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欠落少女よ、憧れとなれ  作者: 嘆き雀
第四章 母か姉かの手のひらは愛おしく
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第七十二話 警戒の声掛け

 散々教え込まれた中山道やら奥州道中の道程では、江戸を中心によほどヒトカゲが蔓延っているようで、ようやく何体かのヒトカゲに遭遇した。エレオノーラと打ち合えなくともその実力を見てみたかったが、その機会はことごとく譲ってきたので、ノエルが討伐することになる。腕を鈍らせないのにはいいが、特出したところのないヒトカゲだったので物足りなかった。

 ヒトカゲ以外にも賊と遭遇してもよい荒れようなのだが、灰身上が忍びも含めないでも四人もいるので臆したのだろう。全く遭遇することはなかった。灰の打裂羽織は関所での手形代わりや人々の好意で住まいや食事の提供と実利ばかりだったが、このような不利益もあるらしい。代美たちがいなければ、脱いで襲い掛かかるように仕掛けていたのに。



「結局追いつくことはできなかったな」


 到着地の第二支部を目前に、ノエルたちは町に入っている。先行している本部の灰身上が補給や休息のために立ち寄っている可能性が高いので、合流することを目指してだ。

 そのために門番に代美が尋ねていたが、既に出発した後らしい。


「三日前のことらしいし、こっちは贅沢に馬があるから置いていかれることはないやろ」


 これほどまでに先行している灰身上を気にするのは、第二支部に向かう目的の千体以上いるヒトカゲの討伐に間に合わなくなることを恐れてだ。

 遅れても勝手に斬りこんでいけばいいと思うが、ヒトカゲの数からして作戦は組み立てているはずで、その中にノエルたちは組み込んでもらった方がいい。最初から戦力として数えられていた方が、適切な場所に配置されることになる。訳も分からずヒトカゲを探すことになって、斬り合える回数を少なくしないで済む。


 置いていかれることがないことを知って、そう急ぐ必要がなくなった。時間も時間なので、町で宿泊することを決めてある。


「宿探しはお姉さんに任せて!」


 三匹も馬がいるので時間がかかると思われたが、エレオノーラはそこらの人を捕まえて、聞き込んだ旅籠屋を案内する。道に迷うことなく手続きから馬を預けるところまで、流れるように終わった。


「うちは明日以降の食料の買い出しに行ってくるわ。荷物持ちとして代美は連れていくで」


 リビーから強制的に買い出しに持っていくには重い荷物を押し付けられる。代美の人一倍詰め込んだ荷物の分は、これまたリビーによって仁に押し付ける。あっという間に、二人は出かけて行ってしまった。


「……運ぶか」

「ん」


 リビーの行動に釈然としないものを感じるも、このままでは身動きができないので素直に言われたとおりにするしかない。

 旅籠屋の主人と馬丁を兼ねる男と話をしていたエレオノーラに、仁が一声かけて共に部屋に荷物を置きに行く。エレオノーラは何事も言わずにこりと笑って、リビーの分の荷物を代わって持ってくれる。ノエルが護衛対象であるから、咎める代美の目を盗んで度々甘やかしてくれるのだ。楽ができてとてもよい。


「二室とってあるけど、広さはそう変わりないみたいだよ。女男で分かれるには四人対一人だし狭苦しいかな? お姉さん、移った方がいい? 仁くんも楽しめると思うし」

「断固拒否する」


 仁が怒気を混じりに言い、さっさと自身の分の荷物を置きに行った。


「ざんねーん」


 エレオノーラは艶やかな笑みを浮かべて楽しげだった。全く残念そうでない。


「……一緒の部屋ぐらい、了承すればいいのに」

「ノエルちゃんはまだまだ純粋だなあ。大人の遊びを聞かせてあげられたら学べたけど、あ、今夜にでも実体験してみる?」

「いい」


 遊ぶより寝るか鍛錬した方が有意義だ。

 これまたノエルの意見なしに勝手に部屋割りされ、女四人とぎゅうぎゅう詰めになることになることが決定した。寝相悪く蹴られたり、抱き着かれたりされることがなければいいが。


「憧れ一筋だねぇ」

「……」


 ノエルの憧れについては何も話してはいないし、代美からも話してはいないだろう。

 忍びの卓越した情報収集に感心と警戒をしていると、急ぎ足で仁が戻ってくる。


「ノエル。ちょっと来い」

「私は荷物を見張っておくよ。ごゆっくり~」

「……ん」


 仁は忍びを一瞥して、さっさと歩いていってしまう。面倒くさいことから足が進まず遅れていくと、仁は立ち止まって待っていた。


「なに?」

「もっと離れるぞ」


 先ほどの話で相当忍びに怒っているらしい。なんて面倒くさい。


 早く終わらせてほしくて素直についていくと、仁は近くにあった団子屋を見つけて二本買い付ける。


「夕食が近いからこれだけだぞ」


 仁は二本ともノエルに渡す。ノエルの内心の不満を感じ取ってか、おごってくれるらしい。

 無下にする理由はないので、両手に一本ずつ持って食べる。仁はお互いの性格はあるが面倒な関わりは最低限で、共にいても滅多に話すことはない。


 何か特別な話があるのだろうと、食べながらであれば聞く耳を持つ。仁は顰めっ面で言い聞かせてきた。


「いいか、エレオノーラには警戒しろ。気やすい態度や細々なことを率先してやったりする優秀さと便利さがあるが、全部相手の懐に入るための術だ。内心では何を企んでいるか分からない奴で、何かを話されても鵜呑みにするな。なるべく二人きりにもなるなよ」

「……知り合い?」


 代美もそうだったが、仁のエレオノーラに対する警戒心がとても高い。意外なほどで尋ねてみると、眉間の皺を指でほぐしつつ「とにかく」と思い切りよく話を変える。答えたくないらしい。


「エレオノーラには警戒しろ。怪しい動きをしていれば自分の身の安全を第一に、斬り合ってでも抵抗しろ」

「斬ってもいいの」

「お前は……はあ、身の危険が及べばだぞ。俺が代美に怒られる」

「ん」


 エレオノーラ限定だが、斬ってもいい理由ができた。代美に追及されても、仁のせいにできる。


「意味もなく斬り合うなよ。だが、いざとなったら躊躇するな」

「ん」

「本当に分かっているのかよ…………こうして食べ物につられないようにもするんだぞ」

「つられてない」

「はいはい、そうだな」


 絶対にそう思っていないような態度である。ノエルは最後の二個分の団子を口に含み、噛むことで不満をぶつけて飲み込んだ。



「仁はエレオノーラと一緒に寝て」

「ぶはッ!? 意味分かって言ってるのか?」

「は?」


 意味も何も、そのままの通りである。

 警戒どころか嫌っている節があるエレオノーラと同じ一室に泊まれ。その分ノエルは広く寝ることができる。


「いいか、誤解を招くような言い方はするな。…………大体エレオノーラ相手じゃなくても、知り合いが近くにいる中でするかよ」


 ぶつぶつと何かを呟いている仁は放置しておく。



 警戒、か。


 エレオノーラは忍びだが、忍びである理由だけでなくエレオノーラ自身にも警戒すべきところがあるらしい。エレオノーラと何日も共に過ごしているが、代美も仁も、リビーでさえも警戒は続けている。

 警戒といえば、代美からは仁にも警戒するように言った。他にも風呂屋で出会った第三支部長がいて、つまり合計三人も警戒すべき人物がいる。


 代美はなんでもかんでも警戒しすぎではないだろうか?

 ノエルとしては危険が及ぶという機会があれば、逃さず斬っていくつもりだ。常にその機会を窺っていて、どんなときでも警戒していると同じことであるので、そこまで心配しなくてもいい。斬るといっても第一支部の罪人の件から木丞が恐いので、見るからの好機以外は時間を置くつもりだが。



 エレオノーラへの警戒が高いこと以外、仁は特に気になる点はなかった。

 エレオノーラは荷物に関してはいいのか、旅籠屋からノエルと仁を監視している。目を合わせると、ひらひらと手を振ってくる。今は隠すつもりがなかったようで気づけたが、今後見られている感覚を鋭くした方がよさそうだ。

 第三支部長は持ち場の第三支部から離れてふらふらしているようだが、一度きりの出あいだったので特に思うことはない。


 エレオノーラに監視されていることもあり、ノエルはひとまず旅籠屋に戻ろうとする。その向かい側からのんびりと歩く代美とリビーを見つけた。買い出しは終えたらしい。

 その横を黄金でキラキラに飾った駕籠(かご)が通っていく。前と後ろで四人ずつ担いでいて、その目立ちようはノエルの目も引いた。


 その駕籠は急転回で、代美の前を横切っていく。「うわあ!?」と情けない声が聞こえて、乗物は急停止する。


「……厄介ごとに巻き込まれていそうだな」


 どうにも仁の言うとおりらしい。だが、ノエルには関係ないことだ。


 巻き込まれることを厭って、そ知らぬふりでその駕籠を運ぶ集団も代美も通り過ぎる。だが事前にノエルを見つけられて無理があったようで、代美は慌てて声をかけてきた。


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