第14話 トッチョとキャンディ
カーラ 公爵令嬢 銀髪に翠の瞳
レフ 転生者 琥珀狐 カーラの相棒
コラン カーラの想い人(両想い) 王子 金髪碧眼
ヘルン コランの姉 王女 金に近い茶色の髪 碧眼
ロナルド(ロニー) カーラの兄
プラシノ 風の精霊
白 沼地に住む魔物 人の姿をしている
ハクリ 白の執事 白蛇の姿をしている
トッチョ 白に救われた少年
キャンディ 帝国第七王女
「ここへは、追っ手は来れぬ。今日はしっかり休むといい」
白がそう言って、キャンディの肩に優しく手を触れた。
「トッチョ、客間へ案内してやってくれ。我は少し外の様子を見てくる」
「わかった。気をつけて」
「何、視るだけだ」
心配ないと笑う。羨ましいぐらいに頼もしい。
トッチョもいつか、こんな大人になれるだろうか。
「さあさあどうぞ。いつお客様が来ても良いように、ハクリが整えていますからね! 最近はお客様が多くて、掃除もしがいがあります」
「ミルズはお湯と布をもってくるね!」
ハクリとミルズが、張り切って準備に走る。
残された二人は顔を見合わせた。
やっと、自己紹介ができる。今日は大変すぎて、それどころじゃなかったから。
「俺は、トッチョ。よろしく」
笑って差し出した手を、白い手が握ってくれる。
逃げていた時の熱さとは違うあたたかさが、胸に沁みる。
生きて、笑い合えている。あの時勇気を出して、本当によかった。
「キャンディよ。よろしく」
※
客間に案内され、血のついた服を着替えるように言われた。
「ありがとう」
着替えを終え、扉から顔を出す。
「俺の服しかなかったから……」
白いシャツに濃緑のパンツだった。なるべく新しいものを選んでくれたようだ。
トッチョはキャンディの姿をみて、ふわりと笑った。
「大丈夫そうだね。少し、小さいけど。よく似合ってる」
「ふふ、ありがとう」
「……俺は、何もしてない。何もできなかった」
「こっちでお話しない?」
キャンディはトッチョの手を引いて、部屋に入りソファに腰を下ろす。
「あなたがいなかったら、私はいまごろ毒を飲んでいたわ」
「……何があったのか、聞かない方が良いか?」
「どこまでなら良いのか……。あなたを危険にはさらしたくないわ。でも、そうね……私はきっと、お父様に捨てられたみたい」
もしくは、最期に命をもって駒として役立てということなのだろう。
中央国メソンで帝国の王女が行方不明、どうやら帝国へ戻る道中に殺されたらしいーーしかし中央国は詳細も把握できず後手後手にまわり、帝国は王女の死を火種として争いを仕掛けるーー父の書いたシナリオはそのあたりだろう。
元の生活に戻れれば良いなんて、甘い気持ちではいけなかった。
「キャンディも、父さんに捨てられたの?」
「あなたも?」
「うん、自分も望んだ事だから、ちょっと違うけど。それで白にお世話になってる。白は優しい。癒えるまで、ここにいたら良い」
「ありがとう……」
そうもいかないという思いを、キャンディは笑って隠した。
自分が姿を現さないと、無事を証明しないと、この沼地も戦場になってしまうかもしれない。
これ以上、父に手札を与えるわけにはいかなかった。
せっかくトッチョに救われた命だ。
死ぬなら、帝国領に戻ってからだ。
キャンディは心に重く沈む決意を、少し冷めた紅茶で胃の腑に流し込んだ。
※
「ねぇ、手紙のようなものを送ることはできるかしら。至急、王都かスマラグドス公へ、至急お伝えしたい事があるの」
「王都ならヘルン様、スマラグドスならカーラ様に伝言はできるよ」
手段についてトッチョは濁した。あの技術を他国の者に話すのはやめておいた方が良いかもしれない。彼女に悪気がないとわかっていても。トッチョの独断では話せなかった。
「ありがとう。ではそのお二人に、お伝え願いたいの」
目を閉じて深呼吸したあと、彼女は告げた。
「帝国への帰路途中、侍女及び衛兵に反意あり。帝国第七王女を襲った後、沼地近くの森に潜伏の模様。恐らく、帝国中枢部からの指示であると思われる。今後、王女の死を口実に帝国が中央国領へ攻め入る可能性ありーーと」
※
「キャンディ王女! ご無事ですか」
「カーラ様……?!」
ーー伝言を頼んでから、まだ1時間しか経っていない。
ーーなぜ彼女がここに。
そう、顔に書いてあるわね。
「ふふん。私、転移術は得意なのよ」
レフは、ずずいっとカーラの前に出て、ふさふさの胸をはった。
「?! しゃべっ……」
いいリアクションしてくれるじゃない。
ドッキリって楽しいわね。癖になりそう。
「怪我の具合は」
「コラン様! この度はこのような事になり、申し訳ありません。同胞の企みに気づけなかった私の落ち度です」
首を振って、おだやかに言うコラン。
「謀られたのだろう。気にするな。こちらに情報を流してくれたという事は、君は我が国と敵対する気はないのだろう?」
キャンディは頭を下げた。
「私にできることでしたら、何なりと。両国に必要なのは争いではなく、共栄共存だと思っておりますので」
「では、仲間だ。共にこの危機を乗り越えようじゃないか」
コランもカーラも、騎馬用の装いに胸当てをしている。
コランは腰に剣を、カーラは細剣を。カーラは長い髪をポニーテールにしている。いやはや、何を着ても絵になるな。
「ヘルン殿が禁軍150名余と魔道士団と共にこちらに向かっている。キャンディ殿の伝言よりも前に出立はしていたから、明日には着くのではないかな」
白は相変わらずの情報通だ。日々、ヘルンと情報交換しているから当たり前か。
さすがにあの人数を転移させるのは負荷がかかりすぎると判断してね。と、コランはこともなげに言う。
「そんな事、普通は考えもいたしませんわ……」
キャンディが何やら呟いている。常識とはね、所属する集団ごとに違うものだよ。
「白殿のおかげです。白殿がこの沼地にいなかったら、ここまで早く動けたかどうか」
カーラの言葉に、白は笑う。
「お役に、立てたかな」
しかしすぐに表情をひきしめて、語り始めた。
「あちらの戦力までは把握できておらぬ故、油断はできない。他にも、気がかりな事がーー」




