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第10話 心模様

カーラ 公爵令嬢 銀髪に翠の瞳

レフ  転生者 琥珀狐 カーラの相棒

コラン カーラの想い人(両想い) 王子 金髪碧眼

ヘルン コランの姉 王女 金に近い茶色の髪 碧眼

ロナルド(ロニー) カーラの兄


プラシノ  風の精霊


(ハク) 沼地に住む魔物 人の姿をしている

「カーラ!」

 慌てて走ってくるコラン。

「迷惑をかけたね。大丈夫か?」


 コランが近衛と共にスマラグドス邸にやってきたのは、ずいぶん後のことだった。


(おっそい、コラン。もう終わっちゃったわ)


「遅いよ、もう終わったぜ」


 レフの心の声を代弁してくれるプラシノだった。


「キャンディ王女、あなたはーー」


 コランが苦言を呈す前に、がばっと体ごと頭を下げるキャンディ。


「申し訳ありませんでした」


 かばうようにカーラが間に入る。


「もう、大丈夫です。わかっていただけましたから」


「婚約の件は諦めます。私が浅慮でございました。こんな事をお願いできる立場ではないことは重々承知の上で申し上げます。せめて我が国との貿易拡大について、話し合いの場をいただけないでしょうか」


「私からもお願いいたします」

 約束通り、援護射撃してあげているカーラ。


「……。検討、いたします」


 後ろに控えていたロナルドも口を挟む。

「その件についてはまた後日書簡を。取り急ぎ、王女の帰還についての準備を始めていただけますか。国境近くの訓練についても情報が入ってきております。万が一にも我が国に累が及ばないよう、お気遣いいただきたいとお父上にお伝え願いたい」


(検討してやるからとっとと帰って軍を引き上げろってか)

 王女はともかく、皇帝の目的はまだわからないのだ。

 レフは何となしに沼地の方角を眺める。

 白は、大丈夫だろうか。


「国境まで、こちら側からも護衛をつけますので」

 コランの申し出を、キャンディは断った。


「それは結構です。これ以上、ご迷惑をおかけできません。こちらの馬車と護衛だけで十分ですわ。カーラ様ほどではありませんが、これでもそこそこ戦えますの。野犬程度に遅れは取りませんわ」


「お転婆に手を焼きましたね。……昔を、思い出します」


 やっとコランが、キャンディに笑顔をーー笑顔というには変化の乏しい極小の笑みだったがーー見せたのだった。



          ※



 鏡に向かって、真剣な眼差しを向ける美女がいる。

 向かう鏡の中に映るのは、これまた美しい顔をした色白白髪の男だった。


『ヘルン殿』


「どお、そっちの具合は」


『帝国兵に動きはありませんね。訓練というなら疑う所見もありませんが』


「そうーー」


 男は思い出すのも嫌そうな顔をする。

『ただ、鴉が』


「鴉? 帝国の鳥だったかしら。たしか、国旗にも」


『はい。鴉が、ずいぶんと飛び回っておりまして。騒ぐでもなく、こちらの様子を伺っているような。ーー多少の胸騒ぎが、いたします』


「わかりました。こちらの軍も向かわせているから。もう少し、様子見を続けてくれる?」


『承知』


 鏡がゆらぎ、男の姿がかき消えた。

 素知らぬ顔で黙った鏡を、ヘルンは見つめ続ける。



          ※



(ーーなんやねん、あれ! 聞いてないっちゅーねん!)


 炎の塊にぶつかると思ったら、突然たち消えて一生を得た。憑依した体はただの鴉だ。とはいえ、死ねば精神とつながった本体にも相応のダメージがある。

 簡単な情報収集の仕事だと聞いていた。割の良い仕事だと。そんな誘い文句は疑うべきだと、気付く時にはいつも後悔と抱き合わせだ。

 あんな化け物と相対するなど、業務外も甚だしい。

 彼女は持てる力の割に、心が柔らかかった。おかげで命拾いした。

 殺生に慣れてはいないのだろう。

 まさか、彼の正体に気づいたわけではないだろう。

 彼女の心が氷のように硬ければ、あの時何が起こったかもわからず燃え死んでいただろう。

 金など面白おかしく暮らすための手段であり道具だ。命をかける気などさらさらない。

 逃げるが吉か。しかし逃げる者を帝国側が見逃してくれるだろうか。

 思想などない。恩義もない。家族もいなければ、故郷もない。

 この身ひとつなら、なんとかなるだろうか。

 彼は着ていたローブを脱ぎ捨て、シャツの上から軍服を着込んだ。

 一兵卒に紛れるしかない。

 運良く手柄でも立てれば、咎なしで放免してもらえるかもしれない。

 それがうまくいかなければ、事が起こった後に、争乱に紛れ隙をみて逃げるだけだ。

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