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欠落少女よ、憧れとなれ  作者: 嘆き雀
第四章 母か姉かの手のひらは愛おしく
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第九十二話 リビーの決意

 代美との話を終えて、ノエルは直ぐにでも掃討戦に参加したかったのだが、許されることはなかった。

 勝手に行こうとしても、寝ていた場所が見知らぬ家屋で村だ。どうやら大量のヒトカゲがいるということで、避難して人がいない村を治療場所として借りているらしい。丸一日寝ていたことから推測するに、廃墟の町からそう離れていないだろうが、無策で行くのは避けたい。


 ノエルは村を出入りする人に目を付けた。負傷者を運びに来たり、連絡を届けにきたりしているようだが、とにかくこういった人に付いていけば、廃墟の町に行くことはできそうである。


「あんた、暇ならこっち来て手伝いな!」


 人を見定めていたら、見知らぬ女に首根っこを掴まれ、負傷者の世話をやらされる。とにかく人が足りていないらしく、逃げる暇なく水を汲んでこいやら汗を拭いてやれなど頼まれる。


「何をやっているんだ、ノエル?」


 代美が見つけてまだ安静が必要なのだと交渉してくれるまで、ノエルは働かされることになった。

 女は避難しないで手伝いを名乗り出た有志で、肝っ玉が大きく融通が利かないところがあった。



「勝手に一人で行かれると困るからな」


 有志の女が隙あらば人手を得ようと目を光らせているので、一日大人しく安静にしていると、代美が掃討戦に連れていってくれることになった。掃討戦の方も人手不足らしく、元々そうするつもりだったらしい。

 討伐戦では相当な人が死んだという上、負傷者もノエルが走り回って世話をすることになったぐらいにいたのだ。


 廃墟の町に向かってみれば、死者数の方も目の当たりにすることになった。

 地面の上に寝かせられた亡骸は予想より少ないが、新たに運ばれてきた亡骸からまだまだ増えていきそうである。



 廃墟の町を囲んで、人が点在している。人手が少ないというわりに人を割いているので、いかにヒトカゲを逃がして被害を出さないことに力を入れていることが分かる。

 代美はまず仲間に顔を見せようと、町の外に置く拠点に向かう。きょろきょろと必死に探していたが、感知能力が高いノエルの方が見つけるのは早かった。代美に分かるよう、指をさしてやる。


「いる」

「おー、もう元気になったんだね」


 エレオノーラは負傷どころか疲労も見せず、相変わらずの調子で話しかけてくる。

 蒼との戦闘では手出ししないで見届けると言い、嘘をついていないか疑ったものだが、実際手出ししないでくれた。その間、代美に言ったように別のヒトカゲと戦っていたのか、じっくり見届けていたのかは不明である。


 ノエルとしては興味がないのでどちらでもよく、「ん」と簡単に頷いておく。対して代美はノエルを見殺しになっても手助けするつもりはなかったのかと疑い、警戒して、「エレオノーラか」と硬く名を呼んだ。


「話がある。……が、後にするとして、他の者はどこにいる?」

「安茂君は遅れて直ぐやってくるってところかな。あとの二人は町に行っちゃった。一応、ちゃんと止めたよ」

「そうか……待っているように言ったんだがな」


 代美はそっと目を伏せ、表情を暗くする。

 二人というのはリビーと仁に違いない。


「わたしも早く行きたい」

「あはは。ノエルちゃんってば、ほんっとぶれないねえ」

「無事な姿を見せるとはいえ、リビーに会わせていいものか考えさせられるな」


 代美は頭が痛いと言わんばかりに、額を手で押さえる。

 その場面に、安茂が遅れてやってきた。


「ああ、ノエルさん。ご無事でよかったです」

「ん」


 安茂は右腕に包帯を巻いている。見ていたのを代美が気付いて、申し訳なさそうに説明する。


「私を守って負傷してしまったんだ」

「いえ、僕がへまをして勝手に負傷したんですよ」


 言い合いになりそうな雰囲気だったが、ノエルがいなかった間にけりはついていたようで代美が「すまないな」と簡単に謝罪して終わる。



 安茂は右腕が使えない状態で、ただ両利きということから左腕が使える。そのため負傷した状態ではあるが、廃墟の町を囲む一人となってヒトカゲを逃さないよう見張り、いざというときには討伐する役目を担っていた。


「無理は禁物ですよ」


 安茂には負担が大きいので、廃墟の町の中に入って積極的に掃討戦に関わることはない。一時の別れの前に言葉を送られ、ノエルは代美とエレオノーラを引き連れて行くことになる。


「いいか、ノエル。リビーは今とても繊細だから、無神経なことを言っては駄目だからな」


 エレオノーラと安茂に会う前にも、代美からしつこく言われていることだった。

 どうやらリビーは家族を目の前で殺され、その上仇討ちをしようにもカカに逃げられて不安定な精神状態らしい。掃討戦により気持ちを紛らわせているが、ノエルが気を逆立てすることを言わないか、代美はくどいほどに心配していた。


 別にいつも通りでいいよね。


 無神経なことと言うが、どのような言葉がいけないのか具体的によく分からなかった。まあいつものように、必要なこと以外は黙っておけばいいだろう。


 ノエルは探せば見つかるヒトカゲを斬ることを楽しむ。

 また、家屋を吹き飛ばし地面を削った、一直線上の大きな力の跡を見る。討伐戦時にできたもので、大量にいたヒトカゲにも直撃したらしい。神が人間に味方して救ってくれたのだと言う者が多いようだが、ノエルとしてはヒトカゲによるものだと考える。ヒトカゲを狙ったものだとしても、センのように人間を良く思っているヒトカゲがいる。

 まあ神やヒトカゲのどちらでもいいが斬ってみたいものだ、とノエルは胸を弾ませる。



 リビーとはヒトカゲを探していれば会うことになった。苛烈に刀を振るい、ヒトカゲを灰としている。いつもの柔らかに受け流して誘導し、作った隙に攻撃するような剣技とは正反対だ。

 代美があれほど心配するはずだ、と納得する。


 リビーは討伐して直ぐ次のヒトカゲを探しに行こうとするが、一人では危ないためと付き添っていた仁がノエルたちの存在を知らせる。


「ああ、ほんとやな」


 無表情で素っ気ない言葉の後、早足で近づいてくる。


「リビー、」


 代美が言葉を詰まらせているが、リビーは構わず話しかけてくる。


「ノエル、もう動けるようになったんやな。見た感じ、回復したみたいで良かったわ。じゃあ、うちは忙しいから」


 リビーは身を翻して去っていく。

 ノエルは急いでその後を追って――――追い抜かした。


「は?」


 呆気に取られている内に、距離を離しておく。

 リビーは時間を置いてノエルの意図を察して、怒声を浴びせる。


「ノエルッ! その獲物はうちのやッ!」


 そんなの知らない。

 それどころか、つい先ほどリビーが斬っていたヒトカゲは、ノエルが探して見つけ出していたヒトカゲなのだ。次は譲ってくれてもいいのでは?


「譲って」

「譲るかッ!」


 振り向かなくとも物凄い勢いで迫ってくる圧を感じたので、ノエルは走る速度を上げて、先にヒトカゲを斬ってしまう。次に感知したヒトカゲも先に斬った。次も、その次も、そのまた次も。


 ノエルの感知能力は、リビーより上回っていた。ついにリビーは、ヒトカゲではなくノエルに刀を振るってくる。


「……やる?」


 簡単に刀を受け止めることができたので、本気ではないのは分かっていたが、希望を持って聞いてみる。

 代美たちがバタバタとやってきたのを見て、本気でも無理そうだと落胆していると、リビーはぽろぽろと涙を流し始めた。


「ノエルはいいやんな。蒼っていう第三形態を倒して、強くって…………助かった奴も多いんやろうな」


 なんだか面倒なことになった。

 ノエルは助けを求めて代美を見遣るが、うんうんと力強く頷いただけでその場から動きもしなかった。


 ノエルが相手になれってこと?

 無神経なこと言うよ。いいの?


「うちは駄目な奴や。家族も助けられへんかったし、仇も討てへんかった。ノエルでさえ今回は協調性があったっていうのに、うちは怒りに任せて皆に迷惑かけた」

「……そう」


 無神経なことは一切思い浮かばなかったので、結局いつも通り適当に話に応じることになる。


 蒼を勝手に追いかけたことは協調性があるとは言わないと思うが、蒼は相当戦況を掻き乱して大きな被害を出していた。

 独断にしろ、優先して蒼を討ったことがそれ以上の被害を食い止めたとして評価されていた。リビーもそのため協調性がないことには含めないのだろう。


「そんなんやし、あいつはノエルしか目に入っていなかったんやろうな」

「あいつって」

「カカや。前に会ったことがあるんやろ」


 リビーは今回初めてカカと出会ったので、そんな言い方となる。代美から詳細は聞いているのだろう。


 リビーは悲しんだり、ノエルを羨んだりと忙しない。怒っている節もあるし、ノエルは考えるのも面倒になってやめた。思考をさっぱり綺麗にさせると、ノエル自身の要望が浮かんでくる。


「じゃあ、わたしがカカを斬っていい?」

「……いい訳ないやろ」

「わたしの方が上手くやれる。リビーもそう思ってるのでしょ」

「それでもッ!」


 リビーは涙がとめないまま、きっとノエルを睨みつける。


「うちがカカを倒す。仇打ちできるぐらいに強くなくたって、これから強くなるからいいんや! 悲しいのも悔しいのも情けないのも自分に腹が立つのも、全部力に変えてやる! ノエルなんかけちょんけちょんに倒せるぐらいになったるから、カカを斬るだなんて余計なお世話や!」

「余計なお世話じゃない。わたしがしたいこと」

「そんなん分かっとるわ! ったく…………でもすっきりしたわ」


 リビーがほんのりと微笑んでいて、いつもの調子に戻ったと知る。

 何が良かったのかは分からないが、これでノエル一人で相手にするのは終わりだ。代美たちが近づいてくるのを見て、はあと溜息をつく。とても疲れた。ヒトカゲを斬っている方が疲れを感じないし、楽しい。


 それでも前向きにやる気に満ちたことで、リビーから積極的に打ち合いに誘うことが増えたことは唯一良いことと言えた。


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