第11話 毒を召しませ
カーラ 公爵令嬢 銀髪に翠の瞳
レフ 転生者 琥珀狐 カーラの相棒
コラン カーラの想い人(両想い) 王子 金髪碧眼
ヘルン コランの姉 王女 金に近い茶色の髪 碧眼
ロナルド(ロニー) カーラの兄
プラシノ 風の精霊
白 沼地に住む魔物 人の姿をしている
ハクリ 白の執事 白蛇の姿をしている
トッチョ 白に救われた少年
キャンディ 帝国第七王女
「じゃあ、薬草とってくるから。ハクリと麦玉作っといてな」
「はぁい!」
「行ってらっしゃいませ〜」
麦玉は、麦の粉と塩をまぜて水と練り上げ一口大に丸めたものだ。
スープに入れても良いし、ソースにつけて食べても美味しい。
白やハクリは食事を取らなくても生きられるらしいが、美味しいものを食べるのは好きだそうだ。
お世話になっているのだから、できることはやりたいと思うトッチョである。
ミルズはすっかり元気になった。
白にもよく懐いている。
研究の邪魔をすると時々部屋から出されているけど、最後には休憩だと言って、根負けしてあそんでくれる。
時々、トッチョたちの知らない勉強も教えてくれる。
難しすぎて、半分も理解できないけれど。
父親の事は気になるけれど、トッチョにとって、安心できるここでの生活のほうが大事になりつつあった。
薬草は、いままで通り売りに行っていた。
沼地のまわりの森までとりにくる人間は少ないので、ほぼトッチョの独占状態だった。
ミルズと一緒にいてやれる時間も増えた。
ひとりで留守番させることも無くなった。
だから、こんなに幸せで良いのかと、時々無性に不安になる。
※
「だめですね、軸が折れています」
馬車を降りて車輪をあらためていた御者がそう報告する。
帝国領に入れば迎えがいる。
しかし、この森と沼地を越えなければ。
振られた者のプライドだった。
コランの申し出た見送りを断ったのは。
やはり見送ってもらえばよかったと、簡単に弱音を吐きそうになる自分の子供っぽさに、また苛立つ。
「木材を探してくださる? 私の魔法で加工は行うわ」
「承知いたしました」
森に分け入る御者たちを見送って、キャンディは馬車から取り出した敷き布に腰を下ろした。
「このあたりはハーブも豊富ですね。ハーブティーに使えそうなものを探して参ります」
「ありがとう、ロベリア」
侍女の姿が見えなくなってから、深く長いため息をつく。
今回の従者は、兵卒だけではなく御者や侍女まで帝国側からあてがわれた者たちである。
昔馴染みの人間はおらず、ひとりの方が気が休まる。
とくに侍女のロベリアは、野心が強い。
主人となる人間の出世が己の出世につながると信じているようで、主人が己の理想とかけ離れると、不機嫌があからさまに態度に出る。
(好きでやってるわけじゃないのよ)
生まれながらに己の力では成り上がれない苦悩は、キャンディにはわからない。
望まない争いの駒にされる事が義務付けられた者の気持ちなど、ロベリアにはわからないように。
(とにかく、国に戻る事だ)
実父はまたキャンディへの興味を失うだろう。
使えない駒として、公爵家に戻してくれれば、それで良い。
母の血を色濃くひいたキャンディは、穏やかな生活を求めていた。
母親の故郷は、農耕文化の発達した国だったと聞いている。
穏やかな風土に穏やかな人々。
武力をもって領土を広げてきた帝国に、呑み込まれるのは一瞬だったと。
※
トッチョは沼近くの森で、見慣れない一団を眺めていた。
行商にしては、格好が綺麗すぎる。
おおかた貴族の馬車が立ち往生でもしたのだろうか。
子供が下手に声をかけても良い事はない。
悪くすると、スリや物取りと間違えられる事すらある。
関わり合いにならないでおこうか。
しかし、本当に困っていたら。
(どうしよう……)
悩みながら、気取られないよう慎重に距離をつめる。
薬草とりだって、盗賊や野犬などの危険と隣り合わせなのだ。隠れるのは得意だ。
メイド服のような白黒の服の女性が、薬草によく似た草を採っているのが見えた。
トッチョは少し離れた場所に立ち止まる。
薬草とよく似た毒草も多い。
彼女がもし間違えた方を持っていったら、教えてやるくらいはしたほうが良いと思った。
自分が何もしなかったせいで、誰かが苦しむのは嫌だった。
たとえそれが、見知らぬ人間でも。
しばらく観察してみたが、どうやら女性は、薬草の見分け方を知っているようだ。
迷う事なく、左右に分けていく。
(……あれ?)
仕分けた束を持った女性が戻っていく方に、他にも誰かがいるのだろうか。
物音を立てないように、トッチョも進む。
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