第4話 秘密にしないとなぁ
(貫通するのかよ…。よし、周囲に他のゴブリンはいないようだ。いきなりの遭遇だったが、ゴブリン1体なら何の問題もなく対処できたな。この感じならさっき遭遇した3体のゴブリンもいけそうだ。やはり身体が思い通りに動くというのはいい…。何より感情のコントロールによって恐怖や罪悪感を抑制できるのがでかい。【操作】がなかったら、俺みたいな一般人はゴブリンの獣じみた醜い顔を見るや否や恐怖のあまり逃げ出すか、その場にへたり込んでしまうだろう。もっとファンタジーにデフォルメされた顔だったらよかったのに。死体の消え方はファンタジーなくせにこんなところでリアリティー出してくるなよ。)
(考え事は一通り終わったが…。本当に次から次へと新しいモノが現れるから退屈しない。で、何だこれ?)
彼はしゃがんで10円玉サイズの菱形の水晶のようなものを拾い上げる。
(察するに魔石やモンスターコアってとこか?まぁ呼び方はどうでもいいが、これにどんな使い道があるのやら。一応保管しておくべきか?いや…。魔石(仮名)がモンスターを惹きつける効果があるやもしれないし、もしこのダンジョンの存在が知られた時に俺が魔石を持っていたらダンジョンに入ったことが一発でバレる。どちらにしろ、現状持っていても得が少ない。豚に真珠ならぬパンピーに魔石だ。)
彼は魔石をそこらへ放り投げ、もと来た道を戻りだす。
(【操作】を切っても頭と身体ともに痛みはほとんどないな。あまりに人間離れな動きでない限り代償は小さそうだな。
知りたいことは大体知れたし、そもそろ帰ろうかと思うが、やはりこの検証だけはやっておくべきだな。)
程なくして彼は目的地の3体のゴブリンがいる場所に着く。
(お、1体寝てるな。あとは伸びた爪で地面に何か書いてるやつと、座って天井を眺めているやつ。これは好都合だ。)
彼は自身に【操作】を発動し、できるだけ音を出さずにゴブリンたちに近づく。そして一番手前で寝ているゴブリンに対して【操作】の発動を試みる。
(発動しない、というより対象にすらできない。一応、座っているやつにもやってみるか。………駄目だな。まぁそれもそうか。とりあえずこいつら殺して他の検証も済ませておくか。)
彼は音を立てずにゴブリンたちに近づく。そして寝ゴブリンの顔を振り上げたシャベルでぐしゃという音を立てながら叩き潰す。その音で彼の存在に気づいた座りゴブリンは彼を迎え打とうとするが、既にスイングされていたシャベルによって壁へと叩きつけられる。
(【操作】を使えば油断している相手の不意打ちは簡単だな。ラストゴブリン君は……あ、かなり怒ってる。)
「ググャギー!ギャ!」
仲間を殺され、激昂するゴブリンは足元に置いていた棍棒を拾い上げようとする―とその隙に彼は素早く近づき、顎めがけてシャベルを振り上げる。ゴブリンは少し身体を浮かせた後、ドサッと音を立てて倒れる。
(すげぇ、口から泡吹いてる。……あっ、消えていってる。即死じゃないと身体が消えるまで時差があるのか。
ふむ、3つの魔石の大きさや形は多少ばらつきがある程度。他のモンスターの魔石も見てみたいところだ。)
(どいつも棍棒を持てなかったな。どんまい。ゴブリンも常に棍棒を持ってるわけじゃないよな。明日は我が身だ。やはり常在戦場だな。俺もダンジョン内では意識の高い系武士になるとしよう。
さて、今回わかったことは、意識の有無にかからず、他の生物を【操作】の対象にすることはできないって感じか。もちろん人間相手にもできないだろう。ふぅ…、これはホッとする結果だな。全てを操れるスキルなんて俺には有り余る。俺は支配者なんて向いてないだろうしな。本当によかったよかった―と俺自身は思える。だが、他人からしたら「僕のスキルは【操作】です。しかし、他人を操ることはできません。」なんて言われても信じられないだろう。俺でも信じない。ただ、できないことの証明なんて何とも悪魔じみている。………。隠すか。スキルについてはできるだけ言及しないで、どうしても言わざるを得ない場合は【身体強化】とでも言っておこう。ありそうだし、俺の超人的な動きを見られても辻褄が合う。
(考えてたら疲れたな、さっさと帰って寝るか。)
彼は魔石を捨てて、帰路に就く。
ポイ捨て❌