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欠落少女よ、憧れとなれ  作者: 嘆き雀
第四章 母か姉かの手のひらは愛おしく
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第七十三話 リビーへの事情説明

「うちは明日以降の食料の買い出しに行ってくるわ。荷物持ちとして代美は連れていくで」


 あっという間にいらぬ旅荷物を取り上げられ、リビーに連れられた。その強引さに代美は慌てる。


「リビー、待てっ。荷物持ちなら仁の方がいいだろう!」

「そう買い込む必要はあらへんし、別にいいやろ? それともうちと一緒なのがいやなん?」

「そういうことではないが……」


 ノエルを警戒すべきエレオノーラと仁と共に残しては置けない。


 だが、言葉にはできなくて口をつぐむ。どうして仁まで警戒するのかと理由を問われる。木丞(きすけ)から事情を話してもいい許可はとっているが、その説明には時間がかかる。


 代美はどうするべきか考え込む。

 無理にノエルのところに戻ってもいいが、怪しまれることになるだろう。エレオノーラはともかく、仁は警戒されていることを知らないのだ。リビーには心配からどうしたのかと、二人の前で尋ねられるかもしれない。話すにしても二人きりで、時間があるときだ。今、悠長に話してはいられない。


「……分かった。買い出しに付き合おう」


 代美は急いで買い出しを終わらせ、ノエルの下に戻ることにした。安全度は下がるがノエルは単身でも強く、なにより怪しまれることはなくなる。速かったなと言われても、誤魔化せられる範囲だ。


 急ぎの旅路とエレオノーラの登場で、話せる機会がなかったのが悔やまれる。そうであれば、リビーは代美を誘うことはなかっただろう。


 買い出しの付き合いに拒否したことは他愛ないことだったと、ここで問い詰められて時間を費やすことを嫌い、焦る感情を抑える。だが、すぐにその意味はなくなった。


「代美。どうしたん? ここんところ、なんか変やで」

「別に、私はいつも通りだぞ」

「そんなことあらへん。大方ノエルを心配してるんやろうけど、警戒が過剰や。エレオノーラがいう護衛は嘘ではなさそうなんやから、ありがたく任せときゃええ」

「それはそうかもしれないが」

「他になんかあるっていうなら、言えばいいやん。なんで? うちでは頼りにならんの?」


 その懇願は悲しみを含んでいる。話すつもりでいたため、リビーにそんな気持ちにさせるつもりは全くなかった。


「そんなことはない。リビーが今回私を頼ってくれたように、私からも頼むつもりでいた。だが、その機会がなくて……」

「……今もそうなんやな。無理に連れてきて悪かった。でも、今にも話しといた方がいいんやないの。エレオノーラは忍びやし、言われた護衛の理由から警戒したくなるのは分かる。けど吞み込んで利用していく気でいないと代美の負担が大きいし、元々一人でできるもんでもない」


 エレオノーラは第三形態のヒトカゲを釣るために、死なせないためにノエルを護衛すると初めに説明した。

 ノエルは気にしていなかったが、代美は内心腹が立って仕方なかった。最低限命さえあれば傷つくようなことがあっても放置するのか、と。代美は忍びの気配を掴むことすらできないが、もしやネロやセン、カカと戦っているときにその場にいても見ているだけだったのか、とノエルを蔑ろにする言動に怒ったのだ。


 とはいえノエルを囮にしていることを代美は知らされていて、反対なく受け入れていた。人のことを言える立場でないが、それでも小さく呟いて不満を漏らした。誰も反応を示さなかったが、リビーは聞こえていたか察していたらしい。


「そう、だな。そうかもしれない」

「よし。そうと決まれば、全部吐いてもらうで」

「……買い出しもしなければならないからな?」


 圧の強い笑顔に押されて言うも、リビーは「なら先にとっとと済ませるで」と一歩も引かれることはなかった。




「ふうん。なるほどなあ。どこ行ってるかと思えば第一支部なんて、そりゃすぐ帰ってこんわ」


 本部にヒトカゲが潜んでいて、それも人間に化けているかもしれない。そのために信頼できる第一支部長の虎々を訪ねて協力体制を築いたこと。また、木丞は忍びと連携している立場でなく敵対的で、第三支部長の結やそれとなく仁も合わせて警戒すべきと伝えられていること。

 全部吐くとしても、細かく話していれば日が暮れるのでざっと要約した。リビーはこれまで情報を伏せられていたことによる疑問を解消し、納得している。


「仁までも警戒すべきなんてなあ。……うち、いらんことしかしてないな。第二支部の応援にごり押しで引き込んだ上、ノエルをエレオノーラと一緒に残してきた」

「知らなかったのだから仕方ないだろう。知らせるのが遅かった私の落ち度でもある」

「でも仁がかあ。そりゃ自分のことはよう話さんし、そもそも昔話するほどの仲でもないけど、うーん」

「信じたくないか?」

「いや。うちは好一対(バディ)で組んでるから、代美より仁のことを知ってるつもりや。そんなうちでさえ謎多い奴やと思うから、警戒するのも無理ないと思う。ただ反対に不穏な動きも見てないんや。仮に仁をヒトカゲだとして、これまで幾度となくノエルのことは狙えたのにしてこんかった。信頼できるもんよりも信頼できんもんの方が多くて大半なんやから、そこまで警戒すべきでもないやろってな」

「確かにそうとも考えられるな」


 ノエルを狙いやすい立場であるからと、仁を警戒しすぎていたかもしれない。


「だが、なにより本部長が伝えてきたんだ。警戒はすべきだろう」

「警戒しないとは言ってないでな。ノエルを捕らえる以外にも目的があるかもしれんしな」

「目的……ヒトカゲでなく、忍びだったとかか?」

「あとはヒトカゲに関係する記憶を持ってたけど、今は記憶喪失でないから監視してるとか」

「どっちもありえそうだな……」


 考えれば考えるほど、真相が分からない。現状では情報が足りなさすぎるので、考えるのをやめる。


 第二支部でのヒトカゲ討伐から無事帰ることができたら、本部長に問い合わせた方がいいだろうか。だが、意図して情報を伏せているなら、私が知らない方がいいのだろうし……そもそも私はノエルの味方になったり、道理を教えたりするのに専念したいと決めたはずだ。


 ノエルの身の安全に警戒するだけでなく、本人が人を斬って刑罰を受けることがないようにしなくてはならなかった。その関連で代美は人を殺したことを思い出し、罪悪感に苛まれる。


「なんや、まだ話してないことがありそうやな」


 リビーが代美の肩を叩く。全部吐けって言ったよなあ、と幻聴が聞こえてきた。

 代美のその罪はざっと要約した中には入れなかったため、ひええと悲鳴を上げる。


「は、話す! その、後で話そうと思ってたんだ!」

「本当かあ? 誤魔化して、嘘言ってんやないやろなあ」

「も、勿論だ!」


 実際は話すか話さないか、迷っている段階だった。リビーにどう思われるかを含めて、代美の罪を話すことは勇気がいる。


 その勇気はまだないので、歩いていた道の向こう側にノエルと仁がいるのを発見したことをいいことに、リビーから距離をとるために駆け寄る。


「代美、逃げんな!」


 これは仁とともにいるノエルを心配してだ、逃げてなんかいないぞ!


 リビーが追いかけてくると周りへの注意が疎かになっていたのがいけない。


「うわあ!?」


 前後四人ずつで担いでいる駕籠が代美を追い越し、そして横の道に曲がろうとして接触しそうになる。危うかったものの、代美はギリギリで踏みとどまれた。

 ほっと一息つくも駕籠を担いでいた男たちが足を止めている。男たちの全員の首に揃いの布紐(リボン)をつけているのが目につくが、それよりも。危機はまだ過ぎ去っていなかった。


 ただの駕籠であるならばよかったが、よりにもよって貴人用の乗物(のりもの)だった。豪華絢爛の装飾から高い財力と身分が簡単に想像できる。担ぎ手と何か話している、簾で姿が見えない貴人を相手に戦々恐々とする。



「ばっか! なにやってんねん!」

「りびー……私に何かあったら、ノエルを頼む」


 追いついたリビーに泣きついて、ひそひそと話し合う。リビーは手厳しかった。


「こんなことで頼まれるなんてうちは嫌やからな!? そこは自分も持っとる高い身分の出番やろ!?」

「だが、今の私は一介の灰身上だ」

「そんなこと言っとる場合か!」


 代美は上流武家出身だが、そうと名乗るのは最終手段だ。一介の灰身上だけでなく、勝手に家を出た身としては不注意で貴人の不興を買ったので権力でどうにかしました、とは恥だし情けなさすぎる。


「ノエル、行くな! 見捨てるなあ!」


 先ほど発見したノエルにも呼び止めて、小声で泣きつく。ノエルは面倒だとしつつも担ぎ手の視線を向けられて観念し、共にいた仁を連れて近づいてきた。

 そこで艶やかな女性の声が通る。


「――怪我はないか」

「っ!? は、はい」


 まさか貴人から声を掛けられると思っていなかったので、わずかに声が裏返った。


「本当にか? どれ、見せてみろ」

「え、あの本当に大丈夫です」


 そう言ったが、有無を言わさない雰囲気だった。逆らってもいいことはないので、渋々乗物に近づく。下ろしてある簾から、嫋やかな指を覗かせた。


「ふむ。見た限りは怪我はなさそうだが」

「あの、実際に怪我はしていなくてですね」

「隠しているかもしれないからな。そうでなくとも驚かせ、恐がらせてしまっただろう」


 心の広い貴人でよかったが、どうにも話を聞いてくれない。転んでさえいないと担ぎ手は知っていて話もしただろうに、なぜこうも心配するのだろうか。

 困り果てていると、運び手によって貴人の乗物が動き出した。よく分からなかったが、話をして満足したのだろうか。


「なんだ、あんたらは」


 尖った声は仁だった。どうしたのかと見遣れば、ノエルとリビー含めて知らぬ男三人に囲まれている。こちらも揃いの布紐(リボン)を首につけている。

 そうしてまた、一つのこと以外の注意が疎かになったのがいけない。


「ご容赦を」

「なっ!?」


 敵意のない男の声掛けだったので、対処が遅れる。

 背後から肩を引かれて、そのまま倒れこんだ。臀部への衝突は速く、痛みは軽い。代美は駕籠に乗せられていた。そしてその駕籠に押し込んで、ノエルが乗ってくる。とても窮屈で、意味が分からない。


 混乱しているうちに、駕籠が揺れ始めた。その動きでノエルに押しつぶされて、「ぐえ」と蛙がつぶれたような声を出してしまう。


「重い!」

「うるさい」

「ノエル! いったいどうなっている!」

「斬らせてくれるって」

「はあ!?」


 そういえばノエルは自分から乗ってきた、と混乱した頭でつい先ほどのことを思い出す。


「このっ、私が常日頃警戒しろと言っているのに何をやっているんだ!」

「常日頃じゃなかった。あと代美に言われたくない」

「うぐっ。私はノエルが乗ってこなければどうにかなった!」


 気勢で言い返しつつ、狭苦しい駕籠の中ノエルが抑え込んでくるのを代美はやり返す。傍からしたら、もぞもぞともがき合っているようにしか見えなかっただろう。とはいえノエルが剣術に一点集中で、代美が広く習い事をしていて柔術を身に着けていたのが勝敗の分かれ目だ。

 ノエルを下にして、ひとまず簾で隠れる小窓から外の景色を見ようとする。駕籠は乗物と似たような作りで内が見えないようになっており、そうでもしないと状況が把握できない。だが確認する前に、駕籠の揺れが収まる。ノエルが暴れるのをやめたせいではない。体の要所を抑え込んだことで、ノエルは負けを認めて大人しくなっていた。


「つきました」

「……出るぞ。駕籠の中にいても、どうにもならない」

「警戒してね」

「当り前だッ」


 拳骨を落として懲らしめてから、代美が先に出る。そこは既に町中ではなかった。


「屋敷?」


 その敷地内にいるらしい。塀に囲まれていて、町のどの部分にいるのか判断できない。

 広く開かれた場所でぐるりと見回していると、女が一人佇んでいる。布紐(リボン)を首につけているから関係者だろう。その他にはあの豪華絢爛な乗物も貴人も、担いでいた人も見つからなかった。その不気味さに警戒を高める。


「どうぞ、こちらへ」


 逃走の道を探すも直ぐには見つけられず、さっさとノエルがついていってしまう。


「この……たちが悪い!」


 警戒して、警戒すべき方に行ってどうする! 警戒が足りなかった代美よりも酷い。


 代美は屋敷に入る二人についていくしかなくなる。不気味さは屋敷の中も同じで、広さのわりに人気が全くないことが、早くもついていくのに後悔した。


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