ。
彼は細やかな魔力操作の能力が飛び抜けている。あらかじめ術式を使うことにより、先遣隊の人間の見ているものを、脳内に再生できるらしい。
魔道士団の未来は明るいなーー。赤茶色の髪をした青年を眺めながら、あと十年もすれば、若者にあとを任せて自由気ままに放浪でもしようかとヴェルは思っていた。
ふたりは前方の人垣に追いつき、報告を受ける。
先遣隊の足元には、真っ二つになった黒蛇が、六匹分落ちていた。
腐ったような臭いだなと思ったが、実際、血の流れた場所の草が、腐食している。
「念には念をいれて、焼却いたします」
毒のある生き物の死骸を放置すれば、他の生き物に影響がある。
燃やして処分することは一般的だった。
胸騒ぎがして、エリアスは炎の魔法を使おうとした魔道士に目をやった。
このタイミングで、新種の毒蛇が見つかる事などない。帝国の人間の仕業なのは誰もがわかっているだろう。
ただ、違和感がある。帝国の人間が、ただの毒蛇ごときを罠に使うほど甘いとは思えない。
罠の効果的な使い方は、ターゲットにトリガーを発動させる事だ。
いつだって、自軍の足を引っ張るのは慢心と思い込みである。
「待ちなさいーー!」
声を上げたが、遅かった。
練られた炎は、足元の蛇の骸を瞬く間に包む。
腐臭とは違う異臭が、エリアスの鼻をつく。
くらり、と目まいを覚えた瞬間、光の壁がエリアスたちを覆った。




