表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
欠落少女よ、憧れとなれ  作者: 嘆き雀
第四章 母か姉かの手のひらは愛おしく
80/100

第七十五話 五体のヒトカゲ討伐

 ヘイニの要請により、屋敷にいるというヒトカゲを討伐することになった。でないと駕籠の中でも高級な乗物(のりもの)の賠償と暗に脅されたが、そのようなことがなくとも灰身上であるからにはヒトカゲ討伐は引き受けただろう。無理やり連れてこられた経緯はあるが、なんとしてでもヒトカゲを討伐してもらいたく必死だった事情がある。

 と、代美はそう思っていたのだが。


「ヘイニ様はそう、誰よりも尊く絶対的な御方。そこら辺の痴れ者は見目の美しさに目がいきがちだが、それだけでなく内面も素晴らしく、全く礼儀のなっていない野郎どもへの寛大も持ち合わせている」


 代美のぼやきに対する悪態から始まった、ノノによるヘイニへの賛美は滔々と止まることがない。屋敷にいるというヒトカゲを討伐してもらいたい必死さは全くなかった。

 ノノはヘイニを心酔しているようだ。ヘイニは見惚れるほどに美しいとは同意できるが、その熱量には引いてしまう。


 ……私たちのことを遠回しに非難はしていないよな? その野郎というのは男なはずで、私たちは女だ。

 心酔は狂信的なまでに及んでいるが、代美たちの性別を間違えるほど目は曇っていないと思いたい。


「ヘイニ様が仰るなら(カラス)は白で、僕は格好いいでなくかわいいだ。いいか、絶対に僕のことを格好いいなんて言うなよ。絶対、絶対にだ」

「かっ」

「わいいな! ノノ殿は! ノエルもそう思ったよな、なあ!」

「…………ん」

「ふふん。そうだろう。なんせ、ヘイニ様が仰ったぐらいだからな!」


 そして、ヘイニへの賛美は続いていく。


 ノエルが恨めしそうに代美を見てくるのを、殺されるよりはマシだろうと睨む。ぶっちゃノノはかわいいより格好いいの部類なので、否定したいのは分かる。

 まあ、ノエルとしてはノノと戦いたいからと挑発しようとしたのだろうが、どちらにしてもやめておいた方がいい。ノエルの強さを疑っていないし、ノノは無手で武芸の心得があるのかも未知数だが、ヘイニのことになるとあらゆる手段でもって報復してきそうだ。


「ノノ殿。ヒトカゲは合計五体いるというが、大体どのあたりにいそうかは分かるか?」


 ヘイニ賛美で疎かになっていたが、夕方前とヒトカゲが影から現れて活動するにはまだ早く、この間に屋敷内の構造を把握しておこうと案内を受けていた。

 ノノは語り足りなさそうにしつつ、ヘイニに任されていることなので説明してくれる。


「屋敷内に一体はいる。それ以外は外だ」

「断言するんだな」


 ヒトカゲは影に潜み、移動もできる。

 代美としてはダメ元の質問で、分からないと返答されると思っていたため意外だった。


「一体だけ厄介だったから屋敷内に潜られたが、それ以外は雑魚だ。ヘイニ様のおられる住まいまでみすみす入れたりしない」


 ギリギリと歯を食い縛っているのが聞こえてきそうなだった。一体は入れてしまったので悔しいのだろう。


「代美。手分けしよ」

「……屋敷内の一体はどの程度の強さか分かるか?」

「さあな。ただ、のらりくらりと逃げることは上手い」


 ノエルは厄介なヒトカゲに興味があるらしい。代美としては怪我無く勝てるならば、ばらけることになっても良いと思う。

 最初は屋敷の人気のない不気味さに警戒していたが、ヒトカゲがいるせいだと分かった。無理やり連れてこられたが、ヘイニと話してみて害する気持ちもないと判断もしている。ただし狂信的なノノについては例外とする。


「早くリビーたちの元に帰るんでしょ」

「む。……屋敷内で避難している者の守りにも繋がるからな。ただし、決して無理するなよ」


 正直、守りを必要としているかは不明である。五体いるヒトカゲを相手にして町に逃がすことなく屋敷の敷地内に留めていたのだ。だが討伐まではできず、それでいて差し迫った危機感がない。

 最低限の自衛はできるのか、保有する武力を測り損ねていた。手分けすると決めた後でも考え込む代美に、ノノは構うことなくふんと鼻を鳴らす。異論はないらしい。


「屋敷内だと立ち回りが制限されるからな。状況に合わせて打刀(夢幻)だけでなく、取り回しやすい小刀を使うといい。いつもと勝手は違うだろうが――」

「できる」


 いつもの淡泊さと違って食い気味な反応に、代美は不思議に思いつつ本当にできるのか心配になる。


「剣技は小刀でも通用する。剣技以外も、直ぐにできるようになる」


 やけに反抗的だな……私が何かしてしまったか?


 心当たりが思い浮かばないうちに、ノエルは屋敷内に潜むヒトカゲを探しに行動を始める。人を斬ろうとしてから、こうして別行動となるのは初めてだ。


 大丈夫だろうか。


 別の意味で今度は心配してしまうが、以前から別行動はあったのだ。ここ最近は第一支部の件から共に行動してばかりいるが、人を斬ろうとしたのは罪人という特別な要素があったためで、これまでは道理に背くことはなかった。


 今はそれよりも私自身のことだな。


 ノエルに厄介だというヒトカゲを任せることになったが、代美とて残る四体を相手にしなくてはならない。

 この後に待つ千体以上はいるヒトカゲ討伐と比べれば数は少ないように感じるが、一人で四体相手どることはやったことがない。だが、夕方にしか現れないということは第一形態の個体で、なにもまとめて戦う必要もないのだから一体ずつ着実に倒していけばいい。


「それで、ノノ殿は観戦でもするつもりか?」

「そんなつまらないことなんてしない。何かしでかさないか、僕自ら見張ってやるんだよ」


 皮肉に気にすることなく、ノノは堂々とした態度だ。

 避難してもらった方が安全だろうし、配慮しないで済むのだが、説得は困難そうだと短い付き合いで代美は悟る。


「私より、ノエルを見張った方がいいと思うぞ。屋敷を傷つけないように言ってはいるが、いざとなったら遠慮しないはずだ」

「あの女には別の者が見張っている」

「そうか……」


 ノエルの元に向かわせても押し付け合いとなるだけで問題は解決しないが、ノノの我を通す性格とヘイニへの心酔は共にいてとても疲れるのだ。

 どうせならノエルを担当してほしかった。代美は溜息をつくも、どうにもならないことだと受け入れて意識を切り替える。


 屋敷は塀と門で囲まれており、閉じられた空間だ。屋敷も隙間という隙間は全て閉じているので、これ以上の内に入れさせない対策が見て取れる。物置や奉公人の住まいである建物についても同様だ。

 ヒトカゲは人間を見つけると近づいてきて大抵の場合は襲いかかってくるが、その他にはあてもなく動き回るだけだ。屋敷の位置は町の外れにあるのか、人の声と興味を引くものはない。特に何をするでもなく放置すれば、屋敷外まで移動することはなかっただろう。


「いるな。二体か」


 どちらも黒い体の輪郭が定かでなく、ぼんやりとしている。この第一形態の弱い個体なら、同時に相手どっても安全に倒すことができるだろう。広々と開けた場所にいるので、武器を遠慮なく振り回すこともできる。


 ノノはここにいろと手で合図し、代美はヒトカゲに気づかれない距離まで接近する。

 鎖鎌で中距離から一体、近距離で一体と順番に倒していくつもりだった。身の危険を限りなく低くした計画は、ノノのせいで乱される。


「コソコソとまどろっこしい」


 せっかく隠れていたのを、ノノはヒトカゲに対峙して分かりやすく姿を見せる。


 何勝手なことをしているんだ!


 頭を抱えたくなると同時に、とても嫌な予感がした。それでも代美はまだ気づかれていないこの好機を逃すのは悪手だと、鎌を直線状に投げる。


「とっとと姿を現せ、この愚鈍どもが!」

「愚鈍はお前だ馬鹿あああああああッ!」


 ノノは大声を響かせ、注目を集めた。

 代美は時期(タイミング)良く鎖を斜め方向に引くと、ヒトカゲの首に引っ掻けるようにして切れた。狙いどおりの結果に喜ぶ暇はなく、直ぐ様二体目に対応しなくてはならない。


 代美はただ感情任せに大声を出しただけでなく、ノノへの注意を逸らす意味もあったが、その甲斐はなくヒトカゲはノノに向かう。この状況で戻ってくる鎌を自傷なく掴みとることは、代美にはまだ難しい。鎌は雑に地面に転がしておき、その反対側の分銅を打ち付ける。


「お前の相手は私だ!」


 ヒトカゲに効きにくい打撃系の分銅だが、致命傷にならずとも多少の痛みは与えられる。

 今度こそ注意を置き変えることができ、そのままいつまでも突っ立ったままのノノ前に出るためにすれ違う。ノノは舌を出して、代美をよりいっそう苛立たせた。


「ヘイニ様に気に入られたんだ。この程度の相手、まとめて倒してみせろ」


 私がいつ、どこで気に入られたっていうんだ!


 感情が荒立つも視界の端で新たなヒトカゲがいることを確認し、落ち着けと言い聞かせて堪える。鎖を振り回して目の前のヒトカゲに再度分銅を食らわし、怯んだところを接近して、手元に引き寄せていた鎌で切り裂いた。

 灰と化すのに、身を震わせていた一体目も加えておく。首を切っただけではまだ倒せていなかったので、鎌で胴体を大きく裂く。


 とどめを刺せたのはいいが、その分時間を消費している。いつのまにか四体目まで増えていて、代美はもう二体分を一息つくことなく相手にしなくてはならない。代美は一歩踏み込んで、三体目に鎌の切っ先を向け――貫き刺す代わりに、横から伸びてきた黒く微かにぼやけた腕にぶん殴られ、コロコロ転がっていく様を見せつけられる。


「私が何をしたって言うんだッ!」


 堪えきれなかった腹にきた叫びは、もはや悲鳴に近い。

 屋敷内にいた、五体目のヒトカゲだろうか。屋内にいたものまで現れるとは、ノエルと分かれた意味がなかったではないか!


 ノエルが異常を聞きつけて駆けつけるのを期待するも、ヒトカゲは待ってくれない。

 代美はノノが高みの見物と屋根に避難しているのを確認し、そこからは滅茶苦茶に戦った。


 五体目の『のらりくらりと逃げることは上手い』については好戦的だったのでよく分からなかったが、厄介なヒトカゲであることは確かだった。

 第二形態であるし、特性の【伸長】は鎖鎌の武器と相性が悪かった。鎖で巻き付けても体の一部を伸ばすことができることので、完全に身動きは封じることはできず戦い方を制限される。分銅の痛みは鈍いようで、怯むことなく襲い掛かってきた。


 ただ同族をぶん殴って頭を傾げるような、むやみに暴力を振り回す知能の低さには助かった。三、四体目を巻き込んで攻撃してくるので、乱戦に持ち込めば代美が手にかけることなく倒れてくれた。それでも同士討ちになるように頭を働かせながら代美自身は攻撃をもらわぬように仕掛ける必要があって、ギリギリのやり取りだ。

 相性が悪いからと鎖鎌を丸ごとぶん投げて打刀に切り替え、手が足りないからと小刀を左手に持って無様な二刀流になるぐらいには必死になった。


 そしてノエルが駆けつけるまでに、代美は五体のヒトカゲを討伐してみせる。


「遅い!」


 理不尽な怒りだろうが、当たらないではいられなかった。

 ノエルは代美の惨状に目を見開き、「ごめん」と素直に謝ってくる。獲物を取られたと怒り返すことはなかった。


 こうして代美は単独での第二形態のヒトカゲ討伐を、より困難な形で果たしたのだった。以前と比べて強くなったとは、全く思うことはなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ