第12話 王女の決意
先ほどの女性が、もっていった草を刻んで、鍋に入れた。
もうひとりの少女が、火魔法で湯を沸かしている。
「なぁ、あんたが主人なんだろ?」
木の影から出て、トッチョは少女に声をかける。
旅仕様に質素にしているつもりなのだろうが、洋服に使われている生地は庶民が一生かかっても買えないような代物だ。
他人のゴタゴタに首をつっこむのは愚策かもしれない。
でも、ほったらかして、もし目の前の少女が苦しむことになったら?
トッチョはその光景を一生忘れられないだろう。
「なんで従者があんたの飲み物に毒を入れるんだ?」
従者らしき女性が目を見ひらき叫ぶ。
「無礼ですよ! 何をーー!」
「じゃあ自分が飲んでみろよ。あんたが薬草と毒草を仕分けていた場所には、薬草だけが捨てられてたぞ」
そう指摘されて、急にそわそわと髪の毛をいじりだした。
「あら……そうでしたか。お嬢様、すみません。私の手違いですわ」
「そう。いいわ。でも私、喉が渇いているし、疲れちゃった。悪いのだけれど、もう一度探してきてくださる? よろしくね、ロベリア」
「承知いたしました」
「ねぇ、あなた! 薬草に詳しいのね。こっちの草が食べられるものか教えてくださる?」
屈託のない笑顔でトッチョに近づいてきた少女が、急に真剣な顔で囁く。
(逃げて)
トッチョはとりあえずこの場を離れようと、目的地の方向を見て目算をたてる。
(走れるか? 走れなくても、走るしかないけど)
(え、私は)
躊躇していたら、こちらをちらちら振り返る侍女に気づかれる。
少女の手をとって、侍女と逆方向へ走り出した。
(こっち!)
走りながら、トッチョは問う。
「何だよ、あいつ! 仲間割れか?」
「いえーーっ。はぁっ、きっと、仲間では、なかったのです」
(最初から。計画通りなのでしょう)
ーー泣くな。
走りながら、キャンディは唇を噛み締める。
こうすれば、痛みで涙が止まってくれると発見したのは何歳の頃だったか。
そうだ。実父への思いなど、期待など、とうの昔に捨てたではないか。
大きな木のうろに、ふたりは身を隠した。
トッチョが小声で少女に言う。
「少し、ここに隠れて様子を見よう。あと少し走ればーー」
安全な沼地に着くから、と言いかけた言葉を、ぶったぎられた。
「国は違えど、あなたは民、私は王族です」
「え? うん、えっと……」
高貴な人間の身なりだとは思ったが、他国の王族か。
思ったよりも、厄介なことに首を突っ込んでしまったらしい。
(王族と民草だから、俺が犠牲になって自分を守れと?)
命を軽んじられるのには、慣れてしまったけれど。
だからといって、傷つかないわけではない。
眉をひそめるトッチョを、少女は真っ直ぐに見返してきた。
「あなたは自らの命を賭すと誓った兵士でもない、子供です。無辜の民の命を使いすてにして王族が生き残るなど、本来あってはなりません」
理解が追いつくまで、数秒かかった。
彼女は、自分の命よりトッチョの命を守ろうとしていると。
そんなことを言われたのは、生まれて初めてだったから。
「私と別れて逃げましょう。助けてくれてありがとう。他国の民をこれ以上巻き込む訳にはいきません。どうか、安全なところへ逃げて」
「ーーーー〜〜!!」
疑った自分が恥ずかしい。
穴があったら入りたい。すでに入っているけれど。
「ああ、くそっ」
かっこ悪い。そんなことを言われたら、トッチョだけが格好悪いではないか。
「さっき遮られたけれど。あと少し行けば、安全な沼地に着くといいたかったんだよ」
そう言って、少女の手を握りなおす。
「一緒に行こう。嫌がったってついていくからな。もしそれで俺がやられたら、あんたのせいだ」
我ながら無茶苦茶な理論だと思う。
しかしこう言えば、目の前の王族はーー涙を堪えてひとり立ちあがろうとしているこの少女は、折れると思った。
「わかりました。あなたの事は私が守ります」
トッチョはなんだかこそばゆくなって、頭をかいた。
これ以上かっこいい事を言われると、本当に困ってしまう。
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