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欠落少女よ、憧れとなれ  作者: 嘆き雀
第四章 母か姉かの手のひらは愛おしく
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第七十八話 第二支部

 ヘイニたちと会えないとなると、その記憶は夢だったように現実感がなくなった。

 だが、昨日の出来事をノエルは覚えているし、ヒトカゲと戦った傷も疲労も、褒美と詫びを兼ねてもらった金品が入った包みもある。


「また会えるよな」


 屋敷と共に消えたヘイニたちだが、代美は不思議とそんな気がしてならない。そのときが来たらいろいろな話を、謎に包まれたヘイニたちのことを聞いてみよう。

 どんな素性であろうとも、ああして話すことができたのだから受け入れるつもりだった。


 …………ただ幽霊でなければいいとは願う。

 ヒトカゲよりも実態が知れないので、恐いと思う代美だった。



 朝日が大分昇った頃に町を出立する。

 疲労が取れなかった代美と異なり、リビーは元気に先頭を歩いている。


「どうにか無事揃って出発できてよかったわ。いつ戻ってくるかは分からんし、最悪置いていくしかなかったからなあ」


 リビーは千体以上いるヒトカゲの討伐への応援に駆けつけている。

 ヘイニから『借りる』だけとはいえ言付けがあり、ノエルがついていったこともあってその判断に不満はない。

 そもそも武芸者である代美がまんまと連れられてしまったことが事の発端なので、文句は言えるはずがなかった。


「迷惑をかけてすまなかったな」

「ほんとやでー。必死に探し回る羽目になったんやから。エレオノーラも、仁なんかも顔色変えて大慌てだったんやで」

「……あんな風に連れていかれたら、誰だってそうなるだろ。俺を薄情者だって思っているのか?」


 仁とは個人的な付き合いは薄く、仕事仲間という認識だった。またノエルに関する警戒でいろいろと邪推してしまうが、それでも必死に探してくれた事実は変わらない。

 照れくさそうに視線を合わせないこともあって、代美は頬を緩ませる。リビーとあれこれ話したこともあり、警戒度を下げていた。


 対してエレオノーラは何気なく言ってのける。


「私は護衛だったのに、まんまとしてやられたからね。無事戻ってきてくれたのはいいけど、名誉挽回したかったなあ。役立たずだって処分されないといいけど」

「処分……!?」


 自然体でいるのに、言っていることが物騒だ。


「そうそう。こんな場所じゃあ替えのきく人はいないからこのまま護衛は続行するけど、突然消えることになってもそういうことになったんだって驚かないでね」

「そう言われて、分かったと言えるかッ! なぜそうも達観的でいられるんだ!」

「えー? 忍びってのはそういうものだから? まあ可能性の低い、もしものことだし? そうカンカンしなくてもいいよ」


 忍びの価値観に絶句してしまう。代美がなんと言ったところで、エレオノーラは当然のこととして受け入れてしまうのだろう。


「ノエルは無事だったんやし、報告を上げなければいいんやないの?」


 リビーも代美と同じ考えに至ったのだろう。そう提案するが、エレオノーラはで首を横に振る。


「それこそ役立たずだって処分されるよ。まあ、そんなに心配してくれるなら……ノエルちゃん、私が護衛じゃないと嫌って言ってくれる? いつかは打ち合いに付き合うかもしれないよっ」

「ん。打ち合い、する?」

「はいこれで心配なし! 打ち合いは気が向いたらね」

「むう」


 本人が深刻に捉えていないことが気になるが、ノエルのおかげでどうにかなった。



 代美は悶々としたものの、エレオノーラの歪な思考や完全に話題が変わったことから口出しすることなく、残り僅かな道程を進める。


 第二支部にはその日のうちに到着した。

 本部の灰身上には追いつくことは叶わなかったが、ヒトカゲ討伐に置いていかれてはいない。本部と同じように終幕の灰身団の恩恵に授かろうと付近に形成された町の外に、陣が敷かれている。知っている顔がいたことで、本部所属の灰身上と判断して立ち寄る。本部にいたときにリビーが説明していたことで話が早く、簡単な情報収集――第二支部に収まりきらない人数なので、町の住人を守ることを兼ねて陣を敷いて待機中――をしてから、第二支部に向かった。


 昔いた場所とあって、リビーは勝手知ったる様子で先導する。


「あれ、リビーじゃないかい」

「よく帰ってきてくれたなあ!」


 リビーが住人の多くからそう声を掛けられていて、親しまれていたことが分かった。ヒトカゲの脅威を聞かされていることもあってか、代美たちも含めて歓迎してくれる。


 リビーは一言二言と流れるように挨拶をすることで、足を止めることなく第二支部の屋敷に着く。


「邪魔するでー」


 今では本部所属であるが、実家に帰ってきたように気軽に屋敷に入っていく。リビーはともかく、代美たちもついていっていいものだろうか。


 五人もいれば邪魔だろうと迷っていると、リビーは「何してるん?」と付いてくることを当然のこととして、しかもさっさと先に行ってしまう。

 代美たちが急いで追った先では、リビーは若い女と再会の抱擁を交わしていた。展開が早すぎる。


「ひさしぶりやなー。今のところ元気そうで何よりや」

「ほんと、今のところはね。リビーってば何も変わっていないやん」

「背が伸びてるやろ」

「ええ、本当? うちも背ぇ伸びてるやろうし、分からんかったわ」


 リビーは嬉しそうにはしゃいで、女と話すのに夢中だ。同じ上方語を使い、さゆねえと呼んでいることから、話に聞いていた姉なのだろう。血の繋がりはないので容姿は似ていないものの、仲の良い姉妹に見える。

 ひとまず見守っていると、話し声に誘われて現れた別の女が「お客人を立たせてはいけないでしょう」と声を掛ける。


(あね)さん!」

「ほらほら、再会を喜ぶのはあと。そんなに元気があり余っているなら、お茶を用意してきなさい。沙弓(さゆみ)もよ」

「はーい」

「しゃあないなあ」


 リビーは口ではそう言うも、嫌そうには思っていない表情だ。


「ではお客人。こちらへどうぞ」


 姐さんと呼ばれた女は丁寧にもてなしてくれる。リビーの仕事仲間であり友人と知ってからは、気さくに会話をすることになる。


「リビーは気が強いし、思ったことを直ぐ口にするから少し心配していたけれど。これからも仲良くしてもらえると嬉しいわ」

「はい、勿論です。リビーは私にとって掛け替えのない友人ですから」

「こんな素敵な子がいてくれて安心だわ。個人的にも仲良くしてちょうだいね」

「私なんかでよければ」

「ふふ。そんな風に謙遜しないで、素直にうんと言ってくれていいのよ」


 距離のつめ方が近い気がするが、リビーを通して信頼してくれているのだろう。


 代美はこれまで本部と第一支部を見てきたが、第二支部も第一支部と似通って親しみやすさがある。もしかしたら終幕の灰身団は全体的にそのようなあり方で、本部だけが堅苦しいのかもしれない。


「姐さん、余計なこと話してないやろうな」


 和やかに談笑していると、リビーが沙弓と共にお茶をもってくる。


「まだ話してないわよ」

「後でも恥ずかしいんやからやめてや。……ったく、姐さんはこんなとこで悠長にしてていいん? 絶対忙しいやろうに」

「簡単にだけど、もてなす時間ぐらいあるわよ。むしろ危険を承知で駆けつけてくれたのだから、誠意をもって私が対応しないとね」


 事前にリビーから第二支部にいた頃の話を聞いているので、代美は誰か予想できてしまった。

 変なことは言っていないか、気安すぎてないか、代美は慌てて思い返す。


 それを見通したかのように、目を細められる。


「隠していなかったのではないけれど。――私は支部長を務めさせてもらっている倖女(こうめ)よ。偉そうな立場にいるけれど、同じ灰身団の一員なのだから気負いなく接してちょうだいね」


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