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欠落少女よ、憧れとなれ  作者: 嘆き雀
第四章 母か姉かの手のひらは愛おしく
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第七十一話 忍びへの警戒

 欠落した記憶にはヒトカゲとの何かしらの関わりがあり、そのために見張りをされていることは代美から聞かされていた。ただ囮という分かりやすい一言は初耳で、いまいち理解できていなかった忍びの行動が今度こそは理解できた。ノエルは見張りをしている忍びがいたら代美に知らせる、ということしか分かっていなかったのである。


「エレオノーラがずっと見張っていたの?」

「お姉ちゃんだよ。あと護衛って言ってくれるかな?」

「……護衛というには、ノエルを蔑ろに守ろうとしていないようだが」


 代美がぼそりと呟いてる。小さな声だが、エレオノーラには聞こえていたのだろうか。目を細めているが、微妙なところである。


 ……呼び方も囮発言もノエルにとってはどうでもいい。それよりも気づくことができなかった隠密を、誰がしていたのかが気になるところだ。


「私はこれまで護衛をしたことはないよ。今回は高い戦闘能力が必要だからって、私が新たに選ばれたの。というか志願した! 気配とか視線とか敏感って話だったからね。興味が出たの」

「これまでは誰がしていたの」

「同じ忍びだよ。言っても分からないと思うし、詳しくは教えられない」


 確かにそうだ。忍びは情報収集が仕事で、そのために正体を隠している。忍びと公言はしていないし、必要がなければわざわざ情報を明らかにすることはない。


 エレオノーラはよく喋るが、その内容はよくよく選んでいる。追及することを諦め、だが護衛のため忍びではあるが正体を現すことになったエレオノーラについては別だ。ノエルと同等以上の強い相手は貴重なのである。


「エレオノーラ。打ち合おう」


 代美とリビー、仁はまたか、という呆れた反応をする。

 別にいいではないか。憧れをなすために、剣技の質を高めるのに必要なことである。打ち合うだけで済ませているだけ我慢している方だ。


 エレオノーラは笑顔を浮かべる。


「やだ」


 表情からして了承してくれると思ったのに。なぜ。


「お姉ちゃんって言ってくれないもん」

「お姉ちゃん」

「うおう。これほどまでに感情のないお姉ちゃんは初めてかも」

「打ち合う?」

「残念だけど、それはできないんだよねぇ。忍びは秘密が多いの」


 呼んだのだから少しぐらい打ち合ってもいいのに。

 無理やり打ち合いになるように仕掛けようと思ったが、本人にやる気がなければ手抜きをされる。仁がそうだったので、学習していたノエルは打ち合うことを諦める。エレオノーラは自ら姿を現す前は、ノエルが見つけられないぐらいに隠密に優れていて期待が高かったため、それだけ不機嫌になった。


「とりあえず、聞きたいことは以上かな?」


 エレオノーラは全員を見渡す。ノエルを弄んだことに対して全く申し訳なさそうにしておらず、出会ってからずっと明るい雰囲気を保ち続けていた。


「いないみたいだね。私からは一つだけ聞いておくよ。第二支部に行くことを、やめる気はないんだよね?」

「やめない」


 エレオノーラが打ち合ってくれなかったため、いじけて食い気味に答える。ヒトカゲを思う存分斬ることができる機会を逃すつもりはない。


「……ノエルの身について安易に考えていたことは反省するが、話をした以上ノエルは一人でも第二支部に行くだろう」

「そうだろうね。そんなわけで私は護衛として一緒に行動させてもらうよ。さっき言った通り雑用もなんでもできるから、遠慮なく頼んでね」




 話をしているうちに必要な小休憩は得られたので、エレオノーラを加えて道程を進めていく。

 エレオノーラはノエルたちを追いかけるために同じように馬に乗ってきていたので、遅れることはない。黒鹿毛(くろかげ)で、その中でも漆黒と色目が強い珍しい馬だった。認めた者にしか乗せないという扱いの難しい気性をしているが、その代わりにノエルたちの馬より賢く、駿馬とよく走れる。


「ヒトカゲにも怯まないで踏み潰してくれるんだよ。凄いよね!」


 そんな馬がよく懐いているエレオノーラと打ち合えなかったのが、本当に惜しい。



 先行している本部の灰身上に追いつくために、少しでも先に進めることでときには野宿することになる。エレオノーラは手際が良く気もきくようで、警戒を続けているらしい代美を唸らせていた。


「リビーちゃんは第二支部出身で、実力を認められて本部に異動にしたんだよね。元はリビーちゃん自身が願い出たって聞いてるんだけどなんで? 若くして実力はあるみたいだし、第二支部は物足りなかったのかな?」

「大体そんな感じや。物足りないことはなかったんだけどな、ちょっと意地張ったりして、色々や」


 食事のために熾した火を全員で囲んでいる。

 エレオノーラは誰に対しても気軽に話しかけるが、専らリビーが相手となった。代美はちょくちょく言葉を交わすものの短く途切れて、仁は元々仲良く話をする性格でない。

 リビーは話ができる性格なので、盛り上がったりはしないが長続きした。忍びの立場により、リビーを含め全員がエレオノーラに気を許すことはない。ノエルも打ち合ってくれなかったことが尾を引き、無言でいるか最低限の返事をするぐらいだった。


「その色々もそうだし、第二支部は詳しくないから話が聞きたいなぁ。これから行くところだし、皆も興味あるよね!」

「そうだな。リビーの小さい頃とか聞いてみたい。勿論、差し支えなければだが」

「あー、うちは親は顔も知らんけど、第二の皆が親代わりに家族になってくれたからな。暇つぶし程度には話したるわ」


 話の中心がリビーなので、女性陣はわいわいとはしゃいでいた。ただノエルは仁と同様に黙り込んで、自然と耳に入ってくる音を言葉として認識する。


「二歳か三歳か幼すぎて記憶に残らん頃に、第二の灰身上に拾われたんや。親はどこにもおらん状態で、日本じゃうちの金髪は物珍しいからな。人攫いにあったところを助けてもらった」

「それは……運がよかったな」

「うちもそう思うわ。しかもその人は今では支部長になんやで。なかなかこんな縁には巡り合わんやろ」

「確か第二の支部長は女性だっけ?」

「そうや。愛情深い、尊敬できる人やで。その分色んな人に頼られて忙しくしとったからな。第二の皆に育てられることになって、特に姉と慕える人もおった。その姉が陸奥辺りにはない別の方言を使っとって、うちも真似してな」

上方(かみかた)語だね」

「ああ、それや。忍びってのはなんでも知っとるんやなあ」

「それが仕事だからね! 情報収集はお手の物だよ。他にもなんでもできる優秀なお姉さんだし!」

「はいはい、そうやな。それで……どこまで話したんやっけ」

「上方語のお姉さんのところまでだな」

「ああ、そうやった。姉は年が近くて、灰身上を目指して鍛錬し始めたのを、うちは一人じゃ寂しいからって一緒に鍛錬してな。幸い才能もあったから、うちもこうして灰身上になって――」


 本部の灰身上を追いかける強行で、野営でそれほど量を多くとれる夕食ではない。話によってあまり手がつかず女性三人と比べて、ノエルは早々に食べ終わった。

 このあと交代で不寝番をすることになるが、食事中で片付けもまだなので、鍛錬として素振りをした。そう離れたところに行かなければ、代美はいつものことだと許してくれる。



 昔話によって多少打ち解けたのか、その日の夜から代美はエレオノーラへの警戒を下げていた。残念なことに夜は何の襲撃なく次の日を迎え、相乗りする代美からピリピリした雰囲気がなくなっている。

 馬は敏感にそれを感じ取っていたため余計な疲れを感じることがなくなり、緊張なくノエルと代美を乗せてくれた。


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